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討伐クエスト

 さて、今日は仕事のある日だ。

 我がフェンリル・ギルドもDランクとなった。


 Dランクともなれば、仕事がひっきりなしに入ってくる、――といいたいところだが、そうでもない。


 まだフェンリル・ギルドはこの街で十分認知されておらず、依頼の数は少ない。


 協会が手配する公認クエストはいくらか舞い込むが、割の良い個人クエストはそこまで舞い込まない。


 なので本日も公認クエストを受ける。

 本日受けるクエストは、



「迷宮第五階層に潜む暴れ猿を討伐せよ」



 というものだった。


 なんでも最近、第五階層に暴れ猿が大量に現れ、周囲の果実を食い散らかして困っているのだそうな。


 その果実は霊薬の素材によく使われる。


 貴重な錬金術の素材が取れないと、錬金術師ギルドからささやかなクレームが届いているとか。


 報酬は金貨30枚と安いが、暴れ猿の素材を持ち帰ればもとはとれるだろう。


 それにフェンリル・ギルドに入団した新メンバーの肩慣らしには丁度いいはずである。


 僕はカチュアとの待ち合わせ場所、近所のカフェに向かうと彼女にその旨を伝えた。


 エルフの娘である彼女は、大げさにうなずき、


「まあ、大魔術師のあたしには簡単すぎるけど、なにごとにも肩慣らしは必要よね」


 と、冗談めかして威張っていたが、すぐに言葉を続ける。


「――ところでクロム君、あたしはこぶつきとバツイチとかは気にしないタイプだけど、こんなに大きな娘がいたの?」


 と、エリカを見る。


「そんなわけないでしょ。彼女はカレンの妹だよ」


「あれま、たしかにカレンちゃんに似てるね。カレンちゃんをそのまま小さくした感じだ」


 僕と同じ感想を漏らすカチュア。しかし、エリカは気にした様子もなく、ぺこりと頭を下げる。


「いつも姉がお世話になっています。妹のエリカです」


「あー、可愛い。お行儀もいいし、お人形さんみたい。クロム君、この子、うちに連れて帰っていい?」


「駄目だよ。彼女はまだ未成年なんだから」


「残念」


「それに彼女はもうじき、実家に帰るんだ。そこで報告をしてそのあと、どこか貴族の家に奉公に行くらしい」


「はい、実はもう奉公先が決まっていまして。姉の報告を終えたら、一族の本道を歩むつもりです」


「報告?」


 と眉をしかめる。

 僕はカチュアが余計なことを言わないようにするため、諸事情を彼女に話す。


 彼女のエルフ耳にごにょごにょとすると、彼女はおかしそうに、


「そんな理由があったのね。まあ、カチュアお姉さんに任せなさい。悪いようにはしないから」


 と、胸を張った。


 トラブルメーカーの彼女が断言するのは不安であるが、世の中、なるようになるしかない。


 彼女も大人、無体なことはすまい。

 という前提で話を始める。


「ところで、エリカちゃんはなんでここにいるの?」


「それはわたしがお願いしました。実家に帰る前に英雄であるクロムさまの活躍を見てから帰りたいと言ったのです」


「だから比較的楽なクエストに同伴して貰うことにしたんだ」


「暴れ猿はそこまで弱くないけど」


「でも、今の僕とカチュアなら楽勝だろう」


「そうね『英雄』のクロムと、『大魔術師』カチュアのコンビならば余裕のよっちゃんね。100万パワーにコンビで2倍、いつもの2倍張り切って、3倍の回転を加えれば、1200万パワーになるわ」


 よく分からない理論だが、まあ、相棒がいるのは心強い。


 彼女が後方にいるだけで背中は安心して任せられたし、支援魔法の援護は有り難い。


 それに彼女の攻撃魔法は貴重な戦力となってくれるはずだ。

 それに僕も最近はなかなかの成長を遂げている。

 第五階層にいる魔物には後れを取らないだろう。

 そう言った理由でエリカの同伴を許したのだが、エリカは興奮気味だった。

 なんでも迷宮にもぐるのは初めての経験らしい。

 間近でモンスターを見たこともないとのこと。


 なんでも王都からくるときも屈強な護衛のいる乗合馬車に乗ったので、安全快適にやってこられたそうだ。


 そう言った意味では今回のクエスト同伴は、彼女の人生で初めての冒険となる。

 さて、その冒険はどのような結末を迎えるか。


 無論、彼女の安全には最大限の配慮をするが、良い思い出になってくれることを祈るばかりである。


 ちなみにエリカはメイド服を着ている。

 軽装だ。


 ダンジョンにメイド服とは不釣り合いで、入管所や冒険者のたまり場で奇異の目に見られた。


 ただ、彼女は戦力外というわけではない。

 その身体に似合わぬ大きなリュックには様々な食材が詰められていた。


 食事時になると彼女は手際よく料理の準備をし、僕とカチュアに美味しい料理を振る舞ってくれる。


 それもそれぞれの趣味に合わせた旨い料理を。

 僕には肉たっぷりの焼きめし。

 カチュアにはキノコたっぷりのパスタ。


 言われるまでもなくそれぞれの嗜好に合わせてくれるのは、さすがはメイドの名門一族の出であった。


 カチュアはすっかりエリカが気に入ったようで、熊の人形のように彼女を抱きしめると、


「やっぱり、この子欲しい」


 と、だだをこねた。


「駄目です」


 僕は言いきると、ジュノシー家のメイドの平均的な賃金を教えた。

 その言葉を聞いて目を丸くするカチュア。

 当然だ。その給金はとても一介の冒険者が支払えるものではないのだから。


 カチュアはそれでもなんとかならないかしら、と、ぶつぶつ唱えながら、迷宮の階層を下っていった。

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