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8/18

~7~

PV2500いきました。

本当にありがとうございます><




「こ、こんなに!?」


 ここは帝国ギルド本部の受付口。受付嬢のアリサは、リディのギルドカードを確認した瞬間、思わず驚きの声を上げてしまった。

 何しろゴブリン×六二匹、コボルト×一一八匹、森狼×一九匹、極めつけはオーガ一匹と討伐内容が記されていたのだ。

 確かギルドカードを発行して三日しか経っていないはずだ。

 Fランクの駆け出しが倒せるような魔物と数ではない。

 しかもDランク上位の魔物であるオーガを討伐とはどういうことだ。


 余談だが、ギルドカードは討伐した魔物の名前と数が自動的に記録される仕組みになっている。

 窓口に備え付けられている水晶に翳すと、討伐した魔物の一覧と数が表示され、そして討伐内容がデータクリアされるのだ。

 この記録魔法は最上級の秘密事項で、歴代のギルド総長以外どのような魔法なのか一切不明となっている。


 アリサはふと隣に立っている白髪の少年の姿を見た。


「もしかして、レイダスさんがサポートしたの?」


 確かこの白竜はまだ三〇歳程度と若い竜だ。成竜であればAランク相当だが、子竜でもBランク相当の力は持っているはずである。

 Bランクであれば、これだけの数の魔物を討伐することは可能だろう。

 しかしレイダスは「いや、我は見てただけである。これらはリディが倒したものだ」とアリサの言葉を否定した。

 どこか納得できなさそうな表情をしている少女を見る。


「……信じられない」

「私……いや父はデビュー戦で、Cランク上位のアイアンゴーレムを倒したと聞く。それに比べれば私などまだまだ未熟」

「オールドベルトさんは人間やめてましたから」

「ちょっとまて! やめたつもりはない!」

「あ、それと聞きました。オールドベルトさん、リディアルさんのお父さんのお話」


 妙にしんみりとアリサが話し出した。

 ああ、隊長が発表したのか、と納得したリディ。


「上級悪魔と相打ちになったなんて。あの人がそんな簡単にお亡くなりになるなんて……今でも信じられない」

「初めてあの人と会った時、彼の大きな姿を見て、つい私泣いたのよ」

「ええ、それから二年の間だったけど、よく私に話しかけてくれたのよ」

「一度帝都に魔物の大群が襲ってきた事があったのね。その時彼は第三隊に入ったばかりだったんだけど、最前線でそこにいるレイダスさんと共に縦横無尽に魔物を倒してくれて、それでこの帝都は助かったの」

「まさしく英雄だったわ、とても感謝していたのよ」

「そんな彼が……うっ」


 アリサは話しながらうつ伏せになっていた。

 本人リディは微妙な表情だ。

 いやそこまで美談にしなくとも、でもこれだけ市民に感謝されている事は正直嬉しい。

 というか恥ずかしいからそろそろやめてくれ、そう思ったリディはアリサの会話を断ち切った。


「それで第三隊の副隊長は誰になったのだ?」

「うっ、えっぐ……ひっく……ご、ごめんなさい。一番悲しいのはあなたよね」


 いや、別に悲しくないが。

 そう言いたかったが押さえ込んだ。これでも多少は空気を読めるのだ。

 一方アリサは涙を拭って「確か銀の風と聞きました」と涙声で言った。


「ほぅ、エリーゼか。まあ順当だな」

「エリーゼさんともお知り合いなのね」

「う、うむ。たまに我が家に来ていたしな」

「そうですか、っとそうだ。魔物討伐だったね。これからランクアップの手続きをしますので、暫くそちらでお待ちください」

「おお、ランクアップできるのか」

「これだけの討伐数を考えれば、Dランク中位までは上がるわ。正直異例よ?」

「そうだったのか、以前は……いや父は確かFからCに上がったと聞いたが、それよりは落ちるのだな」

「あの人は異例中の異例だったから。それでもリディアルさんも異例よ? 私が受付嬢してから今まで、いきなりこれだけランクアップした人なんて二〇人もいないわよ。しかもたった三日で」

「父に負けぬよう頑張らねばな」

「うん、オールドベルトさんの名に負けないよう頑張ってね」


 アリサが審査を上役に投げている間、リディとレイダスは待合室でのんびりギルドの窓口の風景を見ていた。

 帝都に在籍している冒険者は帝国内で一番多い。いかにも初心者という人から、そろそろ引退間際なベテランまで様々だ。


 そんな中、魔物と戦って怪我を負っている人も中にはいる。そして、怪我をしているものは初心者に多い。Fランクの駆け出しではなく、Eランクの初心者だ。

 冒険者を始めて最初はやはり臆病になっているからか、必要以上に無理をしない者が多い。

 しかしランクが上がると自己を過信するケースが多くなり、結果怪我を負ったり、最悪死亡するケースが後を絶たない。

 しかしそうして生き残った者たちが、経験を得て強くなっていくのだ。

 ある意味一種の儀式とも言える。


 今日も足を失って気絶している仲間を介護しつつ「誰か回復魔法使える人はいませんか! 助けてください!」と叫んでいる初心者風のパーティがいる。

 しかし誰も声はかけない。

 回復魔法を使える人はそう多くないし、また自己責任で終わるからだ。


 病院にいけば治療はしてくれるが、初心者に払えるような額ではない。

 道具屋にいけば回復ポーションもあるが、さすがに腕や足を切られたものに対して効果は薄い。

 一応ギルド本部には、職員として回復魔法を使えるものが数人居ることにはいる。しかし彼らは万が一という時の為に動くことはない。

 例えば街が襲われた、重要人物が襲われて怪我を負ったなど、ギルド総長が認めた場合に限り回復魔法を使う。

 魔力は有限なのだ。初心者の怪我を治療して、いざというとき魔力が尽きた、では話にならない。


「助けてやるか?」


 そんな彼らを見てリディはレイダスに話を振る。レイダスは興味なさそうに「リディに任せる」とだけ言った。

 確かに面倒ごとに首を突っ込むのもどうかと思うがな、そう思いつつリディは彼らの前にたった。


「お主ら、手助けはいるか?」


 そのパーティは男女の剣士二人、女の弓士、男の魔術士の四人構成で、足を失っているのが男の剣士だ。

 構成自体は悪くない、ただ経験不足なだけか、そう一目見て判断したリディ。


「あ、あんた回復魔法使えるのか!?」

「お願いします! どうか助けてください!」

「何でもしますからお願いします!」


 そんな慌てふためいている仲間を無視して、リディは男の剣士の様子を見る。

 おそらく回復ポーションを使って止血はしたのだろうが、しかし明らかに足りない。

 今も徐々に血が流れている。

 気がつかなかったが、腹部からも血を流していた。食いちぎられたような傷痕だ。

 おそらく森狼にでも襲われたのだろう。

 多分このままでは出血多量で死ぬ。


召喚コーリング!」


 リディが両腕を左右に広げ、召喚の言霊を唱える。

 淡い紫色の魔方陣が両腕の先に浮かび上がり、そして両腕を上に交差するように動かしながら呪文を唱える。


「我が声を聞きし木に宿る癒しの精霊よ。その姿をここへ降臨せよ」


 リディの長い蒼い髪が風に靡いたかのように軽く浮き上がる。そして両腕が頭上で交差し、魔法陣が重なり深紅へと染まる。

 魔力が一気に吹き出し、風となって周囲に散る。

 一瞬でギルド内が騒然とする。


「お、おいあれ召喚術だ」

「しかも何だあの召喚方法は? 見たことがないぞ?」

「何あの子? 一体どこのパーティに所属してるのかしら」

「……きれい」


 周囲の喧騒を無視しリディの呪文が完成した。


「サモン・ドライアード!」


 深紅の魔方陣から現れたのは、誘惑と癒しを司る木の精霊ドライアード。その姿は羽の生えた美しい裸の少女で、手の上に乗るくらいの小さいサイズだ。

 回復魔法が使えることから、召喚術士にとって割りとポピュラーな精霊である。

 しかし小さいがBランク下位相当の強さを持っており、呼び出すには非常に難しいとされている。


「ドライアードよ、この者を癒せるか?」


 リディの頼みに軽く頷くドライアード。

 そして彼女は、両手を男の剣士の腹部に翳した。小さな手の中に緑色の光が生まれ、次第に血が止まっていく。

 数秒もしないうちに完全に血が止まると、足のほうも同じように治療を行った。


 これでいい? という感じで、軽く人差し指を自身の唇へと当て首を傾げるドライアード。

 ……あざとい。さすが誘惑の精霊だな。


「ああ、ありがとうドライアード、よくやってくれた。またよろしく頼む」


 そんな事は顔に出さず、礼を言うリディ。

 ドライアードはそんなリディを見て満足げに「えっへん」という感じで胸をそり、そして周りにいた人たちに、にっこりと笑顔で手を振ったあと消え去った・


「俺、ドライアードなんて初めて見たよ」

「かわいいなぁ」

「ああ見えてBランク下位の精霊だよな」


 周りの声を無視したまま、リディは先ほど治癒したパーティに話しかけた。


「止血はした。ただかなり出血していたから、数日はゆっくり休んであとたくさん飯を食わせることだ」


 呆けたように消え去ったドライアードとリディを見ていた三人は、慌ててリディに駆け寄った。


「あ、ありがとう! 助かった」

「あなたは彼の命の恩人です!」

「必ずお礼は致します。お名前教えてくれませんか?」

「別に礼などいらん」

「いえ、是非とも教えて下さい」


 しつこく食い下がる女の弓士にリディは冷たく「そんな事より、早くその男を宿屋なりで休ませておけ」と言った。

 彼らは怪我をした男を抱えて、何度もお礼をリディへ伝えながらギルドから出て行った。

 去り際に「私たちは悠久の瞳というパーティです。絶対またお礼させてください」と言うのを聞こえなかったふりして、レイダスの元へと戻るリディ。


 待ち受けていたのは、たくさんの冒険者だった。


「あ、あんたすごい高ランクの召喚術士だな」

「どうだ? 俺らBランク下位パーティ竜の顎にこないか」

「あなたかわいいわね~、ぜひお姉さんと一緒に良いことしない?」

「ぼ、ぼくと付き合ってほしいんだな」


 何やら怪しい誘い文句も聞こえたりする。さすがのリディもウンザリした様子だ。


「やかましい! 散れ!」


 そう叫ぶものの、誰も聞いてない。そして見知らぬ男の手がリディの肩に触れようとしたときだ。


「ふんっ!」


 つい反射的に腕を掴み、一気に投げてしまった。

 投げられた男は盛大に休憩室の机や椅子をなぎ倒して、壁に激突した。


「なっ、何しやがるんだ!」


 投げられた男の仲間だったのだろう、Cランクくらいの冒険者の男四人が乱暴に言い放った。


「勝手に触れようとしたからだ。それにお主ら情けなく感じないのか? いい歳した大人が私のような少女に向かって言いたい放題。恥を知れ!」

「な、なんだとぉぉ!」

「てめぇいい気になりやがって!」

「いくらすげぇ召喚術使えたとしても、この距離じゃ詠唱なんてまにあわねぇぞ!」


「レイダス!」


 そう叫んだ瞬間、リディの隣にいつの間にか白髪の少年が立っていた。


「やれやれ、リディは騒々しいな。よほどトラブルが好きと見る」

「こいつらにはお仕置きが必要だ。死なない程度にぶっ壊せ」

「ふむ。ここ数日間ずっとリディの様子を見てただけだったからな。我もそろそろ戦いたくなってきた」


 一見すると線の細い美少年のレイダスだ。男たちは鼻で笑い飛ばした。


「はっ、そんなひ弱そうなガキがいきがるなよ!」

「こいつ半殺しにしてから、その女をひぃひぃ言わせてやるぞ」

「ははっ、そいつは楽しそうだ」


 他の冒険者は傍観している。ここに居る冒険者は殆どがD、Eランクだ。

 Cランクに見える男三人には勝てないと思って、心配そうに見ていた。

 また先ほどBランク下位のパーティと言っていた男は、リディたちの実力を測るチャンスと感じているのか、様子見だ。

 レイダスはリディの前に出ると、軽く腕を上げた。次第に瞳が赤く染まる。

 まさに一触即発状態である。


「そこまでっ!」


 そんな時、大声が休憩室に響いた。

 次の瞬間四十歳くらいの痩せた男が、リディと男たちの間に立っていたのだ。

 リディやレイダスですら殆ど気がつかなかった。


「ギルド総長……」


 誰かがぽつりと呟いた。

 元Aランク中位の冒険者であり、現帝国ギルド本部の頂点に立つギルド総長。

 名をアグノス=フォン=アーフェ、また覇王の異名を持つ剣士。

 アーフェ帝国の国名を名に持つ、現皇帝サウスター=フォン=アーフェの従兄弟でもある。


「お前ら、ここをどこだと思ってる! 喧嘩なら外でやれ!」

「ひっ」

「すすす、すみません!」


 男たちに向かってアグノスは一喝した。凄まじい威圧だ。

 まさにレベルが違った。

 男たちは投げ飛ばされた仲間を回収すると、慌ててギルドから出て行った。

 それを見届けたギルド総長は、今度はリディたちの方を見た。


「さて、お前たち二人はわしの部屋まで来るがよい」


 有無を言わさない迫力である。リディたちの返事を待たず、そのまま二階へと続く階段へと歩き始める。

 二人は互いに顔を見合わせ、仕方なくギルド総長の後をついていった。




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