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6/18

~5~

また少し短かったです

会話を伸ばしても良かったんですが、はよバトルいけよっ という心の声がきこえたもので←


 アーフェ帝国の帝都ゲイルハーツ。人口百万人を擁する帝国内最大の都市である。

 二十四時間眠らない都市まちでもあり、定期的に近衛第二隊が巡回をして、治安もかなり良い。

 東西南北の門をそれぞれ結ぶ、メインストリートは深夜でも人通りが多い。

 その道が交差する町の中央に冒険者ギルドの建物がある。


 冒険者ギルドは、国に属さず国を跨いで活躍する冒険者を支援するためのものである。

 この為、基本的には皇帝や国王といったトップの命令でも拒否する事が可能である。

 またギルド本部は各国の首都に一つずつ置かれ、互いに魔法水晶と呼ばれる、現代で言えば一種のテレビ電話で通話が可能になっている。

 ギルド本部のトップはギルド総長マスターと呼ばれ、各国に一人ずつ在籍している。

 ルール上、ギルド総長は種族や出身地関係なく、実力と人望があれば誰でも就任可能なのだが、政治的配慮によって歴代の総長は、帝国の本部であれば帝国出身、それも貴族やそれに近い立場のものが就任している。


 さて、帝国ギルド本部の建物はこの大陸でも最大の大きさを誇っており、特に地下の訓練所は冒険者になったならば一度は見ておけ、と言われるほど設備が整っている。

 そんなギルドには一階に窓口がずらりと並んでおり、それぞれ受付嬢がにこやかに対応している。

 そしてその窓口の中央は、受付嬢の中でも一番勤続年数が長く実力のあるものがつく。


 アリサ=マイクル。二十九歳の女性で、十二歳の頃から受付嬢をしているベテランだ。

 途中二年ほど結婚、出産で休職をしている。

 冒険者たちの悩み事相談、荒事の仲裁、初心者へのサポート、町の案内、ギルドへの依頼受付から依頼割り振りなど、様々な受付仕事をこなしている。

 若い冒険者からはおっかさん、ベテランからも姉御、同じ受付嬢からお姉さまと呼ばれるほど信頼が厚く、帝国ギルド本部の人気者だ。

 また長年荒くれものたちを相手にしてきた経験もあり、いざという時の度胸もある。


 そんな彼女は今日も受付の仕事をてきぱきとこなしていたのだが……。


「ようお嬢ちゃん。久しぶりだな」


 そう呼ばれたアリサは一瞬顔をしかめた。

 お嬢ちゃん。

 ベテランの彼女をそう呼ぶ者はかなり少ない。それこそアリサ以上に長年冒険者をやっている人物くらいだ。

 そんな人物から声をかけられたということは、面倒事かと邪推したものの、受付嬢の責務を忘れてはいない。

 瞬時に笑顔へ戻し、自分に対して声をかけてきた人物を見た瞬間思わず叫んでしまった。


「あなたのほうがお嬢ちゃんじゃない!」


 そこには十二~三歳くらいのとても可愛らしい、蒼い長い透き通るような髪を鬱陶しそうに手で払いのけている、小柄な少女が立っていた。

 リディである。


「お、おっとそれはすまぬ。確かに私のほうがそう見えるな」

「確かにも何も歴然としてるわよ。ってあなたどこかで会った事ある? 何となくその話し方に記憶あるんだけど……」


 そう、リディが冒険者としてこの帝都にきた一年後に、当時十二歳のアリサが受付嬢になったのだ。

 初めて会った時、泣かれた事をリディは思い出した。

 仕事を始めたばかりの十二歳の少女の目の前に、今まで見たこともないほど屈強な大きな男が、低い声で「お嬢ちゃん、何か良い仕事あるか?」と言ってきたのだ。

 一瞬で涙目になった少女相手にリディは慌てたものだ。


「い、いや。初めてだ」

「確かにあなたの顔に見覚えはないけど……って、どうしたの? ここに何しにきたの?」

「ああ、冒険者登録をしにきたのだ」

「登録に?」


 一応冒険者登録は十二歳から可能になっている。

 冒険者の仕事は何も魔物の討伐だけではない。街中の店の手伝いや掃除、配達などの雑多なものもある。

 そんな依頼は子供でも可能だ。

 しかも若いうちからお金を稼ぐ事の大切さも覚えられることから、親も容認しているケースが多い。

 この子もそのパターンの一つだろう、と納得をしたアリサは登録用紙をリディに渡した。


「じゃあここに名前と年齢、住んでいるところ、パーティの有無、クラス、あと出来ればお父さんかお母さんの名前も書いてね。あっと、字は書ける?」

「問題ない」

「へぇ、あなたの歳で字が書けるのね」


 貴族の子供であれば勉強している事は多い。しかし平民になると金銭的に余裕の無い人も多く、識字率はそこまで高くはない。

 それでも帝都だからこそ、であり田舎のほうならば、村に一人しか読み書きできる人がいないところもある。

 ちなみにリディは召喚術を覚える際、文字を覚えた。


 貴族の子かしら。

 そう思いながらリディが用紙に書いているのを眺める。

 あまり書きなれていないのだろう。四苦八苦している。

 ふと一階にある休憩スペースが視界に入った。

 通常パーティを組んでいる冒険者は、一人が受付に並んで他の人は休憩スペースで待っている。

 今日は時間もすでに夕方近くであり、ちょうど依頼を終えた冒険者たちがたくさん待っていた。そんな中、白い髪の少年の姿が目に映ったのだ。

 あれ、あの少年。もしかして!?


「書いたぞ」


 そんな時、前の少女が登録用紙を渡してきた。

 内容を確認する。リディアル=ティフォース=シュタイナツ、十三歳。拳闘士。

 拳闘士って、こんな少女が?

 それよりも名前に気になる部分を見つける。


 シュタイナツ。


 古い記憶が蘇ってくる。

 見た目は非常に怖かったけど、あたしが泣いてしまったとき慌てふためいてた大きな男の人。それが意外でちょっとびっくりしてしまった。

 どう扱っていいのか分からなかったのだろう。

 それからその人の事を受付嬢の先輩から聞いた。

 帝国でも数人しかいないAランク冒険者の一人。白竜を従えた拳闘士兼召喚術士。

 名はオールドベルト=シュタイナツ。

 そして白髪のちょっとカッコいいお兄さんが、よくオールドベルトさんと一緒にいた。

 先輩がこっそり「あの白髪の美少年が、オールドベルトさんの契約している白竜、レイダスさんよ」と教えてくれた。

 それからたまにだけど話をするようになったっけ。

 でも何といってもAランクなのだ。受付嬢を通り越して総長や副総長と直接話す事が多かったのが、少し残念だったな。

 そしてあたしが受付嬢になってから、二年後に国にスカウトされ冒険者をやめてしまった。噂では近衛隊の第二隊副隊長になったと聞いたが。


 しかしこの子供は、まさか。

 そして休憩スペースのほうへ視界を移し、先ほど見かけた白髪の少年を今度はじっくりと見た。確かにオールドベルトさんといた人だ。

 再び目の前の少女へと視線を戻す。

 結婚している、と聞いたことは無かったが、もう四十歳手前くらいの年齢だ。これくらいの子供が居ても不思議じゃない。


 先ほど用紙に書かれた拳闘士という文字。あのオールドベルトさんの子供であれば納得だ。見た目に騙されてはいけないだろう。

 また契約獣である白竜をお供にしているのは、きっと心配だったのだろう。


「まさか、あなたオールドベルトさんの……お子さん?」

「そんなものだ」

「そうなのね。しかしこう言ってはなんだけど、リディアルさんってお父さんに似ていないよね。口調はそっくりだけど」

「う、うむ。そうか、似ていないか」


 なにやら残念そうな表情なリディを見て、あわててフォローする。


「で、でもほら目の色は同じだし!」


 エメラルドグリーン。


 エルフ族は緑色の瞳が多い。が、人間はどちらかといえば青色、金色、灰色が多い。

 しかし居なくはない。先祖にエルフ族の血が混じっている場合は、まれに隔世遺伝で緑色になるケースもある。

 リディ自身の知る限りエルフの先祖はいないが、もっと遥か昔に交わっていた可能性は高い。


「そういえば、オールドベルトさん……お父さんは元気かしら?」


 そう聞かれ答えに窮するリディ。

 しかし、自分は単に身体が変わっただけで元気だ。それは間違いない。


「あー、た、多分元気かと」

「まあ、あの人が元気じゃないなら、それは天変地異の前触れだしね」

「それは酷いぞ」

「お父さん好きなんだ。怖そうに見えても何だかんだで優しいもんね」

「出来るだけ女人には優しくするよう心がけておる」

「え? いやリディアルさんじゃなくて」

「あ……そ、そのように父から伺っている」

「変な子ねー」

「そんな事より登録は終わったのか?」

「はい、これ確認してね」


 アリサは受付嬢のベテランである。会話しながら登録作業をするのはお手の物だ。

 そしてアリサはリディに真新しいギルドカードを渡した。


「おおっ、懐かしい。Fランク下位か」

「見たことあるの? ひょっとしてお父さんのを見せてもらったのかな?」

「そうだ。それにしても私……じゃなく父の持っていたカードは金色だったけど、これは銅色なんだ」

「銅色がEとFランク、銀色がCとD、金色がAとBね」

「ほう、色によってランクが分かれているのか。いつの間にやら色が変わっていたと思ったら、そういう訳だったのか」


 Aランクまで上がった人のセリフとは思えない。


「なんだかリディアルさんって、元冒険者が久々に復帰してきたような感じよね。初めてここへ来た人は、物騒な人の多さに驚いて萎縮するのに、あなたはその雰囲気に馴染んでいるもの」

「そ、そそそれは、父で慣れているからだっ」

「確かにオールドベルトさんの迫力に比べれば、今ここにいる人たちは赤子みたいなものか」

「じゃ、じゃあ私はこの辺で!」


 あまり長居するとボロが出ると思ったリディは、早々に退散することにした。


「あら、もう行くの?」

「ああ、早く戦いたいのだ」

「その前にちゃんと依頼受けていってね。依頼ないまま魔物倒しても、報酬は出ないわよ」

「大丈夫! レイダスが依頼票持っているから」

「そう? じゃ、頑張ってね。あなたの未来に栄光あれ」

「あなたと共に栄光あれ」


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