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~14~


「そっちへ二匹行ったのだ!」

「はいっ! アイスサークル!」


 リヴァの合図で馬車の上に立っていたシーラが、氷円の呪文を発動させた。

 突然足元が凍りつき、転倒するコボルト。

 氷円は氷系の初級魔法で、敵の足元に氷を張り巡らせ動きを鈍くする。使い勝手が良く、駆け出しの魔術士のメイン魔法の一つになっている。


 そして、転倒したコボルト二匹の間にリヴァが飛び込む。


「はっ!」


 魔力を籠めた手刀をコボルトの喉元へと繰り出す。

 血しぶきが舞い散り、一匹のコボルトの息の根を止める。

 それを見たもう一匹がこれは勝てないと思ったのか、起き上がって逃げ出した。


「弱いもの苛めになるが、これも弱肉強食の定めなのだ」


 そしてリディは右拳を脇に置き、腰を据えた。と、同時に右拳へ魔力を籠める。

 見る見ると白い魔力が集まってくる。

 そして、それを逃げ出したコボルトの背中へ打ち出した。


「魔力弾!」


 魔力の塊がコボルトに見事命中し、そのまま身体を貫いて飛んでいった。

 崩れるように倒れるコボルト。

 それと同時に、馬車の反対側から凄まじい冷気が伝わってくる。

 レイダスの氷の息吹だ。

 コボルト六匹が、まとめて氷漬けになっているのが見える。


「よし、終わりなのだ」


 にっこりと笑顔を見せるリディ。しかし服は血で赤く染まっている。

 まるで狂気に犯されているかのような少女であった。


「しかし意外と敵が多いのだ」


 そう、リディ達が敵に襲われたのはこれで五回目である。まだ帝都を出て三日しか経ってないにも関わらずだ。

 一日に二回ペースで襲われていることになる。


「でもシーラのいい訓練にはなるのだ」


 先ほどの魔力弾の威力に幾分不満を持ちつつ、リディが言う。シーラは馬車の上から降りて、リディに近寄った。


「何となくコツは掴めたような気がしますわ」

「習うより慣れろ、が一番なのだ」

「それは他人に教えるのが下手な人の言い訳ですわ」

「シーラちゃん~、それはちょっとひどいよ~」


 馬車の窓から顔を出したエリエルが、突っ込みを入れた。

 手にはマシュマロを持っている。


「エリエル様、それはお行儀が悪いですの」

「ましゅまろが~美味しいのがいけないの~」

「そんなに食べられますと、太りますわよ」


 一瞬固まるエリエル。

 そして名残惜しそうに、手に持ったマシュマロを箱の中へと戻す。


「しかし今回はコボルト十匹程度だったから馬車の上に乗っても良かったが、もう少し敵が賢いと、馬車の上は目立つので集中的に狙われるのだ」

「確かにそうですわね。でもあの上って良く見渡せるので便利なのですわ」


 そういいながら二人は馬車に乗り込む。

 空に飛んでいたレイダスは、人間形態へと変身しつつ馬車の上に降り立つ。


「ところでお嬢様」


 御者の椅子に座ったリディへ、馬車の中からリヴァが声をかけた。


「何なのだ?」

「その服、返り血だらけです」

「なのだ、着替える必要あるのだ」


 少し呆れ顔なリヴァ。


「それにしても今日でお着替えは二回目ですよ。次回から返り血は浴びないように戦いましょう」

「なかなか難しいのだ」

「先ほどのように、遠距離から魔力弾を飛ばせばよろしいではありませんか。もしくはシーラお嬢様と同じように、魔法をお使いになられますか?」

「魔法は、こう何となく敵を倒してる気分になれないのだ。やはり直接敵を拳で殴ってこそ、戦いなのだ」


 末恐ろしい娘である。

 それを聞いたリヴァの目が一瞬殺気を帯び、鋭くなる。


「ですが、そのたびに私の仕事が増えます」

「そ、それはすまぬのだ」


 慌てて頭を下げるリディ。

 何しろ相手は神獣だ。人が逆らって良い相手ではない。


「お嬢様、後ほど私が魔法をお教えいたします。今後、な・る・べ・く、服を汚さないように戦ってください」

「わ、わかったのだ」


 迫力に負け、思わず頷いてしまった。


「それと、サイザリオンにつくまでの間は、シーラお嬢様とレイダスさんで対応お願いします」

「そ、それはないのだ! 私も戦いたいのだっ」


 必死に訴えるリディを無視したリヴァは、視線をシーラへと移動させる。


「シーラお嬢様、お願い致します」

「は、はいですのっ!」

「それと上にいらっしゃるレイダスさんも、今後は本気でお願いします」

「う、うむ。リヴァ殿の頼みとあっては断れまい」


 何となく声に震えを帯びているレイダス。


「では出発しましょう。このまま行けばあと二日後には到着します」

「は、はいなのだっ」


 リディは慌てて馬の手綱を握りしめ、馬車を走らせた。


「リヴァさんって、怒らせると怖いですの……」

「ですね~……」



 そこから二日間、三回ほどゴブリンやオーガに襲われたものの、本気を出したレイダスによって全て氷漬けにされていた。

 そして一行はサイザリオンの町がある、フォレスティの森の入り口に到着した。

 森といっても街道は整備されており、馬車二台分は通れる道幅がある。

 ここから徒歩で凡そ一時間、馬車であれば三十分で町に着く。


「ここがフォレスティの森なのか」

「森というからには鬱蒼と茂った木を彷彿したのですが、イメージが違いますの」


 シーラの言ったとおり、森の中とはかけ離れていた。

 木々はちゃんと整備されているのか、日差しが入ってきて暗くない。

 また街道の側には、一定の距離毎に明かりの魔法が封じてある鉱石が置かれている。

 これならば夜でもそれなりに明るいだろう。

 また国から派遣されている兵が一時間毎に街道の見回りを行っており、更に入り口から町までの間に五つの駐屯地が設置されている。

 ここまで徹底的に管理されている場所は、帝都広しといえど他にはないだろう。

 そして他の街道より遥かに治安が良く、頻繁に観光客も訪れる。


 そんな街道をゆっくりと進む馬車。

 だが、こうも安全で治安が良ければ暇になってくる。気が抜けるのも仕方ないだろう。


「そういえば、なぜ今回はエリエル皇女なのだ?」


 あくびをかみ殺したリディが、素朴な疑問を投げかける。


「え~と、それは秘密です~」


 しかしあっさりと拒否された。ギルド総長からは今回の件は皇族以外は秘密だ、と言われたがその辺りは当然ながら徹底されているのだろう。

 しかしどの程度滞在するかは聞いてない。


「そうか、秘密ならば仕方ないのだ。でもどの程度滞在するのだ?」

「明日から~三日くらいです~」

「ふむ、その三日どうすればいいのだ?」

「私はエルフ代表の方と~お話をしてますので~、観光なさっててください~」

「それでいいのか? 一応私たちは護衛の任務を請け負っているのだ」

「え~と、それはシーラちゃんに~お願いします~」


 そういってシーラのほうを見る。

 シーラは軽く頷いた。


「はいですの。リヴァは確かに皇族家の養子にはなりましたが、この件については残念ながら部外秘とさせていただきますわ」

「シーラ姉さまだけというのが、少し……いやかなり心配なのだ」

「なんですの!? 私も立派な冒険者の一人ですの、これくらい朝飯前ですわ。というか、姉を信用なさってくださいの」

「あの範囲魔法は禁止なのだ。万一エルフを巻き添えにしたら、国家問題なのだ」

「そ、それくらい分別ありますわ!」


 シーラの目が一瞬泳ぐ。

 それを見逃さなかったリディは、ため息をつく。


「まあ私も少々用事があるから、別行動するのはいいのだ。一応念の為に護衛をシーラ姉さまにつけておくのだ」

「必要ないですの。というか、先ほども言いましたが皇族以外は秘密ですの」

「ストーンゴーレムを呼ぶのだ。知能はないから、側に居ても問題ないのだ」

「ん~、それならばいいですの?」


 シーラがエリエルへ問いかける。

 考えるように少し額へ指を当てるエリエル。数秒後、リディへ確認するかのように言った。


「そうですね~、エルフの方々が~ゴーレムを見て~どう思いますか~」


 エルフは自然を愛する種族である。

 無機質の岩などに対し、擬似的な魔法を組み込んだゴーレムは、自然に反するものである。正直好かれてはいないだろう。

 ただ、エリエルは皇族である。護衛の一人や二人は居ても不思議ではない。


「普通ゴーレムは、何らかの番人か或いは単純作業に使われる事が多いのだ。でも護衛としても使われるケースもあるのだ。今回は……」


 といってシーラのほうを見てから、続けて話す。


「シーラ姉さまは魔術士なので前衛は欲しいと思うのだ。ただし皇族以外では参加禁止となれば、内容を知られても問題のないゴーレムなら連れて行ってもいいと思うのだ」

「確かにそうですね~。ではゴーレムを~護衛につけておきましょう~」

「了解したのだ。では町に着いたら召喚するのだ」


 馬車が森の中へと入る。また窓のカーテンを閉めて、中が見えないようにする。

 街道を守衛するのは第二隊が担当しているから、皇女の顔を知っている人がいても不思議ではないからだ。


(そういえば、第三隊も数人ここへ派遣させていたのだ)


 街道の安全を守るということは、魔物類とも戦う事もある。その手に慣れている第三隊の協力は必要だろう。


 駐屯地を過ぎる度に守衛がこちらへ、可哀相にという感じの視線を向けてくる。

 普通、馬車一台であれば護衛の三~四人を連れている事が多い。

 だがこの馬車には護衛と思しき人物は、いまだ馬車の上で寝ているレイダスしかいないからだ。

 つまるところ、道中仲間が殺られた、と思われているのだろう。

 それを否定するのも面倒なので、堂々と通り過ぎる一行。


 そして五つの駐屯地を過ぎた数分後、サイザリオンが見えてきた。



 町というより村といった雰囲気である。

 周りには木で作られた簡易的な柵が設けられており、街中にはいたるところに大木が残ったままになっている。

 広さはそれなりにあるが、町の半分は倉庫になっている。これは森林資源を置いておくための場所だろう。

 町の入り口は広く開けられており、特に入る為のチェックなどは必要なさそうだ。

 ただし倉庫がある地域は別で、そこは衛兵が数人立っているのが見える。


 リディは町の入り口で馬車を止めた。


「馬車の止める場所を聞いてくるから待ってるのだ」


 そう馬車の中へと声をかけると、リディは門の隣にある小屋へと入っていく。

 中にはまだ青年くらいの男が、居眠りをしていた。他には誰も居ない。


「こらっ! 何を居眠りしておるかっ!」


 思わず副隊長のつもりで怒鳴ってしまうリディ。

 青年はびっくりして飛び起きた。その拍子に椅子から転げ落ちる。


「はっ、隊長殿! 失礼しました! 自分は昨夜から明けの任務を続けて……って?」


 流れるように一瞬で直立不動を取り、敬礼をする青年。

 しかしリディの姿を見て、安堵した様子だった。


「なんだお嬢ちゃん、びっくりさせないでくれよ。一瞬隊長殿が来たのかと思ったよ」


 こいつ常習犯だな、と思ったが青年へと質問をする。


「この町に馬車を止められる場所はあるか?」

「ああ観光客か。それなら入り口からそのまま入って、一つ目の十字路を右へ入ってすぐのところに大きい宿屋があるけど、そこに馬車も止められるよ」

「そうか、感謝するのだ」


 礼を言って小屋から出るリディ。

 その時である。


「まさか、リディアル!?」


 突然門のところから名前を呼ばれた。

 ふとリディがそちらを見ると、そこにはエルフの男女二人が呆然と立ち尽くしていた。


とうとう感動のご対面?

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