~13~
「それでおめおめと逃げ帰ってきた訳か」
「で、でもお頭! 白竜に凄腕の召喚術士ですぜ! ありゃ、俺らの勝てる相手じゃなかったですよ!」
ここはとある山麓の山肌にある洞窟だ。明かりの魔法が掛けられている鉱石が、薄暗い洞窟内を薄っすらと照らしていた。
そこには、いかにも盗賊な風体の男二人が言い合っていた。
一人は小柄な男。リディ達を襲った盗賊の生き残りだ。
この男戦闘はからっきしダメだが、とにかく素早くまた夜目も利くことから、偵察や連絡役として使われていた。
そしてもう一人は、左目に剣の傷痕がくっきり残っている隻眼の男だった。
かなり鍛えている身体で、更にすぐ隣に大きな斧が立てかけられていた。
「報告では、小娘四人に小僧一人だったはずだが。念を入れて十五人で襲わせたのに、全滅とはな」
この男は元Cランク中位の冒険者で、今は百人を超える盗賊を纏めている頭だ。
元々盗賊は、何らかの犯罪を犯したもの、もしくは孤児や食っていけなくなったものが占める。
冒険者、しかもCランクまで上がったものが盗賊に身を落とす事は珍しい。
なぜならば、普通に冒険者として稼ぐほうが安定して儲かるからだ。
「ま、確かに竜相手じゃ俺ら全員束になっても勝てるかわからねぇしな」
この男の名はベイローン。三年前までとある伯爵家の護衛をしていたものだ。
しかし四十歳に達した時、新しい護衛を雇ったから解雇する、と言われたのだ。
ベイローンは伯爵に食い下がった。俺のほうがまだ役に立つと。
そこで伯爵は新しく雇ったものと模擬戦をして、勝てば継続して雇おうと提案してきた。
その提案に乗ったベイロード。
だがしかし結果は散々だった。
新しい護衛はベイロードと同じCランク中位の冒険者で、まだ二十代前半の若者だった。
経験だけで言えば冒険者暦十五年、護衛暦十年のベテランともいえるベイロードが圧倒的に有利だったが、やはり歳には勝てず左目を切られて負けたのだ。
伯爵家から追い出された後、暫くの間荒れた生活をしていたが、いつの間にか街から消え去った。
帝都から出たあと、帝都付近に居た少人数のいくつかの盗賊グループを纏め上げ、盗賊稼業をしていき、そして三年たった今は百人を超える大規模な一団となっていた。
なぜベイロードは盗賊へと身を落としたのか。
目的は復讐。
左目を奪ったあの冒険者と、そして伯爵だ。それを果たすまでは死ぬわけにはいかない。
確かに盗賊の規模としてはでかくなった。
下手な町の守備隊などより、遥かに戦力的には大きいだろう。
それでも本気になった国の軍隊や、高ランク冒険者相手では分が悪い。
万一Aランクの冒険者が一人でも来てしまえば、それで終わってしまう。
それほどAランク冒険者は危険な存在である。
昔、一度だけAランク冒険者と模擬戦をしたことがあった。
ようやく肉体強化の魔法を覚え、Cランクに上がったばかりの頃だ。
これで俺様の天下が来た、と増長し、周りの奴らを馬鹿にした。
確かにDランクとCランクの差は大きい。しかも大半はDランク止まりなのだ。
またCランクから依頼の難易度は格段に上がるが、それに伴い依頼料も跳ね上がる。
慢心する人が多くなるのも、仕方ないといえば仕方ないだろう。
そんな時ギルドから、俺に模擬戦をやるようにとの連絡が来た。
ギルドから個人宛への連絡は、すなわち強制だ。無視すれば依頼キャンセルと同じ扱いをされ、以降仕事を干されてしまう。
しぶしぶギルドへ行くと、俺と同じCランク成り立ての奴ら十人ほどが集められていた。
これはこの中から模擬戦で一番を決めるのか? と、そう思った。
一番になれば、それだけ名が売れるだろう。ということは、それだけ依頼も増えていくし、報酬もうなぎ上りだ。これは勝たなければいけない。
だがしかし違った。
十人の前に立ったのは、やけに細身の身体をしてる剣士だった。歳は俺とさほど変わらないし、身長もそれほど大きくはない。むしろ剣士としては小柄な方だ。
ただし俺らを見る目つきが違った。
全く興味なさそうな、敢えて言えば、路傍の石ころを見るのと同じ目つき。
そんな男が、俺らに向かって全員束になってこい、と挑発してきたのだ。
最初は困惑したが、何人かが切れてその男に襲い掛かった。見た目が細かったせいもあるだろう。
いくらあの細身の男が強くても、肉体強化したCランク冒険者数人を相手するのは無理だ、逃げ回るくらいしかできないんじゃないか、そう思っていたがそれはすぐ間違いだと思い知らされた。
まさに一瞬だった。何が起こったのかさっぱりわからない。
細身の男がいきなり視界から消えたと思ったら、襲い掛かってた数人が、全員足を切られ倒れていたのだ。
そしてその細身の男は、何事も無かったかの様に残った俺らに向かって再び挑発してきた。
残った奴らがその男を囲むように移動し、一斉に襲い掛かる。
そして俺を含めた全員が、全く同じ足の箇所を切られ倒れた。
あれで思い知らされた。Cランクなど本当の強者から見れば、お遊び程度の強さだと。
それから俺は心を入れ直し、Cランク中位にまで上がったあと、伯爵家の護衛となることができた。
後から聞いたのだが、あれはCランクに上がったばかりの増長した人間だけを集め、そして模擬戦で徹底的に心を折る為のものだったらしい。
ちなみにその細身の男の名は、覇王の異名を持つAランク中位剣士のアグノス=フォン=アーフェだったそうだ。
いくらCランク成り立てとはいえ、十人が全員全く同じ箇所を切られ倒されたのだ。
それほど強いのだ、Aランクという化けモン連中は。
こちらの戦力は百人だが、あの時の剣士は一瞬で十人を切った。
ということは瞬き十回もすれば、こちらは全滅する計算になるのだ。
しかもこちらはCランク冒険者ではなく、盗賊だ。強さで言えば精々Eランク程度だろう。
瞬き五回かもしれねぇな。
だからこそ目立たないようにする必要はある。しかし、百人の大所帯を食わせていく必要もある。
この為、帝都近辺だけでなく時には遠方まで出張し、狙いやすそうな相手のみ襲っていた。
商隊にはほぼ冒険者が護衛をしている。しかし、冒険者といっても大半はDランクなのだ。
いかに複数人でパーティを組んでいたとしても、元Cランク中位のベイロードの相手ではなかった。
そして今回の獲物は、女子供だけの集団。狙ってください、と言わんばかりの構成だろう。
それでも万一を想定して、十五人というかなり多めの人数を選出したのだが、その結果は全滅という最悪の状態になった。
「しかし、白竜に下級天使ねぇ。どっかで聞いた事があるよな」
と、その時とある名が頭に浮かんだ。
オールドベルト=シュタイナツ。
粉砕の王と異名を取るAランク下位の大男。
昔、帝都で見たことがある。
俺ら十人を瞬殺したアグノスと同じパーティを組んでいた。
俺だってそれなりに鍛えてはいるが、あいつは化けモンみてぇな身体してたよな。
拳闘士と聞いて納得したが、それに加えて召喚術も操るときたもんだ。
あんなガタイで魔法も使えるのかよ。
でもって、そのオールドベルトの契約獣が白竜だったはずだ。そして下級天使を好んでよく召喚している、とも聞いたことがある。
「おい、その獲物の中に、でっけぇ大男はいたか? 下級天使を召喚したやつだ」
「いえ、召喚術士は馬車の上に乗っかってましたが、小娘でしたぜ。ありゃまだ子供だった」
「小娘……?」
今回の件とは関係ねぇのか? それともオールドベルトの弟子か何かか?
そもそも今回のいかにも襲われそうな集団は、実は囮だったのか?
どちらにせよ、白竜と三十体の下級天使を召喚できる召喚術士が相手だ。
リベンジと行きたいところだが、勝ったとしても犠牲はかなり大きくなる。すでに十五人も失っているのだ。
ここは冒険せず、暫くは大人しくしておくか。
「で、お頭。どうするんです?」
「静観だ。さすがに竜相手じゃ相当きついだろ」
と、ベイローンが判断した直後、盗賊の住処に似合わない可愛らしい声が響いた。
「もうそれは遅いのだ」
慌てて声の主を見る二人。
すると、そこには蒼色の長い髪をした少女が、偉そうに腕を組んで仁王立ちしていた。
その姿を見た小柄な男が叫ぶ。
「お頭! あいつが例の召喚術士ですぜ!」
あの小娘が、下級天使を三十体も召喚した凄腕?
そうは見えない。
いや、あの小娘が俺を見る目は、あの時のAランク中位剣士と全く同じ目だ。
ベイロードのカンが、こいつは危険な存在だ、と訴える。
背筋に薄っすら寒気が走る。
しかし、それを無理やり押さえ込んで、なるべく落ち着いた口調で娘に問いかけた。
「どうやってここまで来た?」
「その小さい男の後をついてきたのだ」
「俺の後を!?」
小柄な男が愕然とする。
足の速さだけは自慢だったのだ。それがこんな少女に後をつけられたのだ。
しかしリディはレイダスに乗って空から追跡しただけだ。
「確かここにはまだ三十人くらい、うちの連中がいたはずだが」
「それなら全員寝てもらっているのだ」
三十人もの数を、俺らに全く気づかせず倒したというのかこの娘は。
やはりこいつはやばい存在だ。
「ふむ……見かけ通りという訳ではなさそうだ」
ベイロードが立ち上がり、隣の大きな斧を片手で掴んで大きく振り回した。
しかし膝が僅かに震えている。
使い慣れているはずの斧が、今日に限って重く感じる。
ここは一つ強気なセリフを吐いて、膝の震えを隠そう。
「この狭い部屋の中じゃ、この俺の斧からは逃げ切れんぞ? 呪文を唱えさせる暇も与えん」
「ん、心配する必要はないのだ。呪文など使わないのだ。私はこの拳でお主を倒すのだから」
リディは小さい拳をベイロードへと突き出す。
まさか拳闘士!?
拳闘士で召喚術士など、あの大男以外聞いたことがない。
やはりオールドベルトの弟子か何かか。
勝てる相手じゃなさそうだ。しかしどうやって逃げるか。
この部屋の出口はリディの後ろにある。あそこから出る以外、逃げ道は存在しない。
そしてベイロードは挑発気味に鼻で嗤う。
「はっ、そんな小さな細い腕で? ガキが、粋がるな!」
まず一気に駆け寄って、斧を振り下ろす。きっとあの小娘は横に避けるだろう。
そのまま出口へ向かっていけば、逃げられるはずだ!
「こう見えても元Cランク中位の戦士だ! そう易々と負けはせんわ!」
自分を奮い立たせるように、大声を出す。そして肉体強化の魔法を使うベイロード。
それにあわせたようにリディの身体も薄っすら光る。
「いくぞ!」
ベイロードが大きく斧を振りかぶって、一気にリディへ詰め寄る。
そして叩き潰さんとばかりに、振りおろした。
よし、この勢いで縦に一回転すれば、一気に出口までジャンプできる!
ベイロードは会心の笑みを浮かべる。
しかし……。
「お主、足が震えているのだ。私が怖いか」
「なっ」
リディはそう囁き、斧の軌跡を一瞬で見切り身体を僅かにずらす。
そして相手の突っ込んできた勢いを利用して、カウンターの拳をベイロードの腹へとぶち込んだ。
強化された拳は、ベイロードの腹を易々と突き破った。
「ぐはっ!」
鈍い痛みが腹から伝わる。
やはりこの娘は、俺より遥かに強い化けモンだったか。
更にリディはそのまま回し蹴りを放った。
まともにその蹴りを受けたベイロードが吹き飛び、洞窟の壁へ激突する。
そしてぴくりとも動かなくなった。
たった二発で盗賊の頭を戦闘不能へと追い込んだリディは、勝ち誇ったような顔で、まだ座り込んだままの小柄な男へ言い放った。
「こう見えても元Aランク下位の冒険者なのだ。そう易々と負けはしないのだ」
こうして帝都周辺で活動してた最大の盗賊団は壊滅した。
今回はちょっと視点を変えてみました。
難しいですね。小説書くのって。




