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~12~

これから旅のシーンが暫く続きます


 ぽかぽかと温かい日差しの中、広い草原をゆっくりと馬車が走っていた。

 五~六人は乗れるだろうそれなりに立派な馬車であり、二頭の馬がひいている。

 御者をしているのは蒼い長い髪の少女、リディである。今日は動きやすさを重視して、半そでのシャツと短パンという格好だ。

 そして馬車の上には白髪の少年レイダスが寝転がっている。

 馬車の中には二人の女性が、ゆっくりお茶をしながら白く柔らかそうなものを食べている。そして一名のメイドが給仕をしていた。

 護衛らしき人物は、屋根にいる白髪の少年だけに見える。

 盗賊や山賊などが見れば、格好の獲物とほくそ笑むだろう。


「あら~、おいしい|~」

「ほんとうですの」

「お嬢様方、これはマシュマロと呼ばれるお菓子でございます」

「ましゅまろ、と言うのですね~、初めて食べました~」


 語尾を間延びしながら話している女性は、エリエル=フォン=アーフェ。アーフェ帝国の皇帝サウスターの次女で、第二皇女である。親譲りの綺麗な金色の髪を肩でばっさり切っており、一見して活発な女性に見えるが、言葉遣いからも分かるとおり、おっとりした性格である。

 その隣で同じようにマシュマロを食べている少女は皇帝の従兄弟であり、ギルド総長の娘シーラ。エリエルとははとこの関係である。

 また給仕をしている黒髪黒目のメイドは、リディの召喚獣であるリヴァだ。


 ちなみに貴族に金髪が多いのは、初代皇帝が金髪だったからであり、遺伝の為である。

 特に皇帝に近い血筋になると、日の光に当てると金色に輝く綺麗な色に染まる。


「リヴァさん、このお菓子も異国のものですの?」

「はい、卵白、砂糖、ゼラチンで作るお菓子です。お茶の上に浮かべるのも、またおいしいですよ」

「本当、リヴァさんは博識ですの」

「甘くて~、とってもおいしいです~」


 エリエルは幸せそうに食べながら、御者をしているリディへと視線を向ける。


「リディアルちゃんも~ご一緒にどうでしょうか~」

「私は護衛なのだ。そこにいるシーラ姉さまと違ってちゃんと仕事しないといけないのだ」

「シーラちゃん~、いつの間にリディアルちゃんみたいな~、可愛い妹が出来たのです~?」

「先日お父様が養子にして下さったのですわ」


 そう、リディはギルド総長の養子になったのだ。

 やはり十三歳の少女が一人で、あの大きな屋敷に住むのは対外的に問題がある、と言われたからだ。

 ただギルド総長も立派な皇族である。その養子になる為にひと悶着あったが、事情を知っている第三隊隊長のサーフェスや、エリーゼ、そして宮廷魔術師筆頭のローンブレスたちの後押しもあり、無事に事は済んだ。

 サーフェスは「これでシュタイナツ副隊長の爵位授与の件を帳消しにしてくれ」、エリーゼは「ぜひ今度抱きしめさせて、撫でさせてください」と言っていたが。


「私があいつの養子になるとは、世も末なのだ」

「お嬢様、人生はこういう事があるからこそ、面白いのですよ」

「波乱万丈すぎる人生なのだ。ところでリヴァ、今夜はカリーを所望するのだ」

「はい、わかりましたお嬢様」

「前にリディが言ってたカリーがやっと食べられますのね。楽しみにしてますわ」

「私は~、このましゅまろが~いいです~」

「カリーに軽く焼いたマシュマロを乗せるのも、また一興ですよ」

「そんな風にも~、食べられますのね~。これは今度~料理長に頼んで作ってもらいましょう~」


「姦しい、とは良く言ったものだな」


 女性四人が和気藹々を話しているのを聞いていたレイダスは、馬車の屋根からぽつりと呟いた。



 時刻は夕方。そろそろ日も暮れようとしている。


「そろそろ野営の準備をするのだ」


 あまり暗くなると奇襲を受けやすくなる。といっても、こちらには匂いに敏感な竜のレイダスもいるし、戦うことはしないがリヴァもいる。

 奇襲される可能性はゼロだが、シーラの経験を積ませるため、セオリー通り野営する事にしたのだ。

 街道から少し逸れたところで馬車を止める。


「シーラ姉さまは、これを馬車を中心とした五十メートル四方に設置するのだ」


 リディは四つの角らしきものをシーラに渡した。


「これは何ですの?」

「結界を張る魔法具なのだ。この結界内に誰かが侵入すると警報がなるのだ」

「そうなんですの? それは便利ですの」

「冒険者には必須アイテムなのだ」


 もちろん万能ではない。空からこられた場合警報は鳴らないし、そもそも五十メートル程度の距離なら、人間ですら五秒で近寄られてしまう。森狼などの足の速い魔物であれば、もっと早いだろう。

 ただ、ゴーストなど目に見えない敵にも反応するので、設置する意味は大きい。


 シーラが魔法具を設置している間、リヴァが食事の準備をし始めた。

 リヴァの白い手が空へ踊ると、手の先から真っ黒な輪が浮かび上がる。

 そしてその輪の間から次々とテーブルや料理の素材が飛び出してきた。


「これは~何の魔法なんでしょう~?」


 馬車から降りて伸びをしていたエリエルが、リヴァの使っている魔法に興味を持った。


「亜空間を結ぶ次元魔法の一種です。こことお嬢様の家の倉庫を結び、保管してある食材などを呼んでいるのです」

「そんな魔法あるのですか~、すごいですね~」


 実際は凄いというレベルではない。次元魔法自体が古魔法であり、今ではエルフしか使い手がいないとされている。

 しかもエルフ族の魔力を持ってしてもせいぜい持続時間は十秒程度で、距離も数百メートルなのだ。

 馬車で一日離れた距離を結ぶなど到底不可能である。

 この辺りはさすが神獣というべきであろう。


 リヴァが包丁を両手に持ち、目にも留まらぬ速度で野菜を切っていく。

 この包丁はリヴァお手製のものであり、本体の牙を使って作ったものである。切れ味は勇者しか使えないとされる聖剣エクスカリバー、魔王の持つ魔剣グラムに匹敵するだろう。

 当然普通のまな板では、軽く上から下ろすだけでテーブルごと真っ二つだ。

 この為、まな板も本体のウロコを使っている。


 そんな伝説級の包丁を使って作ったカリーは、この上なく旨かった。


「辛いですの! でもこの辛さ、病み付きになりそうですわ」

「焼いたましゅまろと~一緒に食べれば~辛さも控えめです~」

「辛いのだ。でもやっぱり辛くないとこれじゃないのだ」


 ちなみにレイダスは辛いのが苦手であり、甘口のルーを特別に作ってもらって食べている。

 舌に刺激のある食べ物は野生動物が苦手な事が多いが、これは竜にも言えるらしい。


「そんな甘いの食べるとは、レイダスもまだお子様なのだ」

「リディよ、喧嘩売っているのか?」

「悔しかったら、この辛いのを食べてみるのだ」

「舌が麻痺してしまうわ」


 和気藹々とカリーを楽しむ四人。

 そんな彼女らを少し離れた場所から見つめるリヴァ。それはまるで子供たちを見守るような眼差しだった。




 ぱちぱちと焚き火の爆ぜる音が聞こえる。

 既にエリエルは寝袋に包まって、静かな寝息を立てている。

 シーラもエリエルのすぐ側で横になっている。

 レイダスは馬車の上で、リヴァは馬車の中で横になっている。


 そんな中、リディは一人静かに焚き火の番と見張りをやっていた。

 本当であればシーラと交代するべきなのだが、慣れない旅で疲れているだろう。

 今夜はゆっくりと寝かせてあげることにした。甘いかもしれない。

 しかしリディもさすがに最低三時間ほどは休憩を取らないと翌日に響く。

 昔と違って、今はまだ少女の身体なのだ。無理をすれば身体に響く。

 睡眠不足は肌の敵である。


「最近思考がめっきり女化してきた気がするな」


 今は独り言のつもりなので、あの違和感のある話し方はしていない。

 最近の思考の原因は、リヴァやシーラから色々と教わっているからだろう。

 洋服や下着の着方から、皇族家の養子としての振る舞い、化粧の仕方など、男だった時には考えもつかなかった事がたくさんあった。

 自分的にも見た目がこれ(少女)なので、違和感の無い仕草は必要と感じている。


「自分が自分でなくなっていく気分だな。ただ、この少女で生きていこうと誓ったのだ。」


 ただ唯一良かったのは、エルフには生理がないことだ。

 いや生理というものがある種族は人間と獣人のみである。

 逆にエルフやドワーフは、人と言うより精霊に近い存在だ。この為子供を作る為の体の仕組み事態が人とは異なる、とリヴァから教わった。


 過去女と臨時でパーティを組んだ事は何回かあるのだが、その時ちょうど生理だった女がいた。

 戦いの際いつものような動きではなく、緩慢でまるで腹に傷を負ったかのような、非常に辛そうな戦い方だった。

 生理を緩和する魔法もあるが個人差が大きく、効果の薄い女性もいると聞く。

 普段ならまだいいが、戦いの最中はきつかろう。


「と、何か気配を感じたな。敵か」

「どうやら盗賊の類だ」


 レイダスも気配というか匂いを感じ取ったのか、いつの間にかリディのそばまで近寄っていた。


 動物の危険本能は人間のそれと比べて遥かに高い。

 竜種であるレイダスは殆どの獣より上位である。この為なのか、レイダスがいると理由が無い限り襲ってくる獣は居ない。

 逆に言えば襲ってくるものは、人間か亜人、もしくは竜と同等以上の存在くらいである。


「人数は十五人だな。北から七人、南から八人いる。距離はまだ五百メートルはある」

「多人数の利点を生かした挟み撃ちなのだ。しかしセオリー通りすぎるのだ。では、皇女とシーラ姉さまを起こすのだ」


 リディは慌てず立ち上がり、そしてシーラとエリエルの寝ているところまで移動し、二人を起こす。


「なんですの~?」

「ふあぁぁ~」


 まだ寝ぼけ眼の二人に、少し早口で伝えるリディ。


「起きるのだ、敵なのだ。皇女は馬車の中へ避難、シーラ姉さまは馬車の近くで待機するのだ。今回は私がやるからシーラ姉さまは、まず戦いを見ているのだ」

「敵ですの? ならば私の華麗なる魔法で」「却下なのだ」


 シーラのセリフを遮るリディ。不満そうなシーラに対し続けて「この平原は様々な動物が住んでいて、帝都の貴重な食料庫の一つなのだ」と言うと、黙り込んだ。


「シーラ姉さまの力はまだ使うときではないのだ。本当に危険になった時にこそ使って欲しいのだ」

「そこまで言われるなら仕方ありませんわ。義姉あねとして義妹の戦いを見守りますわ」


 やさぐれたシーラの顔が幾分かましになる。


「では私の戦い方を覚えるのだ。リヴァ、二人を守るのだ!」

「はい、お嬢様」


 突如背後から声が聞こえたシーラとエリエルは、驚いて振り向いた。

 馬車の中にいたはずのリヴァが、いつものようにびしっと決まったメイド服を着こなし、驚いている二人に対し優雅にお辞儀をした。


「いつの間に~いらしたのです~?」

「リヴァさん? 全く気がつきませんでしたの」

「メイドですので」

「お城にいるメイドさんも~、リヴァちゃんと同じようなこと~できますか~」

「メイドとして厳しい修行が必要ですよ」

「それはメイドのお仕事ではありませんの」

「どうでもいいが、敵もこちらの動きが変なのに気がついたのだ」


 さすがに全員が集まっていれば、盗賊の襲撃に気づいたと推測されるだろう。

 逃げられないよう、こちらに向かって走り出してきている。

 すでに周囲に張った結界内に何人かの盗賊が入ったらしく、警報が鳴りはじめた。


「ではお嬢様、お任せいたします」

「ああ、任せるのだ。レイダス! 飛んで咆哮! 度肝を抜いてやるのだ!」

「驚かせるだけか、つまらぬ仕事だな」


 そう言いつつも、何となく嬉しそうな顔でレイダスが羽ばたく。

 一瞬にして元の白竜へと姿を変え、空へと舞ったのだ。

 辺りはまだ暗いのにも関わらず、白色の鱗が輝いているように見えた。


「……白竜ホワイトドラゴン。なんて綺麗なの」

「ふわあぁぁぁ~、私初めて竜さんを見ました~」


 空を羽ばたく王者の竜種が吼えた。

 大地が揺れんばかりの咆哮が辺り一面に響き渡る。

 盗賊たちが驚き、そして腰を抜かしたようにその場へへたり込む。

 本来であれば、エリエルやシーラもそのうちの一人になるだろうが、リヴァがこの二人を守る様に薄い魔法壁を張り巡らせていた。


 リディはすかさず馬車の上に飛び乗り、そして召喚術を発動させる。


召喚コーリング


 たった一語、リディが唱えると周囲に十重二十重と魔方陣が生まれた。


「我が声を聞きし天界の使者たちよ。その姿をここへ降臨せよ」


 リディの詠唱が歌声のように響き、つられる様に魔方陣が暗い夜を照らすように輝きだす。


「……すごいですの。これほどの数の魔方陣を生み出すなんて、リディったら本当に腕利きの冒険者ですの」


 元々リディは拳闘士のレベルはBランク上位だが、召喚術士としてはAランク下位の冒険者だ。それがハイエルフの高い魔力とも相まって、少なくともAランク上位に匹敵するような魔方陣を生み出している。

 Aランク上位の冒険者は帝国には一人もいない。この大陸ではラスタート公国の冒険者ギルドに一人だけ在籍しているのみだ。


「サモン・エンジェルズ!」


 リディの詠唱が唱え終わると同時に、魔方陣から光り輝く下級天使三十体ほどが現れた。

 ちなみに召喚術で召喚される天使は本当の天使ではなく、こことは違う異なる次元に溜まっている魔力を使い擬似的に作り出した人工物である。

 下級天使を大量に呼ぶのは、リディの十八番である。Cランク下位程の強さがあり、魔力で作られているため、魔法の攻撃に長け且つ魔法抵抗力も高い。


 Cランク下位の敵が三十体もいきなり召喚され、それらが一斉に盗賊たちへと襲い掛かる。

 盗賊たちが壊滅するのに、三分もかからなかった。


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