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~9~

 帝都のほぼ中央から若干南寄り、城まで凡そ徒歩十五分、そしてギルド本部まで僅か五分。貴族街に程近い場所にリディの家はあった。

 周りは貴族ではないが、それなりの額を稼いでいるものたちの家が立ち並ぶ。

 リディは冒険者時代にかなりの額を稼いでおり、また無駄遣いはほぼしていない。他の人より高いのはエンゲル係数だけだろう。

 普通の冒険者であれば入る額もそれなりに大きいが、武器防具の購入や修理代に各種ポーションなどの消耗品など出て行く額も大きい。

 しかしリディは基本的に防具は無かった、武器もナックル一つだけだ。ナックルも絶対必要という訳ではない。

 回復もドライアードがいるし、そもそも滅多に怪我を負うこともなかった。

 病気なども無縁であり、人生において医者のお世話になったことは一度のみである。


 門は大きく、家もこれまた大きい。三階建てで三十を軽く超える部屋数は、下手な貴族の家よりも広い。

 これだけ大きい家だが、日雇い的な形で何人か水竜がヘルプに来るのみで、住んでいるのはリディ、レイダス、リヴァの三人だけである。


 この家を買ったのはちょうどリディが第三隊へ入るときだった。リディはもっと狭い家を頼んだのだが、それは国から却下された。

 つまり、冒険者から国に仕えればこれだけ大きな家を持てるぞ、というまさにアメリカンドリーム的なサンプルとされたのだろう。


 さすがにこれだけ大きな家だと、家の維持管理だけでも相当の人数が必要になる。リディは最初五人くらい雇うかと考えていたが、それはリヴァに却下された。

 リヴァは本体の家臣である何匹かの水竜を呼び、メイドとして教育する場にしたのだ。

 基本的に彼ら、彼女らは朝に呼ばれ日が沈む頃帰る形になっている。


 そんな大きな家の中、二階にある豪勢な応接室に少女二人が座っていた。


「始めまして、シーラ=フォン=アーフェと申しますの」


 ギルド総長と面会した翌日、早速娘のシーラがリディを訪れて来た。

 皇族に相応しくない、軽いフットワークである。

 身長は百六十センチ程度でそこそこ痩せ型、そして金色の目と金色の長い髪に軽くウェーブをかけている十四歳の少女である。

 着ている服は華美ではなく、普通に平民が着るような服である。

 ただ、唯一異なるのは、大きな杖を持っているのと、首に水晶のネックレスをぶら下げているところだけだろう。

 両方ともかなり魔力を感じるし、なかなかの業物とリディは思った。

 また供の一人すらつけていない。この辺りはギルド総長の意向もあったのだろう。

 隠密に内密に、という事だ。

 確かにこれでは皇族に見えない。ローブを着ていれば立派な冒険者だろう。


「ふむ、私はリディアル=ティフォース=シュタイナツだ。宜しく頼む」

「リディアルです、宜しくお願い致します、ですわ」

「お、おう」

「はい、ですわ。お父様に伺いましたが、本当に言葉遣いが男の人のようですわね」


 そりゃ中身は男だしな、そう言いかけて踏み留まる。

 一応ギルド総長から聞いたが、シーラはリディの今回の件を全く知らせてないそうだ。

 確かに元が四十歳近くのおっさんでは、警戒するだろう。


「でも……言葉遣いと服が残念なだけで、本当に可愛らしいですわね」

「ほっとけ!」

「ほらほら、また悪くなってますわ」


 子供の言う事だ、と思い直すリディ。と、その時ドアがノックされる。


「入れ」

「どうぞ、ですわ」

「お元気なお嬢様ですね」


 お茶を淹れてきたリヴァが応接室に入ってきた。

 その瞬間、シーラのつけていたネックレスが怪しく光る。

 シーラは自身がつけているネックレスへと視線を移し声をかけた。


「あら、バハムート様?」

「え? そうですの? この方に……」


 まるでそこに誰かがいるように。

 だがリディには何も見えないし、聞こえない。


「はい、わかりましたわ」


 そうシーラが答え、そして光が消えた。


「我が神バハムート様が、そこにいるメイドの方と少々お話したいそうです。このネックレスをつけていただけないでしょうか?」

「はい、わかりました」


 リヴァはやけにあっさりと了承した。

 シーラから手渡しされるネックレス。それは鈍い光沢を放ちながら、何となく喜んでいるような雰囲気が感じられた。


「リヴァ、大丈夫か?」

「はいお嬢様、ご安心ください。少し話しをしてきます」

「ではお願いしますわね」


 リヴァはお茶をテーブルに載せると、借りたネックレスを持って部屋から出て行った。


「それにしても、あれ大切なものなのだろう? よく人に渡せたな」

「ですから言葉遣いが……そうですわね、でもバハムート様が望んだことですから、巫女としては意向に沿わなければなりませんわ」

「ふむ……そもそもバハムートは何者な……何者なのだです?」


 いい加減少しは言葉遣い変えろ、そう目で訴えられたリヴァは慌てて言い直した。


「我が神ですわ。詳しいことは教えては頂けてないのですが、とても強い力をお持ちの神ですの。この竜杖もバハムート様から頂きましたの」


 そういってシーラは隣に置いていた杖を手に持った。

 先端が竜の爪になっていて、何かの宝石を掴んだような形になっている。

 長さは百五十センチ程度か。リディの身長より長い。


「少し貸して頂いてもよい……です?」

「はい、どうぞですわ」


 そしてシーラから受け取った、とても長い杖。先ほどちらっと見たときも業物と思ったが、実際に手にとって見ると、長い冒険者時代にもそうなかったような杖である。


「火の力が強い……のだ」

「あら、お分かりですか。お父様が推薦してきただけの事はありますわね」

「一応これでも召喚術も使える……のだ」

「念のためにお聞きいたしますが、どの程度のレベルの召喚術を?」

「Aランク相当であれば召喚は可能……なのだ」

「そのお歳でAランクとは、凄いですわ」

「これでも二十五年以上は冒険者やっているのだ」

「へ? えっと、どう見ても私より年下に見えますが」

「あ、ああ。いやいや私はエルフなのだ」


 しまった、と思ったが咄嗟に長い髪を後ろへ流して、自分の長い耳を見せる。


「エルフ? 確かあなたのお父様は人間だったと聞いておりますが。それともハーフですの?」

「養子なのだ」

「であれば、確かに見た目と年齢は合ってないのでしょうね。でも確かエルフ族はある程度の年齢までは、人間と同じように育っていくと記憶してますわ」

「あー、えっと。エルフ族は自分の魔力が最高潮に達した時、外見の成長が止まるのだ。それがこの見た目という訳だ……なのだ」


 確かにエルフ族はそのような形で成長していく。殆どのエルフ族は概ね十五から二十歳程度の年齢で外見の成長が止まる。

 そして寿命に近づくとそこから歳を重ねて、死ぬときには老人の姿になる。


 このためエルフを羨ましいと感じる人は多い。

 だが裏を返せば、僅か二十年程度で自分の魔力の成長が止まり、そしてその後何百年と成長しないまま死んで行く。

 成長が止まれば以降の伸び城がもうないのだ。

 当然経験という形での成長はあるが、魔力自体が増えていく事はない。

 果たしてこれを羨ましいと感じるかは人によるだろう。


 ただし、ハイエルフは例外だ。

 外見の成長が止まった後でも、訓練次第で魔力は更に伸びていく。更に寿命に近づいたとしても、外見はそのままとまった状態を維持する。死ぬときも若い姿のままだ。

 これがエルフと上位種であるハイエルフの差である。


「では失礼ですがリディアルさんはおいくつですの?」

「あー、十三歳という事にして頂きたい……のだ」

「訳あり、ですのね」

「そ、そんなところだ……なのだ」

「先ほどから言葉遣い変ですよ?」

「じ、自分でも頑張って直そうとしているのだ」

「その方が子供らしい話し方ですが。と、取り合えず、これからいかが致しますの?」

「まずはシーラの腕前を拝見したい……のだ」

「呼び捨て?」

「あ、シーラ姫のほうがいいか?」

「一応私のほうが年上ですから、シーラ姉さま、と呼んでくださいませ」

「まてまて、私のほうが年上だっ……のだっ」

「あら、先ほど十三歳とおっしゃっておりましたわ。私は十四歳ですの」

「くっ、シ、シーラ姉さま……」

「はい!」


 リディがそう言うと、見事なまでの笑顔になるシーラ。


「なぜそんなに笑顔!?」

「私、実は末っ子ですの。昔からお姉さまと呼ばれてみたかったのですわ」

「そ、そう」

「それに対外的に姉妹のほうが、何かと便利と思いますわ」


 兄弟姉妹で冒険者になるケースは結構多い。やはりパーティを組む上で一番重要なのが信頼である。

 そこへ行くと兄弟姉妹や親戚、また幼馴染と言った互いに気心が知れている間柄同士でパーティを組むのが手っ取り早い。


「確かにそうだが……のだ」

「ではあなたの事は、リディとお呼び致しますわ」

「これから宜しく頼む……のだ、シーラお姉さま」

「ええ、宜しくですわ、リディ」



    ================================


 リヴァはシーラから預かったネックレスを手に持って、一階にある自室にいた。

 先ほど二人に出したお茶と同じものをテーブルに置き、笑みを浮かべたまま座っている。


「お久しぶりですね、バハムート」


 リヴァがネックレスに問いかける。するとどこからともなく威厳ある声が聞こえてきた。


「久しぶりだな、リヴァイアサンよ。八百年ぶりくらいか?」

「ええ、前回勇者を召喚した以来ですね」

「しかし何だその奇抜な服装は? しかも人型になるとは」

「ここ最近お気に入りの服装ですよ。この服を着たいが為に、この身体を造りました」

「悪趣味な事だ。我のように無機質に宿ればいいものを」

「それはもう飽きました。やはりたまにはこういった姿になるのも良いものですよ?」

「神獣とは思えぬよ」

「人間の心というものを見習ってみたのです。あなたもどうですか? 意外と気に入るかも知れませんよ」

「我はこのままでよい。しかし、あのハイエルフの娘が、今回お前が選んだ巫女という訳か。何やら魂は男のように感じられたが」

「ふふふ、そうなりますね」

「ふむ、何を企んでいる?」


 詰問するかのような声。

 しかしリヴァは笑みを浮かべたままだ。何やら楽しげにしている。


「いいえ、何も」

「本来エルフは召喚術を使わぬ。精霊の力を借りる事はするが、精霊そのものを呼び出し使役する事はせぬ。そのくらい分かっているのだろう。なぜわざわざ人間の魂をエルフに入れた? しかもハイエルフに」


 驚くべき事をバハムートは告げた。

 それを聞いたリヴァは、いかにも楽しげにお茶を優雅に飲む。

 そしてゆっくりとティーカップをテーブルに置いたあと、呟いた。


「この輪廻を打ち破るため」


「輪廻……だと?」

「ええ、あなたもお分かりでしょう? 今回の魔王復活でもう五回目。そろそろ私たちの力を与えることはやめにしませんか?」

「しかし魔王誕生は我らの失態だ。我らがやらねばならぬ」

「私たちはあくまで神の代理です、見守るだけ。そう思いませんか?」

「だが人間が我らの力を与えぬまま、魔王に勝てるか? 勝てなければ、この大地は破壊されようぞ」

「そのためのハイエルフです。きっと彼……いえ、彼女なら私たちの意志を継ぐ事が出来ると思います」

「何と自分勝手な」

「ええ、人間の女性は自分勝手な生き物なのですよ?」

「とにかくだ。我は今回だけでなく次回以降も巫女として力を与え続けるぞ」

「きっとそのような事は今回が最後と私は思いますけどね」


 そしてリヴァはネックレスを持ったまま立ち上がり、部屋から出て行った。

 シーラに返しにいくのだろう。

 長い廊下を歩きながら、ネックレスへと呟いた。


「身を過ぎた力は破滅を呼びます」



なんかどんどん話が大きくなっていきます

どうやって収拾させよう←

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