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考えろよ。  作者: 回収屋
19/32

サラリーマンと会議の行方

「失礼しま~~~~~~ッす!!」

 本部ビル正面玄関にてダレかが喚いている。一人は高齢サラリーマンが好みそうなスーツを着て、ネクタイにはハッキリと『上司』の刺繍。もう一人は全くサイズの合ってない制服をピッチピチにさせ、背中にハッキリと『OL』の刺繍。そんな二人の後ろには、気絶して地面に転がっている男が一人。


 ズ~~リズ~~リ……ズ~~リズ~~リ……


 二人は男の足をつかんで無造作に引きずる始末。そして、堂々と正面からゴーッ。

「どちら様でしょうか?」

 ロビーの受付嬢Aが、どうしようもなく当たり前の事を尋ねた。愛想笑い100パーで。

「あたしは汐華部長ッ! 立派な上司だッ!」

「わたしは柏木平社員ッ☆ 雑務はお任せッ☆」

 そう言って名刺を叩きつける。手書きの。

「アポイントはございますか?」

 受付嬢Bが、なんとも冷静に眼前の珍事を処理しようと笑顔。やっぱり100パーで。

「そんなモンは無い! 超とびこみ営業だ!」

「交通費の事後処理はダメよ☆」

「…………」

 受付嬢A&Bの視線が床の上にブッ倒れてる男に向けられる。どう見てもコレは事件だ。

「申し訳ありませんが、御予約の無い方は御通しできません」

 受付嬢、ハモる。同時に、足元にある警報ボタンをヒールのつま先で連打。笑顔はキープして。

「ガキの使いじゃねーんだ、社長を出せコノヤロー! つーかまずは粗茶を出せよコノヤロー!」

「部長、落ち着いて! 間違いなく年金はもらえますから!」

「うるせーッ、新入社員! こんなパッツンパッツンの尻をくねらせやがって! こうしてやる!」

「いやぁー! 助けて警備員さん!」

 とってもイタイ小芝居が展開。

 ツカツカツカッ……

「お客様、すみませんがこちらへ」

 やってきたのはキレイな制服に身を包んだ、とっても体格の良い警備員三名。

「どーもスイマセン」

 素直に土下座して謝る社会の底辺達。

「……とにかくこちらへ」


 ズ~~リズ~~リ……ズ~~リズ~~リ……


 土下座したまま引きずられていく。もちろん、気絶したままの杜若室長もイイ感じでくっついている。



「さて、諸君」

 本部ビル24階大会議室。フロアは大学の講義室を思わせるような造りで、非常に緩やかなすり鉢状に設計され、約300名が着席できる。教壇に立っているのは支配人オーナー・魅月紫苑。講義を受けるのは、真っ黒なスーツ姿の本部直属SP『スノー・ドロップ』。

「大問題が発生した」

 スピーカーから飛び出した魅月氏の言葉に、一同が強張る。

支配人オーナー、宜しいでしょうか?」

 一番奥の末端の席に座る女性エージェントが、講義の出鼻をサラッとくじく。

「何だね、『デス』?」

「我等スノー・ドロップのリーダー殿と、他数名の姿が見当たりませんわ」

「ふむ……そのようだな。エンプレス、心当たりはないかね?」

「あ、はい……その……」

「どうかしたかね?」

「……いえ、北方区を移動中に事故を起こしたようでして。もうしばらく時間がかかるかと……」

「そうか。では、仕方ない。時間に余裕が無いので先に話を始めよう」

 そう言って魅月氏は、自分の背後を占める巨大スクリーンに指でタッチする。スクリーンに映し出されたのは一人の女性。 

「単刀直入に言おう……本日、このPFRSは戦場になる」

 彼は毅然とした態度でそう答えた。エージェント達に当然のざわめきが生まれる。

支配人オーナー、質問いいっスか?」

「かまわんよ、『ラヴァーズ』」

「このオバハンはドコのダレっス?」

 テーブルに顎を乗せてだらしなく座る年若い兄ちゃんが、小さくピョコッと挙手。

「ボケかオマエ!? ボケかオマエ!? アレは軍人でとってもエライ奴ッ!」

 隣に座る年若い姉ちゃんが、ムダに大きな声で言う。唾も飛ぶ。

「それは見りゃ分かるっスよ、『ハイエロファント』。知りたいのは……」

「彼女は『ストレー・シープ・ダリア』。階級は准将。自称43歳の超資産家だ」

 魅月氏が苦笑いを浮かべて回答する。

「濃厚なドSの匂いがするよね、『スター』」

「ええ、とってもするわね、『デビル』」

「きっと趣味は戦争とか言ってそうだね、スター」

「ええ、とっても言ってそうね、デビル」

 最前列に座る十二、三歳くらいの少年・少女が、スクリーンをビシッと指差しながら感想を述べた。

「残念ながらその見たて通りだ。24時間以内に、このPFRSは軍部の特殊部隊によって占拠される」

 ザワッ……

 一同が不吉な空気にざわめく。

「それって軍事作戦っスか?」

「そうだ」

「何てコト! 何てコト! よくナイよ!」

「沈丁花による秘密工作だ。実動は決して国内外に洩れない」

支配人オーナー、“24時間以内”というのは確定ですか? それとも軍部の口約束かしら?」

 尋問でもするような口調で『デス』と呼ばれた女が問う。

「准将は反吐が出るほどワンマンだ。自分が圧倒的に有利な立場にありながら、平気で取り決めを破る」

 バタンッ──

「遅れました。申し訳ありません」

 非常口が開いてエンペラーを先頭にタワー、プリエステス、ムーンが入室する。

「エンペラー、ダリア准将によるPFRS占拠作戦が実行される……何か建設的な対抗策でもあれば、先に述べて欲しい」

 魅月氏に促されて、SPのリーダーは立ったままサングラスを外し、目を細めた。

「……ここの海域はサンクチュアリなのでは?」

「残念ながら、沈丁花は人間を相手に武力を行使する組織とは認識されていない。世界規模で蔓延する恐れのあるウイルスの撲滅を目的とした、特殊機関として情報が公開され、現在のPFRSはなんともタイミング良くバイオハザード事件で脚光を浴びている。つまり、多少の強行が目立っても、諸外国や報道機関に対する言い訳としては十分筋が通る」

「まるで国のシステムがハッキングされたような気分ですね」

 プリエステスの表情に不愉快さが滲み出ている。

「その通りだ。そこで、我々は選択を強いられている……素直にPFRSを明け渡して全員で避難するか、それとも徹底抗戦に出るか」

「徹底抗戦……!?」

 ザワッ──!

 尋常でない提案に、ほとんどのメンバーが浮足立つ。当然だ。魅月氏を含め、この場にいる全員はPFRSという国営企業の従業員であり、資本のほとんどが軍部から出ている。徹底抗戦とは軍部に対する謀反であり、ヘタをすればテロリストとして扱われる。

「ダリア准将の最終目的は、神の設計図バイタルズの回収と思われる。諸君等にはあまり詳細を話したことはなかったが、アレは諸君等が考えているような、文明の遺物でもオーパーツでもない。軍部の手に戻れば、確実に良くない事が起きる……惑星規模でな」

「惑星規模?」

 エンペラーが小さく首を傾げた。

「デス、『ガイア仮説』を知っているかね?」

「地球の生物と無生物、すなわち大気圏・海水圏・岩水圏・生物圏が一つの大きな恒常的システムを形作っているとする、エコロジーの仮設ですわ」

「その通り。つまり、惑星は他の生物と同様に一個の生命体として存在し、なお且つ厳然たる意志を持つ。私は神の設計図バイタルズから回避不能な近い将来を知った。地球が自らの意志で“死”を理解するため、“自殺”を謀っている……と」


 ザワザワザワッ────!!


 異様としか言いようのない雰囲気が入り交じる。普通に聞けば、酔っ払いの与太話としか思えない内容だ。

「そ、それって……この世の終わりってコト……?」

 中央に座る一際恰幅のいい中年男が、脂汗で額をヌラヌラさせて呟いた。

「ちょっと『フール』、鵜呑みにしちゃダメっスよ。自殺と言っても、世界がアルマゲドンに突入するってワケじゃ……」

「諸君、これは外国の内紛をニュースで眺めているワケではない……現実はすぐそこまで迫っている」


  ――――――――――。


 静まり返った。自分達のボスがイカレた……とは思いたくないが、突然の荒唐無稽な話に動揺を隠せない。

支配人オーナー、我々にどうしろとおっしゃるのですか?」

 今の話を信じているのかどうかは分からないが、デスが指示を乞う。

「本来なら、責任者たる私は全員に退去命令を下さねばならない。しかし、出来ることなら……残って神の設計図バイタルズを死守してもらいたい」

「つまり、籠城ですか?」

 デスがイヤな二文字を口にする。

「し、しかし……訓練を受けていない多数の職員等は……」

 エンペラーが焦燥感をあらわにする。

「もちろん、非戦闘員に特攻をかけろとは言わん。職員や通常警備の者には、地下のシェルターに避難してもらう。ただし、そこまでだ。防衛ラインを突破されれば、PFRSと心中してもらうことになる」

 魅月氏が冷たく言い放った。

「じゃあ、軍部の大部隊相手にボク等が頑張らなきゃ皆死んじゃうワケだね、スター」

「ええ、そういう展開になるわね、デビル」

 少年少女がサラリと流す。

「ホッホッホッ、いくらなんでもSP22名で軍の特殊部隊は相手にできんよ。魅月さん、ここは素直に撤収を考えた方が賢明だと思いますな」

 ムーンが朗らかに正論を述べた。

「今の話を理解しなかったのかしら? 神の設計図バイタルズが軍部の手に渡れば、とりかえしのつかない事になると支配人オーナーはおっしゃいましたのよ」

 デスが敵意のこもった声で言う。

「申し訳ないが、そんな性質の悪い妄想のような話はとても信じられませんな。地球が自殺を望んでいるなど……ホホッ」

 ムーンがせせら笑う。その様子をエンプレスは複雑な気持ちで観ていた。

(どうする……どうする?)

 バイオハザードの真偽と支配人オーナーの真意を知るため帰還したが、帰ってみれば、予想外の非常事態に巻き込まれた。最早、個人の言動で容易にどうにかできる空気ではない。さあ、どうする自分?

 そんな時――

<失礼します>

 会議室の内線に連絡が入った。

「何だね?」

<こちら一階の警備室ですが、先程、正面玄関のロビーにて不審者二名を拘束しました>

「何者かね?」

<分かりません。ただ、蒼神博士に会わせろとずっと喚いています>

 その報告を聞いてエンプレスの顔色がみるみる悪くなる。

「アポイントは入ってなかったハズだが」

<え~……本人達は、『汐華部長』と『柏木平社員』などと名乗っていますが、身分を証明する物は所持しておらず、さっきからやたらと挙動不審です>


 ぐしゃ……


 エンプレスの顔面がデスクに沈んだ。

「……よく分らんが、待たせておいてくれ。後で向かう」

<了解しました>

 ざわっ……ざわっ……

 一部のエージェントがこの報告にどよめく。

「エンプレス……アノ二人は一体、何なんだ?」

 隣に座るエンペラーが、迷惑そうな声で彼女に問う。が、エンプレスにとっても何が何だかで、そりゃこっちが聞きたいってハナシだ。

「では諸君! 事は急を要する……迅速且つ正確に行ってもらいたい。プリエステス、フール、スター、デビルの四名はオペレータールームへ。マジシャン、ジャッジメント、ハングドマン、タワーの四名は各セクションに保管されている、銃器と弾薬を回収しメンバー全員に配分。他の者達は職員の避難誘導に協力してくれ」

 支配人オーナーの指示のもと、エージェント達が一枚岩となって動き出す。

「エンペラーとデス、君等は残ってくれ。別に話がある」

 言われて二人は立ち止まり、他のメンバーが全員ホールを退出したのを確認して、出入り口に電子ロックがかかる。

「さて……」

 支配人オーナーは虚脱したかのように壇上に腰を下ろし、合わせた手に顎をのせた。

「正直なところ、皆は不安で頭の中が混沌としているだろうな」

「……いえ」

「いや、いいんだ。私はさっきの話で一つとして嘘はついていない。その上で君達に死んでくれと命令した。それだけ事は切迫している」

 そう言ってうなだれる魅月氏にデスが歩み寄り……

「破壊しましょう」

 提案した。


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