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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第5章 クラス対抗祭
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第42話 魔人語

 壇上でステラが挨拶をする。



 純白の髪に白い素肌。


 服装は昨日とは違いセクシーなドレスでは無く至ってシンプルな服装だが、綺麗に纏まっていながらもそのスタイルの良さが際立って見える。



 ステラは俺と目が合うとニッコリと微笑み、俺も思わず見とれてしま…………ハッ!!


 いかんいかん!!



 分かる!


 俺には分かるぞ!


 隣に座っているアリシアが横目で俺を睨んでるのが!!


 さっきから視線が痛い!!




 ……ってか、仕事ってコレかよ………


 まさかこのセント・クラーク高校にて教鞭を取るとは………



 今まで学校で魔人語を教える講師は存在しなかった。



 魔人語を理解するには、魔人が残した書物を誰かが読み解くか、もしくは魔人語を話す知り合いから教えてもらう必要がある。


 今までそのような人物がいなかったのは、人と魔人での関係が築かれていなかったかららしい。



 魔人語を理解してみたい、とは思ったものの、まさかこんな形でそれが叶うとは……




 その後、ラインハート先生より言語学の特別枠について説明がなされた。



 通常の言語学を疎かにするわけにはいかないので、魔人語の授業は放課後にのみ行われる。


 今回急遽このような授業が追加されることとなったため、今年度は魔人語の試験が追加される訳では無いとの事だ。


 ま、来年からは試験に追加される可能性が高いらしいけど。


 というわけで、今年は特別枠の魔人語の授業は必修では無い。


 授業は1日1時間程度とのことだ。



「魔人語の授業、放課後の履修を希望する者は挙手しろ。」



 ラインハート先生が促すと、パラパラと手が挙がる。


 特に、ロータス、アキ、トーヤはピンと挙手をしていた。



 中々手を挙げない俺をステラは悲しそうな表情で見つめている。



 ………ちょっ………そんな顔ずるいって……



 俺も受けたいんだよ?


 でも女神様が先ほどから俺のことを横目で……



 いやいや!


 魔人語を理解する必要が必ず来る!


 アイツらの話す言葉を理解すれば、アイツらが次に何をするのかも理解できるってことだ!


 今後の活動を見据えるなら、魔人語は必ず役に立つ!


 これはやましい気持ちで受けるわけじゃない!


 断じて!!


 女神様はきっと、(アナタはなぜ受けないの?)という疑問でもって俺を横目で見ているに違いない!



 そう意を決して俺は恐る恐る挙手をした。



 俺の手が挙がったことで、ステラは分かりやすく嬉しそうな表情をした。



 その後、女神様も挙手をした。



「では一旦、今挙手をした者は明日の放課後より特別授業を受けるように。場所はこの教室だ。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……お前ら……なぜ魔人語を受けようって思ったんだよ?」


「えっ!?……べべ、別に、ややや、やましい気持ちなんて……」


「そ、そうですぞハル氏!それにハル氏も受けると挙手をしていたではありませぬか!」


「………お前ら、わかりやすいな………」


「アナタはなぜ迷っていたの?」


「んえっ!?」



 女神様が俺たちの会話に割り込んだ。



「……まぁ……今後を見据えて……かな……」


「そう。それじゃあね。」



 今日の授業が終わると言うのに、結局アリシアに弁解するチャンスは訪れず、アリシアはそう言うとそそくさと部屋を後にした。



「……あ……わ、悪い2人とも!先に帰っててくれ!」


「そうしましょう。」


「じ、じゃあね、ハル。」



 俺はアリシアの後を追いかける。



「ア、アリシア……今日ちょっとだけこの後お話でも……」


「………昨日のことなら、別に大丈夫よ。」



 『大丈夫』とは何が大丈夫なのだろうか?


 『昨日のことは誤解だと分かっているから、弁解する必要なんてしなくて大丈夫』の大丈夫?


 それとも、『アナタがド変態だということが分かったので、最もらしい言い訳をしなくとも大丈夫』の大丈夫?



 後者だとすると、全然大丈夫じゃないんですけど。



「……い、いや……ご、誤解されたまんまだとさ……」


「別に私は気にしないわ。」


「俺が気にするんだって!俺、誓ってステラたちをいやらしい目的があってそうした訳じゃなくって!」


「……………」



 アリシアは必死な俺の顔を見てくれて分かってくれたのか。


 しばらく沈黙した後、少し表情を柔らかくした。



「……分かっているわよ。そういえば、今日もトーヤの家に行くの?」


「……えっ………あ……今日は、行かないかな。そろそろ実家で種まきが始まるから、そっちを手伝おうかと。」


「………そう………大変ね。」


「父さんが腰をやっちゃってさ、ハハハ……それでもウチの父さんは弱いところを見せたくないのか……無理して悪化させてたみたいでさ……」


「………ハルに似たのか、ハルが似たのか………ともかく、アナタも無茶はしないでね。」


「……あ……う、うん………」



 俺と父さんが似てる……か………


 ……言われてみれば、似てる……のかな……




 ………いや、似てるな。




 前までの俺は何かあればすぐ諦めてた。


 それで愚痴ることはあったものの、その諦めグセのせいでいつも損な役回りだった。



 俺一人が泥を被ればいいって、そう思ってた。



 父さんは口数は少ないタイプだ。


 特に、弱みを人に見せたがらない。



 似てるってのは、自分で何かを変えようとすることを諦めてるってとこだ。



 父さんは人に頼るのを諦めてる。


 俺は人生を諦めてた。



 そういうところが、なんとなく似てるのかもな……




 そんな事を考えていると玄関に到着した。



「あー!ハルおにいちゃん!!」



 快活な声が聞こえたかと思うと、シエルが俺の足元に突然抱きついてきた。



「シ、シエル……!?……なんでここに……?」


「えへへ。お母さんに言われたの。ハルにいちゃんにとって1番好きな人になれればこうびできるよ、って!」


「ぶふぉ!!」



 こここ、こんなところで何言ってるの!!



「……シ、シエル……そそ、そんなことをここでそんな大声で……」



 周りを確認すると、女子は汚らわしい物でも見るかのような表情で俺を見ていた。



「だからねー、シーが一番になれるようがんばるの!」


「……へ、へぇ〜!」


「こんな小さい子に好かれて良かったわね。」


「とと、ともかくシエル!!お外ではそういうこと言わないように!」


「……そういうことって……こうびのこと?」


「そうそれ!!禁止!!」


「お外じゃ無ければ言っていい?」


「…と、ともかく、他の人がいるところでは絶対言っちゃダメ!」


「わかった!」



 お返事は宜しい。


 若干手遅れではあるがな!



「それでシエル。今日はハルに会いに来たの?」


「んーん。お母さんのお迎えだよ!」


「そう。1人で来たの?」


「ちがうよ!なんかね、『えーへー』って人と一緒じゃないとダメって言われたの。」



 シエルの言葉を聞いて校門を見ると、確かに見たことの無い馬車が停留しており、衛兵がこちらを見つめているのが見えた。



「あらシエル。わざわざお迎えに来てくれたのかしら?」



 振り返るとステラがおり、その背後には目を爛々を輝かせている男子生徒らが付いて来ていた。



「あ、お母さん!」



 母親を見つけたシエルは嬉しそうにパタパタと走って抱きついていた。


 こう見ると、ホント微笑ましい親子の姿なんだよなぁ。



「それじゃあ皆さん、失礼致しますわ。」



 ステラが子持ちだと知った男子生徒らの間には明らかに動揺が走っていた。



 ……そういや、ステラの夫はどこにいるんだろ?



「それじゃあハル様も。明日は楽しみにしております!」


「……あ……は、はい。」



 そう言ってステラはシエルを抱っこしたまま馬車へと消えていった。



「……子持ちってマジかよ……」


「人妻かぁ……」


「いや、諦めるのは早いぞ!」


「………禁断の恋……というのも悪くない。」



 男子生徒は口々に呟いている。


 コイツら、ステラの正体知ったらどうなるんだろうな?



「それじゃあ私もこの辺で。ハル、また明日ね。」


「……あ……う、うん!また!」



 ……良かった………


 いつもの女神様に戻ってくださってる。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうして次の日の放課後。


 俺たちは魔人語の特別授業に参加した。



 今ここにいる1クラスの参加者は、俺、アキ、トーヤとアリシア。リュゼとリオさん。ロータス。ジャック。ルイス。それとフェンさん。


 驚いたのは、そこにアーサーもいた。


 クラスで言えば、サイラス以外の男子が全員出席した形となった。


 サイラスはどうやら今度の対抗祭の練習で忙しいとの事だ。



 特別授業には他のクラスメイトも参加しており、圧倒的に男子が多かった。



「魔人語は、人語のように主語、述語、目的語、修飾語があります。けれども、その並びが人語のそれとは異なるのです。」



 こちらの世界での言葉の並びは、主語、修飾語、目的語、述語の並びだ。


 『誰が』『どこで』『なにを』『どうする』のように、日本語の並びと同じである。



 魔人後はこの並びが英語と同じである。


 主語『誰が』、述語『どうする』、目的語『なにを』、修飾語『どこで』、という順番で。



 魔人語では、この並びが基本的に変わることがない。


 なので、単語を覚えれば魔人語を理解するのはさほど難しいことでは無いそうだ。



 ……と、ここまで聞けば簡単そうに思うだろ?



 でも問題はこの次だ。



 それぞれの単語をステラが発音するのだが、これが人族には聞き取りづらく、発生しづらい音だった。


 よく日本人は『R』と『L』の発音を同じ感じにしがち、なんて話を聞くけど、そんなレベルじゃない。


 どこからそんな音出してんの!?って思えるくらい、発音できない。


 例えるなら、『づ』と『べ』を同時に発音してるみたいな。


 舌や声帯の構造に違いがあるためだ。



 逆に、人語の発音は非常にシンプルが故に、習得自体そこまで難しいものでは無いという。



 当初は軽い気持ちで受講したものの、こりゃあ相当に難しいな……




 ステラもそんな皆の反応を見てか、リスニングは一旦放置し、文字について教えてくれた。



 魔人の扱う文字は、地球で言うところの楔形文字に似ている。


 これは、爪で石を引っ掻いて文字を描いたことから始まったかららしい。



 ……しかしながら、だ。



 この文字を覚えるのも相当に難しそうだった。



 ちょっとした角度の違いで全く違う意味の言葉となるため、そのせいで文章全体も意味不明な言葉になってしまう。


 なので、魔人でも識字率はそこまで高いものでは無いという。



 ともかく、リスニングが絶望的な難易度だもんで、俺はまずライティングに専念することにした。



「あらハル様!ふふっ。その文字では意味が変わってきますわ。それでは『リンゴ』ではなく『女性の胸』ですわ!」



 ………あのさぁ………



 いちいちそんな大声で言わんでよろしい!!




 その後もステラはことある事に俺の元へとやって来ては懇切丁寧に教えてくれた。


 その度にステラは屈み、そのせいで豊満な谷間が俺の目の前へと現れる。


 こんなの、心に決めた女神様がいると分かっていても、逆らえる男がこの世にいるものか。




 第1回目の特別授業を終えたものの、参加した男子のほとんどはステラの美貌にあてられたのか、恍惚とした表情を浮かべていた。

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