第41話 新たな講師
「それでステラ氏。ハル氏により1ヶ月ほど前に助けられたと聞きましたが、もう少し詳しくお聞かせいただいてもよろしいですかな?」
あの後俺たちはトーヤの家に再度戻り、応接室を借りて話を伺うこととなった。
しかしながらシエルのほうはまだ完全には泣き止んでいないようだ。
「……あれは、私共が山で静かに暮らしていたところ、サレオスとヴェントに見つかってしまい、私共を無理やり連れ戻そうとしたのです。」
サレオスとヴェント?
誰だそれ?
……それに……山で静かに暮らしてた………?
「私共はそれを拒否したのです。当然サレオスは許す筈もありません。戻るつもりが無いのなら、私共を殺す、と………そこに現れたのが、ハル様でいらっしゃいます。」
………まさか………
「………ま……まさか………あの時の白いドラゴンの親子……!?」
「はい!あの時はありがとうございました。私共を助けたばかりか、その上お食事までご馳走になってしまって……」
ご馳走って、生肉とフォレストベアーか。
いや、それより!!
「……ってか、ドラゴンは人の姿になれるの!?」
「勿論ですわ。相応に魔力を消費しますので、普段はドラゴンの姿のままなのですが。」
「……ハルにいちゃん……シーの頭撫で撫でしてくれたのに……シーの事きらい?」
「……い、いや、嫌いってわけじゃなくってさ……その………交尾……ってのは……シエルちゃんにはまだ早いというか………」
「じゃあ、シーがもう少し大きくなったらこうびしてくれるの?」
「………いやいや………そ、そういうのは俺よりも他にシエルちゃんにお似合いの人がいいと思うんだよ………俺なんかさ……ほら!人族だし!」
「問題はありませんわ。私共龍族は人族と交合ったとしても、子を成すことが出来ますの。」
………くっ………
それもダメか!
ってか、人族とドラゴンの間でも子供ができるのかよ……
「なんなら、私めとお試しになります?」
「ぶふぉっ!!」
「……な、なんと大胆な………」
「あああ、ハ、ハル!!だだだだ、ダメだよ!?」
………前世でこんな綺麗な人にそんなこと言われたことなんてあるだろうか?
………無い。
ステラさんは身を乗り出して胸元を俺に見せつける。
………ごくり………
……いやいや!!何を考えてる、俺!!
「だ、だめです!!お、俺にはその……す、す、好きな人が……い、いるんで……!!」
「……あらぁ、そんな事、私は気にはしませんわ。龍族は基本的に一夫多妻ですもの。」
「シーもお嫁さんになる!」
「お、俺はその人に……その……操を守るというか……一途なんで……!!」
「………ハル様にはすでに、心に決めたお方がおあり、と?」
「そ、そゆことです!!お申し出は非常に有難いんですけど……」
「………そうですか………」
ステラさんとシエルちゃんはがっくりと項垂れてしまった。
……なんか、申し訳無い……
いや、でも!!
女神様を裏切ることなんて俺には出来ない!!
女神様が俺のことなんてどうとも思ってないと思うけど、それでも裏切りたくない!!
「……それで、ステラ氏はハル氏に会うためだけにセルス山からこのヴァレンティアまで遥々お越しになったと?」
「……勿論ですわ。それに、あの山に居続けると、また刺客が現れるやもしれません。」
「……ということは、このヴァレンティアに移り住む、という訳ですかな?」
「それについてはこの国の王とすでに話が付いておりますわ。というよりも、この国の王のほうから、私共に提案したのです。」
「………というと………?」
「この国でお仕事をすれば、私共も住んで良い、と。」
……へぇ……
あの国王がドラゴンだと知っていて移住を提案したのか。
……いや、もしかすると、見張りづらい山の中で居られるよりも、ヴァレンティアでなら見張りやすいってことももしかしたらあるのかもな。
それに、ドラゴンと魔人は無理やりにでも連れ戻そうとしたが、断られたので殺そうとしていた。
魔人たちにとって、ステラの力が他国に渡るのを恐れた、とも取れる。
だからこそ移住を許可し、ステラの力が魔人たちに戻らないようにする、ってことかもしれない。
「それで、住む場所は決まってるのですかな?」
「はい。私共も人族の姿を保ち続けるのは不可能ですが、そんな私共でも住める大きい家をご用意頂いたようでして。とにかく今は、ハル様に少しでも早くお礼がいいたくて、こうして足を運ばせて頂いた次第でございます。」
そりゃそうだ。
こんな街のど真ん中でドラゴンの姿を晒してしまえばパニックは必死。
にしても、わざわざ俺への感謝を優先するなんて律儀な人……いやドラゴンだな。
それならもっと言葉を選んで欲しいところだし、娘にはもっとこう……倫理というものをだな……
……いや、今はいいか。
人生で初めて心を鬼にして女性と子供のお誘いを断ったわけだから。
「……そういや……よく国王様が提案したよな。いくらステラやシエルが人族を襲わないっぽいって分かったからって、街の中、それも、王城もあるこのヴァレンティアに住まわせるなんてさ。」
「確かにハル氏の言う通りですな。いくら人に危害を加えないとはいえ、正体がもしバレてしまえば街中はパニックに陥ることですし。」
「そそ、それに、国王様は2人が人間の姿になれるって、知ってたってことだよね?」
「それについては、この国の王が私共の所へと視察に来られた時に人に変身して説明を申し上げたのです。」
「………ほう?」
ステラの説明によると、ある日に国王様が実際に人族に危害を加えないかどうかを見定めるためにステラたちのもとへ訪れたのだとか。
ドラゴン形態のままでは会話が出来ないため、ステラは自分の意思を示すために人へと変身し、人に危害を加えるつもりは無いということを伝えたそうだ。
国王様自身はドラゴンが人に変身できるとその時に知ったようで、衛兵含めて皆驚いていたと。
国王様は部下と何やら相談した挙句、ステラたちにヴァレンティアへと移住しないかと提案してきた。
当然、人の姿のまま暮らすには魔力が持つハズも無いので、相応の家と衛兵に見守られる形での居住となる。
以上が、国王様からの提案だと。
確かに、ステラたちをずっとセルス山に住まわせてしまうと、魔人たちがさらにやって来る可能性がある。
俺としても助けた手前、そのまま見殺しというのは気が引けるし、あの国王様が許可しているのなら安心だ。
「……一応さ、ステラたちにお願いなんだけど……」
「はい!なんなりとお申し付けくださいませ!」
「ハルにいちゃん!もしかしてシーとこうびを!?」
「違う!………ゴホンッ……俺がその……人形というか、黒衣の騎士だってこと、秘密にしてもらえるかな?」
「……黒衣の騎士……でしょうか?」
「……なにそれー?」
「ステラたちを襲ってきたドラゴンと魔人を撃退した人形のことだよ。」
「ハル氏よ。見せたほうが早いでしょう。」
「……だな。」
そう言って俺はAxelへと再びリンクし、ステラたちの前へと現れた。
「……ご存知かと思いますが、これは人ではなく人形でしてな。この人形には、ハル氏の意識がリンクしているのです。」
「………なるほど………そうだったのですね……」
「どおりでハルにいちゃんがあの時よりちっちゃいなって思ったー!」
………くっ………!
子供は悪気がない分、余計に心にダメージが来るぜ。
「詳しい説明は省かせて頂きますが、要は、ハル氏が人形を操り、それがとても強いというのを伏せて頂きたいのです。」
「それはもちろん構いませんわ。」
「この……お人形……?これもハルにいちゃんが作ったのー?」
「これは自分が設計し、トーヤ氏が鍛冶をして作り上げたものです。」
「けけ、結構調整したモデルだもんね。」
「まあ!!そうだったのですの!!ということは、あなた方お2人も私共の命の恩人というわけですね!!」
そう言うとステラは突然礼を言いながらアキを抱擁し、続いてトーヤにも抱擁した。
2人はステラの豊満な肉体に包まれ、短い時間だったがその至福の時を味わったのか、恍惚とした表情を浮かべていた。
………………
………なんか………悔しいな。
俺だけそのご褒美もらってないのに。
「……ゴホンッ……と、ともかくですな……この人形も含めて、誰にも話さないようにして頂きたいのです。」
「……やわらかい………」
「ご安心してください。その秘密、墓まで持っていくと誓いましょう。いいわねシエル?」
「うん!」
そこまで言ってくれるならステラたちから漏れることは無いかもな。
それに、ステラはなぜ俺が能力を隠したがってるのか、深くは聞いてこなかった。
それだけで十分だ。
「今日はもうそろそろお時間ですわ。心苦しいのですが、この辺りで私共はお暇させていただきます。」
「えー!もう時間ーー?」
俺はリンクを解除し、ステラとシエルを見送った。
その際シエルは俺に断られたことでまだ少しむくれていたものの、ステラが何か耳打ちしたかと思うと急に笑顔を取り戻し、元気よく別れを告げて去っていった。
……なんだろう。
俺はこの時、何かしらの不安を感じた……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おはよう。」
「……あ……お、おはよう……」
次の日、俺はいつものようにいつもの場所で着席して授業が始まるのを待っていたが、アリシアが珍しく俺の隣へと腰掛けた。
昨日の別れ際に冷たい表情だったものの、今朝はいつものように凛とした表情だ。
……まあ、誤解があるとアレだから説明しないと、だな。
「……あのさ……昨日のあれは誤解で………」
「分かってるわ。それより、ここは校内よ。迂闊なことは言わないように。」
「あ、はい。」
………………
………うん。
やっぱちょっと怒ってらっしゃるかもしれない。
いやいや、それは俺がみんながいる場所で変なことを言いかけたのを諌めてくれただけだ!
うん!
………やっぱり、後でちゃんと説明しよう。
「皆、席に着け!」
そうこうしているとラインハート先生が現れ、いつものように号令を掛けた。
「今日は皆に新しい講師を紹介する。」
……新しい講師……?
こんな中途半端な時期に?
俺と同じく、皆も不思議そうな顔をしていた。
「では、入ってきてくれ。」
先生に促されてクラスに新しい講師が入ってきた。
その白く輝く豊満な姿に、男子たちの目が釘付けになる。
俺は、違う意味で。
「彼女の名はステラ。これから言語学の特別授業として『魔人語』をお前たちに教えてくれる。こんな機会は二度とないぞ。しっかりと学ぶように。」
「みなさん、私はステラと申します。どうぞ、宜しくお願いいたしますわね。」




