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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第4章 約束
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第39話 ギャンビット

 二学期も終盤差しかかろうかという今日この頃。


 季節は完全に秋。


 学園内に生えている木々の葉が徐々に落ち始め、これから訪れる冬の物悲しさがどことなく漂い始める。



「ハル氏、乗り心地は如何ですかな?」



 俺たちはトーヤの家にお邪魔して、Axel(アクセル)のアップグレードを行っていた。


 と言ってもほとんど完成系であるため、アップグレードといっても本当に些細な違いでしか無い。



「……うーーん……何が変わったかがあんまり実感は無かった……かな。」


「ま、そうでしょうな。しかしながら、此度のアップグレードにて、運動性能が0.2%は上昇したでしょう。」


「……0.2%って誤差じゃね?」


「ハル氏よ、『大事は小事より起こる』のですぞ。」


「……え……?……なんだって……?」


「……確か老子の言葉ね。『天下の難事は必ず易きより(おこ)り、天下の大事は必ず細かきより(おこ)る』。」


「さすがはアリシア氏ですな。その通りです。」


「……誰か翻訳して……」


「簡単に言えば、大きな出来事はごく些細なことが原因で起こるということですな。小さいことを大事にしなければ、後々に大変な目に遭うということです。」



 全く、わざわざ難しい言葉を使うなっての。



 それとお気付きかと思うけど、この場にはなんと我が女神様もいらっしゃるのです!


 ……まあ、この前の約束以降、彼女は俺たちとよく行動するようになり、今回のアップグレードの話に「是非とも見させてもらいたい」ということで、共にトーヤの家へとお邪魔している。



「……それにしても……黒衣の騎士……じゃなくてAxel(アクセル)?の中身ってこんな風になってたのね。」


「ハル氏の戦闘スタイルから試行錯誤した末に完成されたのです。アドチウムという合金の発明により軽量化・耐熱性・強硬度を兼ね備えられたのが大きいですな。」


「……アドチウム……?」


「アダマンチウムを少量混ぜて作り出した合金です。」


「……そんな合金を……」



 まあそのお陰で大会の賞金やらアスタロト討伐での報奨金も全てぶっ飛んだわけだけど。


 たぶんこのAxel(アクセル)だけでも白金貨200枚くらい掛かってるんだよなぁ……



「それで、ハルが黒衣の騎士だって知っているのは他には誰が?」


「えーっと……弟のナツ、ローガン師匠と同級生の喫茶店のマスターにトーヤのご両親。あとは国王様と何人かの騎士団員らしいけど……どこまで知られているかは……」


「……やっぱり。お父様も知っていたのね。」


「……その口ぶりだと、アリシア氏のみならず他のご子息にも知らせていない、ということですかな?」


「おそらくね。1番上のジョセフ兄さんなら聞かされていてもおかしくはないと思うけど、他の兄弟については知らされていないハズよ。」


「箝口令を敷いてるってのは本当みたいで助かるよ。」


「……だとしても、迂闊に正体がバレてしまいそうな事は避けるべきね。ハルの能力は、下手をすれば戦争の道具としての利用価値が高すぎるわ。それこそ、【剣士(フェンサー)】や【騎士(ナイトランサー)】なんていう戦闘職とは比べ物にならない。」


「……ぜ…善処します……」


「クラスメイトには他には知られていないの?」


「知ってるのはここにいるメンバーだけだよ。」


「それなら良かったわ。アーサーは黒衣の騎士に対抗意識燃やしているし。」


「……そうなんだよなぁ……」


「……ただ、何となくなんだけど……リュゼには気をつけて。」


「………え……?リュゼ?」


「リュゼ氏が、ですかな?」


「どど、どうしてリュゼ君に気をつけないといけないの?」


「……あの人は、常に2番手しか狙っていない。どんな理由があるかは分からないけど、彼の学力なら1番だって狙えるハズなのに。」



 確かにリュゼは頭の回転が早い。


 でも、テストで常に2番なのは女神様が凄すぎるだけなのでは?



「……でも、それってアリシアが凄すぎるだけなんじゃ……」


「あの人は明らかにわざと2番を取っているの。この世界に来てからも、最初の中間テストは3位とギリギリの点差で2位。でも、その後のテストでは1位と3位のちょうど中間の点数を取りに来てる。」


「………それがリュゼの限界だってことは……?」


「単にそれならそれで構わない。」


「……ふむ……アリシア氏は、リュゼ氏が実力を隠している、と?」


「そうね。」


「でで、でも、リュゼ君は良い人だよ!?かか、か賢いだけじゃなくて優しいし……」


「杞憂ならそれはそれで構わないわ。少し引っ掛かるってだけだから。」



 ……リュゼ……か。


 俺としてはそこまで気にする事でも無い気がする。


 単にテストが2番なのはアリシアがリュゼよりも賢くて要領がいいだけなのかもしれないし。



 ……あれ……?



 ……そういや、リュゼはどうしてあの火災について、皆に知らせて無かったんだ?



 アイツほど頭の回転が早い奴なら、あの火災が意図的に仕組まれたものだったって気付いても良さそうだけど。




 …………いやいや、考えすぎか。




 それに、もしそれに気付いていたとしても、死んで転生した俺らにはもうどうしようも無い事だって考えていたのかもしれないし。



「……そういえば、Axel(アクセル)のアップグレードもいいけど、来週から始まるクラス対抗祭。ハルはどうするつもり?」



 クラス対抗祭。


 それは日本での体育祭とほぼ同じだ。


 この高校では生産職、戦闘職、それから演技職に分かれ、それぞれの競技に参加する。


 例えば、生産職なら『時間内に所定の物を作り上げる』みたいな。


 戦闘職では『チームごとに分かれ、相手の(たすき)をたくさん取ったほうが勝利』みたいな。


 演技職とはサイラスの【音楽奏者(パフォーマー)】のように、戦闘職でも生産職でも無いジョブでもって、皆に演技を披露する。



 本来なら俺は演技職部門に入るハズだったが、ロータスとリリーの勧めにより戦闘班に入れられてしまったのだ。



「……まぁ……あんまり目立たないように努めるしか無いかなぁ……」


「ハル氏よ。1クラスはただでさえ人が少ないですからな。複数の競技に出場せねばなりません。ボロを出さねば良いのですが。」


「……ま、負けたらアーサー君に何言われるか分かんないよ……?」


「放っておけばいいのよ。アーサーなんて。」



 相変わらず女神様はアーサーには手厳しいな。



「それよりも、リックスよ。覚えてる?」



 ……あぁ、リックスか。


 1週間のジョブ訓練時、俺たちを襲撃者に売ったアイツ。


 それだけじゃなく、デクスター卿とやらがアリシアを狙ってる、だなんて(うそぶ)いたアイツ。



「覚えてるよ。」


「今回の対抗祭で、ハルに何か仕掛けてくる可能性が高いわ。」


「………何か……か………仕掛けてくるとしたら、直接俺に攻撃、とか?」


「審判に見えないように怪我をさせようとしたり、ね。」


「……で、でで、でも、そんな事知れたら退学になっちゃうんじゃ……」


「目的のためならクラスメイトを殴り倒すような奴よ。彼の恐怖政治がクラスメイトに行き届いてるのなら、捨て駒に誰かを使ってハルを怪我させようとしてもおかしくないわ。」



 ……ふむ………


 それもそうだ。


 アイツが俺と黒衣の騎士が繋がってるだなんて考えてはいない。


 襲撃者を俺が撃退したことも知っている。


 アイツからすればロータスよりも俺が邪魔だから、デクスター卿の話をでっち上げて俺がどう動くか観察した。



「……なんとかして一泡吹かせてやりたいなぁ……」


「……ほう。ハル氏がそう仰るとは珍しいですな。」


「だってアイツ、俺の事を試そうとしたんだぜ?その上で黒衣の騎士を引っ張り出そうとしてさ。」


「………ちょっと待って。それ、何の話?」



 俺はリックスが俺に仕掛けてきた話について説明した。


 その事をリュゼに相談したことも含めて。



「……そんな事があったのね。」


「うん。だから、今度もし俺たちに何かしてくるなら、一泡吹かせてやりたいなぁって。」


「仕掛けてくるにしても、どんな手を使うかによりますぞ。」


「そ、それに、反撃とはいえ逆に怪我させたら……」


「分かってるさ。それに、アリシアも言ってたように、リックスが直接手を下す事はしないと思う。手駒を返り討ちにしたところで、アイツにノーダメじゃあつまらない。」


「1番簡単な方法は、首謀者の言質を取ることですな。」


「俺がShadow(シャドウ)で諜報する、とか?」


「ハル氏が言質を取ったところで意味はありますまい。それでは言い逃れられてしまいますな。」


「じ、じゃあ、録音機器でも作る、とか?」


「トーヤ氏、録音機器と簡単に申されても、今からでは小型化は間に合いませんな。」


「……うーーん……」



 何か手は無いか?


 狡猾な手段を使う奴を炙り出し、白日の下に晒す方法。



「ねえ、ハル。ギャンビットって覚えてる?」


「んえ?ギ、ギャンビット?」



 突然何だ?


 えーーっと、ギャンビットって確かチェスの用語であったな。



「……た……確か………自分の駒を犠牲にしながら盤面を良くする手……だっけ?」


「その通り。ポーンを1つわざと取らせることで、盤面を優位にする手法。相手が対応を間違えれば、大きな駒損を招くこともある。」


「………ピースさん……いや、アリシアにやられたな、それ……」


「……それはともかく、エサを与えてやるのよ。」


「……エサ……?」


「リックスが何か仕掛けてきやすいように誘導するのよ。当然、彼の標的は私かもしれないけどね。」


「……誘導って……そんな上手く出来るかな……?」


「私かハル。このどちらかに仕掛けてきやすいようにわざとスキを作る。他のクラスメイトに矛先を向けさせないようにするためにもね。」



 アリシアは続けた。



 リックスが仕掛けてくる事を前提として、手を下すなら戦闘職での競技だろう。


 なにか仕掛けてくるなら、怪我をさせるか何かしら自分たちを陥れる手段を講ずる。


 それにわざと引っ掛かる。


 怪我をさせてくるなら怪我をしたフリをする。


 他の手段として考えられるのは妨害だろう。



 しかし、ただそれらに引っ掛かる訳ではない。


 チェスにおけるギャンビットと同様、自分の優位な盤面を築く必要がある。



「……でも、どうやって優位な盤面を築くんだ?」


「良い方法があるわ。」



 そうしてアリシアはその方法を俺たちに説明した。





・・



・・・



「というのが作戦。」


「……なるほど……それでリックスの鼻を明かすってわけか……」


「……ふむ……さすがはアリシア氏ですな。」


「でで、でも、上手くいくかな……?」


「この方法のメリットはね、失敗しても何らデメリットが無いのよ。」



 さすがはアリシア。


 失敗してもデメリットも無く、やるだけやってみる価値がある作戦を即座に思いつくなんて。


 まあ、そもそもリックスが俺たちを嵌めようとしてくるかどうかだけど。



「……それにしてもさ……リックスがこの大会で俺たちに勝利するためだけに妨害してくるとしたら、なんか小さい男だよな………」



 ふと俺が発した。



「………確かに………」



 そう発したのはアリシアだった。



 リックスは俺に脅しを掛けて来た時も、裏には黒衣の騎士を捕らえるという別の目的があったと俺たちはそう推測している。


 そんなリックスが、ただ俺たちに勝ちたいがために妨害をしてきたとしたら、俺たちの想像するリックス像と少し異なる。


 もしリックスが今回俺たちの妨害をしてくるなら、もっと別の、所謂『真の目的』があるはずだ。



「……ここで想像していても仕方ないわ。」




 アリシアの言う通り、か。



 ともかく、今のうちにやれる事だけはやっておかないと、だな。

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