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俺はジェイ。マークスと忌み子のリンってやつに狩りを教えている。
マークスも最初は狩りのことを全然知らなくて色々教えていたんだが、二年ですっかり立派な狩人になっちまった。
もう教えることがねぇ、あいつは天才だ。
しかもこいつらは毎日運動をしているし、冒険者と訓練を積んでいて、努力もしている。
俺より強くなってるんじゃねぇか?
それに加え、マークスには恐ろしいものがある。
「ジェイさん、森のもっと深くへ行ってみたいです」
「……またいつもの好奇心ってやつか?」
それがこれ、計り知れない好奇心の旺盛さだ。
こいつは何でも知ろうとする。魔物についてのことだけでも数え切れないくらい質問をされた。答えられなかったのも幾つかある。
忌み子を買ったのだってその好奇心のせいだ、まず並の精神ならこんな歳でわざわざ買おうとは思わねぇ。
こいつの親――マーシャにもそんなことを言われたな。
マークスは好奇心が強すぎる、私ではどうにもできない。でも狩人の貴方の言うことはちゃんと聞くはず、だからどうか制御してやってと。
こいつは年々鍛えて腕を磨いている。好奇心もより増しているように思える。正直いつまで制御出来るか……そもそも既に制御しきれているのか分からない。
マークスが上目遣いで聞いてくる。
「ジェイさんは行ってみたくないんですか?」
勿論行ってみたいさ……より深くにはどんな動物がいるのだろう、どんな魔物がいるのだろう、気になるさ。
実際若い頃に一度こっそり行ったことがある。だが俺の実力では危うかった。弓で一撃では仕留められず、気配を殺していても気づかれそうだった。
好奇心より死の恐怖が勝ったのだろう、あれからもう二度と行くことはなくなった。でも好奇心が無くなった訳では無い。こいつらもそれなりの腕はある、三人で協力すれば大丈夫か?
「まぁジェイさんが行かないなら、二人で勝手に行きますけど」
サラッととんでもないこと言ったなこいつ。
死ぬのが怖くないのか? こいつの事だから何かしらの策はありそうだが。
でも流石に二人で勝手に行かせる訳にはいかない、放置して何かあればラースやマーシャに合わせる顔がない。
事前に俺に確認してくれるからまだ何とか制御は出来ているのだろうが……もう俺にも無理そうだ。
もう俺には手に負えん。
より深くまで潜った、魔物は俺が居なくても問題なかった。むしろ俺の方が問題だ。
そしてこいつはいい感じの洞穴を見るけると、ここに研究拠点にするなんぞ言い出した。マークスは先程の頼み事もそうだが、一度決めたら譲ることは無い。ダメと言ってもこっそりやるだけだろう……
こんな洞穴で毎日マークスの研究に付き合ってられる程、我慢強くもない。狩りじゃねぇしな、困った困った。
「ちょっと考えさしてくれ」
とりあえずこれからマーシャに報告する、マークスに悟られないように彼が寝た後の夜に話をしているのだ。
マーシャの反応を想像すると頭が痛い、実質深い森の奥でマークスを放置する訳だからな……
「―――ということなんだ、正直俺は付き合いきれん、どうすればいい」
「遅かれ早かれいつかはそうなる予感はしてたわ……でも貴方はマークスを鍛えてくれたわ、実際大丈夫そうではあるんでしょ?」
「あぁ、ハッキリ言って俺より強い、足も早いし少なくとも死ぬことは無いはずだ」
「そう……その研究をやること、場所まで教えてくれたのよね。だったらこれからは定期的に……月に二回でいいから、一日その研究に同行して何を研究しているのか教えて欲しいわ」
「まぁそれくらいなら構わないぜ」
マーシャも薄々そうなる予感はしていたらしい。思っていたよりもあっさり許された。
勝手に色々やられるよりはマシなのだろうか……俺らにはどうしようもねえのかもな。マークスだって一人の人間だ。彼には彼の道がある。
脳内にマークスにどこか似ているラースの顔が浮かぶ。
マークスはラースの息子だ、この村に収まるような器ではないのかもな……
思わず空を見上げる。綺麗な星空だ。
やっぱマークスと離れるのは寂しいな……