40話 泥棒
1の月19日目。その日ダリエは珍しく朝からざわついていた。
昨晩図書館に泥棒が入り、持ち出し禁止の図書が数冊盗まれたのだ。
盗まれたのはいずれも魔族の国イズールに関する書物だったそうだ。一体どんな物好きがどんな目的で盗んだと言うのだろうか。
そして、あろうことか、犯人はまだダリエの学園内に潜んでいる可能性があるのだという。というのも、ダリエは高い防災壁に囲まれており、学園の外には出られないのだ。出入り口はすべてガードされているので犯人は袋のネズミ状態である。
俺たち生徒は校舎内に入ることができず、来た馬車でそのまま帰ることとなった。自宅学習になったのだ。
◇◆◇
翌日、犯人が捕まったことを知った。
犯人は二人組の男で中央校舎の近くで大やけどを負った状態で発見されたのだという。二人とも命に別状はなかったが、守衛達に発見された時はブルブルと震え、ずっと助けを乞いていたそうだ。
あの悪魔が、悪魔が来る!とずっと震えながら叫んでいたらしい。
書物は無事で、図書館に返却されたらしい。
これが、俺とフォルカーが稽古の帰りに互いの持ってる情報を擦り合わせた結果だった。
ちなみに今日はフォルカーは珍しく剣術の稽古場に来ていたのだ。俺は久しぶりの骨のある試合に心躍った。
2つ上の先輩たちが卒業してからは少しだけ物足りなさを感じていたのですごく刺激になったのだ。本当にフォルカーの身体能力はずば抜けていた。
これが魔力によるものだと知ってもなお、それを使いこなしているフォルカーに感服していた。
「ねぇ、リット。気づいてるでしょ?」
「何がだ?」
「犯人の火傷のことだよ」
フォルカーの紡ぐ言葉に俺は言葉を詰まらせた。
彼の言いたいことがわかった。
わかったからこそすぐに返せなかった。
「俺は疑いたくない」
そう言葉にした瞬間、言葉とは裏腹に不安が募った。
火傷と聞いてドキリとした。
中央校舎付近と聞いて冷や汗が出た。
その2つの共通項を知っている生徒は、多分、俺とフォルカーだけ。
「リット。でもさ、あの人、火が得意なんでしょ?」
先生がやっただなんて、思いたくない。
「でも、先生は医者の卵だ。人を傷つけることなんて、、」
「僕はあの人のこと信用しきってないから。絶対何かあると思う」
「そんなこと、、」
俺は疑いたくなかった。
ガードマンでも火炎放射器などを使えば火傷を負わせることくらいできる。
そう。先生じゃなくても可能だ。
でも。
もしかしたら。
そんなことは思ってはいけない、と俺は首を横に振った。
医者の卵である人が、人を傷つけるわけがない。
そうだ、先生はそんなことするわけない。
俺はそう思いながらも、心の不安を取り除くことができなかった。




