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26.5話 失態

リットが立ち去った医務室に、紺ずくめの大柄な男が姿を現した。オレンジに近い茶髪を短く刈り上げ、暗い緑色の瞳をした彼は、極力気配を消して医務室内のベッドのカーテン裏に潜んでいたのだった。



「まさか、居るとは思わなかったな。気配消すのうますぎるだろ。あの様子だと、ある程度は聞いてたな」

紺ずくめの男、カールははぁとため息をついた。

「すみません。忘れ物を取りに来る可能性を考えておくべきでした」

ロイスもまた今後のことを思い小さくため息をついた。

彼のことだ、また色々考え込んでしまうだろう、と。


「お前の秘密も周りに漏らしてないんだろ?だったらこっちの仕事のことも教えたらどうだ?」

「そんなことしたらさすがに上に報告しなくちゃいけなくなるでしょ?目をつけられるようなことは避けたいの」

「俺が言っちまえばすべておしまいだろ?」

「カールさんは相棒を売り渡すような卑怯なことをする男じゃないですもんね。信じてますわ」

ロイスはニコリと笑ってみせた。

カールは苦笑いを浮かべたのだった。

「心に刺さるな。話には聞いてたがますます欲しい人材だ。いい加減名前くらい教えてくれてもいいだろ?上には報告しないからさ!な?」

「嫌です」

ロイスはカールの提案に即答した。カールは軽く舌打ちをした。


「お前からも勧めといてくれよ。いい就職先だって。お前の秘密も知ってるなら話は早いしな」

「彼らの道は彼らが決めることですから」

「連れないやつだ。さっきの件は了解した。上の判断次第だが、とりあえずは俺だけで動いてみるさ。もしも例の件に絡んでるようであればその時はロイスにも動いてもらうことになる。あっちの部隊を動かすのはちとめんどくさいからな。アイツが副隊長になってから手続きがややっこしくなったんだ」

カールはクソ、あの堅物赤毛野郎と付け加えた。

ロイスは確かに堅物よね、と思ったけれど口には出さなかったのだった。

「それは今までが緩すぎただけでしょう?わかってます、自分の尻拭いは自分でするわ」

それはこっちの件だけではなく、リットとのこともあった。

隊長の言うとおり素直に言ってしまった方がいいのか、何も言わない方がいいのか。


でも彼のことである。いつぞやのように授業や剣術の稽古で怪我をしてしまうかもしれない。


ロイスは先を思いやり心の中で小さくため息をついたのだった。



「ところで話は変わるんだが、いい加減、エルナちゃんの好みを教えてくれ!」

カールは声色を変え、ロイスに頭を下げた。王宮で侍女見習いをしている彼女に一目惚れし、色々調べているうちにロイスと同郷で同級生だということを知ったのだ。同郷ということはコンバーターなのであるが、彼は大して気にしていないようであった。


「前から言ってますが、業務外のことはお教えできません。が、少しだけ。エルナは多分カールさんみたいなタイプは苦手だと思います」

ロイスは少々言いにくそうにしていた。

「そんな?!なぜ?!」

新たに知るその情報にカールは目を見張った。

「カールさんはどことなく彼女のお兄さんに似てるからです。全体的に大きくて強くて豪快で。何度かデートに誘ってもだめだったのはそれが原因じゃないかと」

ロイスの頭に浮かんだのは豪快に笑う彼女の長兄であった。

彼女が半ば強引にこっちに就職した理由を知るロイスからすれば、彼女の長兄と雰囲気が似ている相棒が相手にされないのは火を見るより明らかであった。

「そんな!頑張って磨いてきた男らしさが仇になるなんて!!」

カールはガーンという効果音がつくかのように口をあんぐりと開けた。

「私は嫌いじゃないですけどね」

「お前に好かれてもなぁ。キレイだが男はちょっと」

カールのしどろもどろした返事にロイスはふふっと笑いをこぼした。

「リップサービスですよ、次期隊長さん」

「ちっ。まだ内々定だ、他言するなよ」


それはリットが来る前に話していた内容だった。

カールは次年度から隊長を務めることとなったのだ。25歳という若さでは他の部隊では異例ではあるけれど、この部隊ではまずまずである。それほどまでに若くして抜けてしまう隊員が多い職場なのだ。

「他言する相手なんていませんから。では、また」

「またな。相棒」

こうしてカールは外用の出入り口から医務室を出た。



ロイスは小さくため息をつくと、机上のランタンを持って廊下に出たのだった。



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