19話 努力の代償
俺は壁を殴った事件を機に、何事にもより一層力を入れて取り組むことにした。
そこでわかったのは、俺は力を入れて取り組むほど失敗しやすいということだった。今までは何事も肩の力が抜けて上手くできていたようだった。
理化学の実験では肩に力が入り薬品を入れすぎてしまい反応が大きすぎて試験管を割ってしまったし、文学では作者の意図を深く考えすぎて読み違いが多発するし、体育では全力で走りすぎて減速が間に合わず正面の草むらまで突っ込んでしまったりと今までの俺には考えられないことばかりが起こった。
周りも明らかに困惑しており、特に、昔からキャーキャー言ってきてた取り巻きの女子たちの熱の冷めようが非常に面白かった。彼女らはクールで何でもできる俺が好きだったようで、その像を崩されたと影で泣いていた、、というのをフォルカーから聞かされたのだった。
逆に男子からの好感度が上がったようで、今まではあまり仲が良くなかったやつらとも絡むようになった。彼らは今までの俺の透かした態度が気に入らなかったらしい。
失敗した後はちゃんと振り返ることを忘れなかった。目を背けたくなるような恥ずかしいものばかりだったけれど、それを糧にして次のステップに進むのは楽しくもあった。
なんとも残念な結果であるけれど、俺は今の方が生きている感じがして好きだった。ようやく人間になれた、そんな気がしたのだ。
剣術に関しては一時的に他のやつらに負けることがあったが、より一層の努力が実を結び、再び負けることは少なくなった。
負けて悔しいという感情が俺の中にあったことに、俺は大いに喜んだ。
先生の悪口を言っていた例の先輩たちにも順調に勝てるようになった。
実はその先輩たちの中に夏の大会の優勝候補がいたのだけれど、そんなことは俺の知ったことではない。先生の悪口を言ったことを後悔させてやる、その執着が俺の剣術の糧になっていった。
そんな俺の様子を見てか、フォルカーも稽古により一層励むようになった。彼曰く、「リットが頑張ってるのに僕が何もしないのは友人として恥ずかしい」だそうで、フォルカーの異常な強さの噂は剣術の稽古場にまで流れて来るほどだった。
夏季休業期間に入り、大会ではそれぞれの部門で俺とフォルカーが優勝を飾った。高等部一年が優勝するのは稀であるようで、俺らはちょっとした有名人になってしまった。なんとも居づらいものである。
そしてそのことが後の出来事に繋がることになったのだった。




