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はじまりの場所  作者: ひろゆき
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 ーー あの“雪花の星”を ーー (1)

 今回より第三章になります。ここからはより、ミロクと霞との関わりを深く描いていきます。それは螺閃の知らないことであり、霞には知られたくないことかもしれません。でも、これからの話には重要なことでもあります。

 よろしくお願いします。

             第三章

        ーー あの“雪花の星”を…… ーー



 空を眺めていた視界を、小鳥たちが何度も横切っていた。

 このままじっとしていてもダメか……。

 寝そべってばかりではいけないと身を起こし、さっき飛んでしまった工具を取りに動いた。

 残るはあの意味不明な部分か……。

 工具を拾い上げ、これから行う修理の場所を思い描いたが、その場所に頭を悩ませてしまった。

 これまでの作業によって、俺が手を施せる箇所の修理はほぼ終わっていた。すでにない右腕、不明な膜を張ったレンズ。そして記録装置のそばに設置された不明な部分を残して。

 ミロクのそばに戻りながら、前に一度開いた構造を思い出した。時間短縮と後回しにしていたが、厳重にロックされているこの装置を直すには手間がかかりそうだ。

 人間でいう、胸の辺りにこの装置は位置していた。四方三十センチほどの正方形に、そこから放射線状にいくつもの配線が広がっていた。位置関係からして、レンズよりも重要で、本当に「鬼兵」の心臓のように見えてしまう。

 ミロクの前に座り直し、その部分を睨んだ。できる限りパーツを取っていくと、この正方形の一面に、ロック用の数字の入力装置が備えてあり、零から九までの認識番号が打てるボタンがついていた。

 難解ともいえるこの障害にぶつかってしまい、前に進めないでいた。思い当たる数字を打ってみた。ミロクの型番である「三十六」である。

 だが、この安易な数字はやはり受け入れられず、“エラー”と警告音が鳴ってしまう。

 霞なら、とも考えた。しかし、こういう事態に限ってあいつは現れてくれない。それで頼んだのがミロクだった。こいつ自身なら、その番号を知っているはずだと信じて。

「やはり霞に訊いてみるか? けど、最近あいつは出てこなし、もうそろそろ、“雪花の星”で時間が迫っているのに……」

 焦りから苛立ち、頭を掻きながら吐き捨てた。

 頭を悩ませる原因の一つが“雪花の星”だった。あの白衣を着た二人の会話を聞く前から鬼兵の停止原因とは知っていたが、ミロクの修理自体が容易に終わると高を括っていたせいで、あまり気に留めていなかった。

 けれど、その問題が次第にミロクのそばまで迫っていた。

「頼むよ。識っていることを教えてくれ。お前が助からなかったら、結局、霞は悲しむんだぞ。それでもお前ばっかりいいのかよ?」

 弱音を吐くように、ミロクに当たってしまう。

 目の前が真っ暗になりかけたとき、指の隙間から見えるミロクの体が一瞬、動いたような錯覚が俺の気を引いた。

「ーーミロク?」

 驚きながらも見渡すが、ミロクが動いた形跡は見当たらない。

 錯覚だと納得できず、ミロクの足元も調べた。少しでも動いたのなら、地面の土が盛り上がっていたり、擦れている可能性があるから。

 それを調べていると、別のことで動きを止めた。

 地面を必死で探ろうとしていたが、目頭付近がなぜか気になって仕方がなかった。ゆっくりと顔を上げ、ミロクの体を見上げた。

「ーーっ」

 俺は驚愕して目を疑った。幻ではと身を乗り出して、何度も目を擦って確認する。だが、幻ではない。あの入力装置に見覚えのない数字が浮かび上がっていた。

 勝手に入力された数字。モニターには“零、零、ニ、三”と打たれていた。

 俺には見当がつかない数字。残る入力者は一人、ミロクだ。なぜ急に賛同してくれたのかは置いておき、こいつはやっと力を貸してくれたのだ。何よりそれが嬉しかった。

 配列されたボタンの最下段にある確定用のボタンが赤く光り、認識を急かしていた。俺はボタンを押して、ミロクの厚意に答えた。

 ボタンを押すと、数字が点滅して認証し始めた。疑いはしていないが、認識されるまで落ち着かなかった。

 今度ばかりは“エラー”の文字は浮かばず、ことなく認識され、「ピピピピ」と認識音を上げて、入力装置のあった面から「カチッ」とロックが外れる音がし、導かれるように、俺はその面を開いた。

 工具などでは解体できぬほどに厳重にロックされていた。このなかにはレンズ以上に価値がある物が収められていると踏んでいた。が、そこには思いもよらない物が収められていた。

 なかは複雑な配線が施されていると思ったが、そこには小さな本のような物が入っていた。首を捻りながらも手を伸ばし、掴むと取り出した。

 密封された場所に保管されていたせいか、破損はしておらず、綺麗なまま残っていた。

 なぜ、こんな物が鬼兵に? よりによってこんな厳重なところに。

 よく見れば一冊の手帳だった。不可解な保管の仕方が奇妙さを高ぶらせていた。

赤い表紙の手帳には、なんの題名も記されていなかった。

「赤い表紙…… まさかな」

 頭に引っかかるものはあったが、そのまま中身を確認するべく、パラパラと手帳を捲ってみた。

 中身は間隔を空けつつ、文字が綴られていた。お世辞にも上手いとは言えない文字。見た目からして、子供が書いたようだ。

 軽く見ただけでは内容を把握できず、中身をちゃんと確認すべく座り込み、ミロクの足に凭れながら初めのページを開いた。

 手帳自体に厚さはなく、すぐに読み終えると高を括っていたが、読み出すと、その困難さから目を凝らしてしまう。

 子供の執筆のため、形が崩れたり、大きさも大小様々だが、整理はできそうだ。

 ーー 今日、偉い人から赤い手帳を貰った。私はプレゼントされたのがすごく嬉しかったけど、その人は怖い顔で「毎日あったことを書け」って言った。意味分かんない ーー


 整理するとこれだけの文。崩れた文字を読み取るなら、まだ解体時に出るセキュリティを解く方が断然楽であった。

 これが手帳一冊となると、先が思いやられる。


 ーー 今日はすごく驚いたことが起きた。「三十六」と呼ばれる「鬼兵」と会った。偉い人はしばらくこの兵と一緒にいろって言った。大人はこの鬼兵をなぜか怖がっているようだけど、私はこの鬼兵の目がすごく優しく見えて、嬉しさからつい、踊っちゃった。けど、怒られた ーー


 いくつか出てくる聞き覚えのある文字。「三十六」、「鬼兵」、そして「踊っちゃった」この単語から導かれたのは、この手帳を初めて見たときの俺の引っかかりを確信へと変えた。

 この手帳の持ち主は霞だ。


 ーー みんなはこの「三十六」をそのまま数字で呼んでいるけど、私にはそれができなくて、名前を決めることにした。すごく悩んだ。それで決めた。この子の名前は、「ミロク」うん。決まり ーー


 名前が決まってからは、二人の楽しい時間が数ページに渡って書かれていた。初めは幼い赤子をあやすような日々が書かれ、それこそ、子供が徐々にに物事を覚えて成長していくように、ミロクとの生活が書かれていた。

 霞が以前、自分を「お母さん」とよんでいたのを、手帳を読んでいると思い出した。


 ーー 今日、おかしなことが起きた。いつも、私たちがいる庭で、昨日まで見ていた人がいないのに気がついた。ほかの「抑」の女の子に訊いたけど、知らないって言った。どこに行ったんだろう? ーー


 手帳の中盤辺りだろうか、文章が変わりだしていた。


 ーー 昨日、訊いた女の子が今日は庭の片隅で一人、泣いていた。あの子の鬼兵はどこに行ってしまったんだろう? 明日もし見かけたらしい、もう一度訊いてみよう ーー


 ーー 女の子は今日もいた。昨日と同じ場所に一人で座り込み、まるで私たち鬼兵と一緒にいる抑から逃げているみたいだった。思い切って、私はその子のそばに行って、「どうしたの?」って訊いた。そしたら、「私、嫌っ」って怒って、この庭を出て行ってしまった。私、何か悪いこと言ったかな? ーー


 ーー 今日、庭に行くと、あの女の子を捜した。謝りたくて。けど、その子はもういなかった。その子の友達だった男の子に訊いた。けど、怖い顔をするだけで、教えてくれなかった。あの子、どこに行ってしまったのだろう? ーー


 その後も幼い霞にとって不可解な行方不明者は増えていったと書かれている。俺は事前に今の霞から話を聞いていたために、この事情はすぐに読み取れた。霞の周りで消えていった「抑」の子供たちは、パートナーだある鬼兵とともに、戦場へと駆られていたのである。


 ーー 今日は聞きたくないことを聞いてしまった。前に、私を怒った子の友達である男の子が泣きながら言ってきた?「俺たちの番みたいだ。俺たち、明日出撃だって。行きたくない。戦いたくない」って ーー


 珍しく、その日は二つに分けて記されていた。


 ーー 男の子が泣いていると、大人の人たちがその子を捕まえに来た。男の子が嫌がっているのに、無理矢理連れて行こうとした。私は「嫌がっているのにどうして連れて行くの?」と訊いた。すると一人が「戦争に勝つためだ。お前たちはそのために存在するのだ」って怒られた。その顔はすごく怖かった。まるで鬼のようで……。


 あの後、残った私たち「抑」は集められ、大人たちから話を聞いた。そらはミロクたち鬼兵は兵器だって。戦争をするための。私たちは戦争で鬼兵を上手く使うために、今は一緒にいるって。確か、ソウタイ…… なんとかを高めるのに。それだけの存在だと。それを聞いてみんな泣いていた。私も泣いた。ミロクは兵器なんかじゃない。私の友達、友達なの……。


 男の子はきっと、女の子がいなくなったときに、そのことを知っていたのだと思う。だからあのとき、私には怖い顔をしたんだと思う。だから怖くなって…… ーー


 続きは滲んで読めなかった。どうやら、書いている途中で涙が溢れて止まらなくなっていったのだろう。俺もこの日記を読んでいると、大人たちの勝手な都合が伝わってきて腹が立ち、手帳を握る手が時折震え、歯を食いしばりながら読み続けた。

 続きを読んだいると、驚きもあった。最初は崩れた文字が乱れているのがめだっていたが、このころになると、綺麗に整えられていた。

 このころの霞はまだ十歳にも満たない。だが、彼女が受けた緊張が急速にいろんな面での成長を促進させたのだろうか? 

 勝手な大人たちから説明された日のページから、それまでになかった記入が施されているのに気づいた。

 ページの端下に、不明な番号が記されていた。この日の記入は「十三」これはページ数にしては少なすぎるので、また別の物を指す番号のようだ。

 これまで霞は自身の過去を詳しく話しませんでしたが、ミロクの行動によって、紐解いていかれるのですが、それは螺閃の思っていたものとは違っていたもの。それはもうミロクが螺閃を霞と同じ思いで接しようとしている証であり、やはり、ミロクを“人”として扱いたくて、心を開く形としての行動としました。今後、どうなっていくのかを読んでいただけると嬉しいです。

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