22 笑えない冗談
いつしか青年は、人間だったときのことから、サメに食われて、その後いろいろあって、ヒトデになってここに来るまでのことをカメに語っていた。
「オニヒトデに論破されて悔しかった」
「はい」
「それで、せっかくの仲間の元を離れて、ここで一人はぐれて飢え死にする時を待っている」
「し、死にますかね」
「いずれは。誰でもいつかは死ぬ」
そういうウミガメ自身はずいぶん長生きしているようだったが。
「ところでお前の長い退屈な話を聞いているうちに腹が減ってきた」
「退屈でしたか、すいません」
「いや、長く生きて来て退屈には慣れている。退屈が耐えられなければカメはやっていられない」
「なるほど」
「しかし腹は減った。なのでお前を食おうかと思う」
「え?」
カメは目を細めた。笑ったようだった。
「冗談だよ」
「じょ、冗談でしたか」
カメは声を立てずに笑った。
青年があまりにもシケた顔をしているので気分をほぐそうとしてくれたらしい。
気づくと青年はサメザメと泣いていた。
サメザメと、とはサメのようにという意味ではない。
またヒトデがどうやって泣くのかあまり深く追求してはいけない。




