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サンゴとオニヒトデ  作者: 青海 嶺
21/26

21 煩悩のお味は

 サメにしては、動きが異様に緩慢だった。

 巨大な影は、どうやらサメではない。

 それはゆっくり近づいてきた。

 それは巨大なウミガメだった。

 体長2メートルを優に超える立派なウミガメ。めったにお目にかかれるものではない。だが、今は空腹過ぎてウミガメどころではなかった。

 悠然と泳ぐウミガメは、しだいに青年に近づき、やがて青年の正面に静止した。

 ところでオニヒトデの正面とはどの方向なのか、それは青年にも分からない。

 どちらの向きも正面であってそうでないような。

 大きなカメは涼しげな目でじっとこちらを見ている。

「そういえば、ウミガメってヒトデを捕食するんだっけ」

 それは独り言だったが、意外にもウミガメが返事をした。

「それはカメの種類にもよるよ」

「で、あなたは?」

「ヒトデを捕食する種類だよ」

「え? じゃあ、今オレを食べようとして寄ってきた?」

「食べようかなと思ってここに来たが、お前を見てやめた」

「それは何故?」

「お前、最近まで人間だっただろう」

「はい」

「人間特有の煩悩の臭いがぷんぷんしているから。食べると気分が悪くなるんだよ」

 とりあえず、食べられる心配はないようだった。

「人間を食べると嫌な感じなんだ?」

「まあ時と場合による。飢え死にしそうなら、そんな贅沢も言っていられない」

「なるほど」

 大きなカメはゆっくりと方向転換し、そのまま立ち去ろうとした。

「あ、ちょ、ちょっと待ってください」

「何か用でも」


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