21 煩悩のお味は
サメにしては、動きが異様に緩慢だった。
巨大な影は、どうやらサメではない。
それはゆっくり近づいてきた。
それは巨大なウミガメだった。
体長2メートルを優に超える立派なウミガメ。めったにお目にかかれるものではない。だが、今は空腹過ぎてウミガメどころではなかった。
悠然と泳ぐウミガメは、しだいに青年に近づき、やがて青年の正面に静止した。
ところでオニヒトデの正面とはどの方向なのか、それは青年にも分からない。
どちらの向きも正面であってそうでないような。
大きなカメは涼しげな目でじっとこちらを見ている。
「そういえば、ウミガメってヒトデを捕食するんだっけ」
それは独り言だったが、意外にもウミガメが返事をした。
「それはカメの種類にもよるよ」
「で、あなたは?」
「ヒトデを捕食する種類だよ」
「え? じゃあ、今オレを食べようとして寄ってきた?」
「食べようかなと思ってここに来たが、お前を見てやめた」
「それは何故?」
「お前、最近まで人間だっただろう」
「はい」
「人間特有の煩悩の臭いがぷんぷんしているから。食べると気分が悪くなるんだよ」
とりあえず、食べられる心配はないようだった。
「人間を食べると嫌な感じなんだ?」
「まあ時と場合による。飢え死にしそうなら、そんな贅沢も言っていられない」
「なるほど」
大きなカメはゆっくりと方向転換し、そのまま立ち去ろうとした。
「あ、ちょ、ちょっと待ってください」
「何か用でも」




