20 空腹再び
青年だったヒトデは、珊瑚礁から逃げ出し、あてどなく海底をさまよった。
オニヒトデごときに論破されて、ムカムカと腸が煮えくり返っていた。
青年はブツブツぼやきながら砂地の海底を移動した。
(クジラの生存権を守れ! 当然だろ!)
(イルカを殺すのは野蛮! 当たり前だろ!)
(サンゴ礁を保全! 増えすぎたオニヒトデは駆除!)
自分がいまやオニヒトデであることは、ちゃっかり棚に上げていた。
(クモは益虫! ウンカは害虫!)
(スズメは可愛い! カラスは邪悪!)
(パンダは保護! トキも保護! エゾシカは駆除! 悩むまでもないわ!)
腹立ち紛れにそんなことを呟き続けているうちに、
(しかし本当にそうなのだろうか)
という疑いがよぎった。
でも、それを認めるとあのオニヒトデたちに論破されたことになる。
死んでも論破などされるものか。ムカツク。
それはそうとして、腹が減っている。
周囲に食べ物らしきものは何もない。
魚はときどき泳いでいるが、地を這うしか芸のないヒトデの彼にとって食料とは言えない。
青年は空腹で死にそうになった。
青年は、はるか前方に、美味しそうな珊瑚礁が見えるような気がした。
しかしそれは幻だった。珊瑚礁の蜃気楼。
ふと、前方をみると、何か巨大な影が近づいてきていた。
(もしやサメ? サメってヒトデを食べるんだっけ?)
 




