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プライド

「オラァ!」


「ガハッ……」


 これで何度目になるだろうか。グレゴの鉤爪(クロー)で体を引き裂かれ、俺は地に倒れ伏した。


「偉そうに講釈を垂れていた割には大したことねえなぁ?」


「……まだまだ、ここからだ」


 正直に言って、見くびっていた。闘技場で戦ったあのミノタウロスという魔物や、セーレを襲った者、そしてここ数日のメイド達――そんな連中とは明らかに格が違う。

 全身から白い煙をあげながら、俺は再度向き直った。


「ッラァ!」


 グレゴの跳び蹴りを紙一重で回避する。その背中に反撃しようとするも、着地した筈のグレゴの姿は見えない。俺が殺気を感じて咄嗟に頭部をガードすると、そこを目掛けて背後から鉤爪が振り下ろされていた。


「ほお、ちょっとは学習したじゃねえか」


「犬よりは頭の出来が良いからな」


「抜かせ!」


 グレゴは軽業師のような身のこなしで距離をとった。肉体の強化によってダメージは抑えられてはいるが、それでもゼロではない。一方ほぼ無傷のグレゴは、容赦なく攻撃を再開する。


「《獣撃(ハウンド)》!」


「ぐっ……」


 両手の鉤爪を交差するように繰り出されたその一撃を受け、とうとう手にしていた模擬刀が砕け散った。


理解(わか)ったか? 死徒っつっても魔法も使えないただの人間じゃ限度がある。()()()()()()をしてたんじゃ勝てねえぜ」


「……講釈は決着がついてからだ」


「ハ――上等!」


 再度こちらに向かって跳躍するグレゴ。武器を失った俺は、それにあえて正面から掴みかかる。予想していなかったのであろうグレゴは回避する素振りも見せず、鉤爪のついた手首を掴んで押さえ込むことが出来た。


「ハ、技じゃ勝てねえから今度は力比べってわけかい? 死徒とはいえ人間の力でオレ様に勝てるとでも?」


「いや、なに」


 俺は余裕の表情のグレゴに顔を近づけ、


「アドバイス通り、()()()()()でもしようと思ってね」


 そう言うと俺は――首元に犬のように噛み付いた。勿論、肉体強化は最大出力だ。


「なっ!?……テメェ」


 グレゴの声からは動揺が感じられるが、逆に言えば喋る余裕は残っている。思っていたよりも分厚い毛皮のせいで歯が食い込んでいないようだ。しかしようやく得た反撃の機会だ。グレゴが俺を引き剥がそうと暴れまわるが、俺は必死で耐え続ける。


「文字通り、捨て身ってわけか!」


「……!」


 俺は軽口を返すこともできず、ただ顎に力を込めるしかない。そのとき、急にグレゴの声色が変わった。


「正直、舐めてたぜ。だが俺もここのリーダーとして、負けられねえんだよ――悪く思うな」


 その言葉と同時に、万力を込めていた俺の両手が空を切った。一体何が起きたのか――そう考えるよりも早く、鳩尾に凄まじい衝撃を受けて俺は吹っ飛ばされていた。


「ガハァッ!」


 肋骨ごと肺が砕けたような感覚に、無いはずの痛みまでも錯覚する。必死の思いで身を起こし、何が起きたのか確認する。俺の両手に握られていたのは、先程までグレゴが着けていた鉤爪だった。


「……オモチャ遊びはもう飽きたのか?」


「ああ、約束を違えて悪かったな」


 グレゴは本気で申し訳ないと思っているのだろう、追撃はしてこない。


「だが()()()()()()ってのは、オレ達人狼族の間じゃ絶対に避けるべきタブーなんだよ。相手が誰だろうと、訓練試合だろうと、それをされたら面子が立たねえんだ。分かってくれ」


「……知らないが、犬社会も大変なんだな」


 俺の軽口を無視してグレゴは続けた。


「だが勝つために何でもする姿勢は嫌いじゃねえぜ。だからこそ、オレも全力で応えねえとなあ」


 どうやら本気にさせてしまったようだ。グレゴ自信の爪がどれ程のものかは分からないが、この鉤爪よりも劣るということはないだろう。

 グレゴの顔から笑みが消え、その瞳に普段は隠していた獰猛さが姿を見せる。


「ここからは本気の勝負だ。一撃で決めにいくからよ――間違っても、死んでくれるなよ」

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