そうだ、旅に行こう
微グロ注意
―調査11 そうだ、旅に行こう―
「え、中止!? 」
急に集められた俺たちは心底驚いた。
なんと、少女の言葉通り、俺たちは唐突に立ち入り禁止を宣告されたのだ。
「ああ、交渉はしてみたが無理そうだ。」
進はぐったりしている。
家に帰った頃にいきなり通告されたらしいから、それから真夜中まで手を尽くしていたんだろう。
それを思うと、俺はなんとも言えない気分になった。しかし、そんな俺の気分を遮るように、進の言葉が聞こえる。
「校舎に行けないから、代わりといってはなんだが怪異伝説のある村にいくぞ。」
「!? 」
え? マジで?
なんか折角いい感じに終わりそうな雰囲気だったのに!
そんなこんなで、俺は楽しみにしていた連休の初日に、行きの電車に引きずり込まれることになる。
※
「相変わらずなんだな。」
そう言ってため息をつくのは睡魔の煉ちゃんこと、江藤煉瓦である。
彼が目にしているのは、すっかり荒らされた廃校舎の一室。
プレートには“家庭科室”と書かれている。
そして、扉を開ければ直ぐに目につく位置には、「今回は私の勝ちね! どゃあ! 」と書かれた張り紙が貼ってある。
煉瓦は頭を抱え、それから、
「この件に手を出すな、とはいわないけど、せめてもっと周りを見てほしいんだな。」
と言うと、ちらりと背後を確認する。
そこには炙られた皮膚が醜く崩れ落ち、もう流れる血もないのか、乾ききった目をした、少女だっただろうもの、の姿がある。彼女からは、鼻につくソースの香りが漂っていた。
煉瓦はそれに素早く蹴りを入れ、瞬時に消滅させた。そして、
「まぁ、界記くんには気を付けろって言ったのに、床を踏み抜いて怪我した僕が言うのも難だけど。」
と呟くと、一昨日痛めた背中を擦りながら、散らかった教室を片付け始める。
※
「あー、暇ー。」
俺はわざと聞こえるように、電車の窓を見ながら呟いた。
そう、俺は暇なのだ。
ゲーム機も、スマホも、電池が既に切れてしまった。まさか、こんなに遠くに行くとは思ってなかったから、満充電にしておかなかったのだ。
仕方がないので、俺は電池のいらない遊びにシフトすることにする。
「進ー、トランプでもしない? 」
で、さっそく、俺は進を誘ってみた。
しかし、進は此方を見ることもなく、「いや、いい。」と軽くあしらう。ノリの悪い奴だなぁ、そうだこいつ、学年上位を常にとる真面目ちゃんだった。
よし、常に俺と変わらないくらいの順位にいる蛍子の方を誘おう。
「蛍子、しりとりでもしない? 」
蛍子は、返答さえしなかった。
え? なにこれ、いじめ?
そんなこんなで、学生三人グループだというのに、通夜のごとき静けさのまま、俺たちは目的地に到着した。
そこは、四方を山に囲まれた、のどかな農村部のようだった。淡い青の空から柔らかい日差しが、雲の間を縫って差し込み、鳥や虫の声だけを含んだ静かな空気の中にひんやりとした風が吹き、生い茂る木々の木の葉が、俺たちの上に薄い影を落としている。
怪異伝説がある場所といっていたから、大体の予想はしていたものの、俺はその景色に思わず息を飲んだ。やはり現地の持つ雰囲気というのは偉大だと思う。
そうやって立ち尽くしている俺の横を、進は足早に通りすぎ、その後ろに蛍子は本を抱えて続く。
俺は慌てて二人の後を追いかけた。
「これからどこに向かうんだ。」
やっと追い付いた俺が、切れた息を整えながら聞くと、進はポケットから手帳を取り出して、紐状の付箋を挟んであったページを開き、それを見ながら言う。
「とりあえずは、宿に荷物を預けよう。今日はそれから、近くの公民館で伝説関係の資料を見て、明日の行動を決める。」
「資料探し………。」
それを聞いた俺は正直、うわっ面倒な作業来たよ、こんないいとこなのに、公民館に引きこもるのかよ、と思った。
しかし、進は俺が意識的に飛ばした負のオーラには気がつかず、宿の人に挨拶をし、予約内容と部屋を確認し、鍵を受け取って、俺たちに声をかける、という風に淡々と計画を実行していく。
「部屋に行くぞ。」
宿は瓦屋根の、趣のある建物で、しかし、宿泊のための施設という仰々しい雰囲気はなく、人が来たときだけ、余った部屋を解放しているという民間の宿のようだ。
部屋は二部屋とってあって、どちらも当然和室、片方に俺と進、もう片方に蛍子が泊まることになった。
なんか普通すぎて、つまらない部屋割りだ。いっそ三人部屋をとれる宿に泊まれば、ここくだりだけで原稿1枚くらいいけたかもしれないが、まぁ、特に話すこともないので、次行こう。
「この辺でいいか。」
俺は部屋の隅に荷物を置いて、進に声をかける。それに進はすんなり頷くと、確認するように言った。
「ここで少し休憩してから、昼を食べつつ、公民館に行こう。」
「あ、もう昼か。」
俺が部屋の時計を見ると、時間は1時近かった。慣れないことをすると、時間感覚は簡単に狂うものなのだ。
「昼食に行くなら、蛍子に声かけてこようか? 」
俺は立ち上がって、進の前にたつ。
進は少し考えた後、
「ああ、頼む。」
と言って笑った。
そんなこんなで、陰陽決死団メンバー三人は近くの定食屋で食事をする。
「そういえば、どんな伝説なのか、全然聞いてないんだけど、その辺どうなの? 」
俺は醤油拉麺を啜りながら、じっとりと進を見つめた。すると蛍子は俺の方を見て、
「ちょっと界記くん、食べながら話さないでよ。」
と不満の声を上げる。
俺は、これくらいいいだろー別に、と適当に蛍子に返答した。
それに少し遅れて、進は蕎麦を汁に静かに落としてから、此方を見返す。
「そうだな、説明がまだだった。ここの怪異伝説というのは、うちの廃校舎の七不思議に関係があるんだ。」
「へえ、どんな風に。」
俺は気の無い返事をしながら、器を両手でもってスープを啜る。蛍子からまた冷たい視線が飛んでくるが、まぁ、気にしたら負けだと思う。進は少し溜めた後、呟くように言う。
「同じ七不思議なんだ。」
それは溜めを作った割には、なんだか冴えない言葉だった。俺は呆れて、進に言う。
「同じ? まぁ、七不思議なんて腐るほどあっても不自然ないだろ?」
しかし、そんな俺の言葉に被せるように、進は続けた。
「そうじゃない。同じなのは、“怪異現象が七つあること”だけじゃない。」
進いわく。
――村の七不思議は、内容まで丸々、うちの学校と同じ。そして、
「―――ここの七不思議の噂が途切れた頃、うちの廃校舎に七不思議がとってつけたように唐突に出来た。」
らしい。
続く。




