ランボー怒りのカウンター
夏だぜ~糞熱いぜ~
けどガスガン大活躍だぜ~夏がガスガン一番アツイ季節だぜ~
けどフィールド糞暑いぜ~サバゲとかしたら熱中症になるぜ~
ワイルドだろ~
「3分の1やられた? 何寝ぼけたことを、半分おらんわ」
「「はい!?」」
中央陣地に到着した私とヨッシーさん。そこで告げられたのは驚愕の事実であった。
「半分って……」
ヨッシーさんは目を丸くしてランボーおじさんの言葉を繰り返した。
「さっき防衛の人数かぞえたら半分、15人や」
ランボーおじさんは短い顎鬚を撫でながら周囲に目線を送る。私たち2名もそれにあわせて周囲をぐるりと見渡した。
山の中腹にたなびく真紅のフラッグ。そんな真紅の旗を30mほど後方に防衛のメンバーの5人がそれぞれ起伏のある地形に身を潜めている。5人が隠れた地形のすぐ後ろ、朽ちた巨木の後ろで話をしている我ら3名を含めると中央防衛員の人数は8名となる。
「人員配置のバランス悪くないですか? 15人しかチームいないのに中央に8人も集めたら、左右がら空きじゃないですか」
私は屈強な5人の味方を目で数えながらこの不自然な人数差を口にした。
「あのな……お前さん、右翼の崖は守ったことあるんやろ?」
「ああ」
やれやれといった表情のおじさん。
そこで私は数ゲーム前の出来事を思い出す。赤チーム右翼側は崖と呼ばれる地形となっているため2名いれば防衛はたやすい。また崖手前の道が狭いため大人数では進軍しづらいであろう。それは敵も重々承知のはず。そうなればあの場所を敵が強行突破してくるとは考えにくい。
「左翼陣地どうするんスカ?」
ヨッシーさんが左翼陣地のある方向を指差して首をかしげる。
「左翼陣地は禿山や、草木が無くてほぼ岩肌。遮蔽物が少ないということは接近も容易にできひんということや。スナイパー2人を含めた遠距離構成の人員5人で守ってもらう」
「強引に突っ切ってくるかも」私が口を挟む。
「そりゃ可能性0とは言い切れんが、目の前みてみい草木がボウボウの森や、隠れるとこようさんある。リスク犯して禿山攻めるよりも、定石どおり攻めやすい森中央ルート攻めたほうが確実やろ。若いゲーマー走は知らんけど、サバゲーマーは中級者、上級者になるに連れて博打みたいな行動しなくなるからの」
そんな話を聞いて私とヨッシーさんは同時に顔を見合わせた。ランボーおじさんの話は聞けば聞くほど『なるほど』と思えてくる。状況判断応力に加えて相応の年齢、ランボーを髣髴とさせる服装、兄貴肌な性格からしてリーダにぴったりだろう。せめて最初からこのチームをまとめておいてほしかった。
「で、作戦みたいなものはあるんですか?」
「知れたことを、この場を死守や」
「ですよね~」
私の問いに間髪入れずに答えが返ってくる。
「試合時間は合計25分。残りは時間は15分。15分守ったら勝ちや」
勝ちじゃないです、引き分けです。と心の中でツッコんだ後現実的な問題を考える。
死守となれば膠着状態が続くはず。私は長期戦の予感に腰の予備マガジンの数を数える。最初のマガジン数は4本、銃自体に1本入っていたから手持ち合計は5本。先ほどの戦闘でけん制として2本撃ちつくしたから残り3本。1本のマガジンにBB弾が50発なので合計150発。
ぬ~。心もとない。
はっ、100発以上持ってるのに何言ってんだ? と思われるかもしれないが100発なんぞ数十秒あれば余裕で撃ちつくしてしまうのだ。FPSなど戦争ゲームをやったことある人なら共感できるはずだ。いざ戦おう→弾が無いでござる。これがPCゲームなら落ちている弾薬を拾ったり落ちている武器を使ったりするのだが、生憎電動ガンは地面に落ちている汚いBB弾を使うと壊れるという仕様になっている。ヒットされた人も無論命と同等の価値を持った『電動ガン』様をお持ち帰りなさるのでフィールドに銃など落ちてはいない。もっともそんなものが落ちていても人様の物なので勝手に使えない。
もっと弾を持ってくればと後悔するが後の祭りだ。
(仕方ない、誰かに弾をねだるか……)
そう考えてヨッシーさんに声をかけようとしたその時。旗から一番離れた前線で待機していた陸自迷彩の味方がこちらにハンドサインを送ってきた。
:片手でジャンケンで言うチョキを作り、その手で両目を指さす。
:チョキの二本指で森の方向に指をさす
私には意味不明。しかしおじさんとヨッシーさんにはイミは伝わった様子で、2人して電動ガンの引き金に指を添える。この行動のおかげで私もようやく意味を理解した。
敵が来たのだ。
敵から放たれた1発BB弾が防衛戦の火蓋を切って落す。
眼前に広がる森一面からモーターのサイクル音が同時に鳴り響き、無数の白球が蜂の群れのように私たちに襲い掛かる。パチパチと激しい雨音のよう着弾音が聞こえすぐ隣の大きな葉っぱが一瞬で虫食い状態になる。一瞬恐怖が背筋を駆けたが、すぐ後に負けてはならないという闘争心がそれを追い抜き、私は『MP7』の引き金に指をかけて敵のいる茂みに狙いを絞った。敵は視認できていなかったが足止めにでもなればと思ったのだ。
「まてっ!!」
引き金を絞ろうとした一瞬、おじさんの手が肩を叩いてその行動を思いとどまらせた。
「相手は探りを入れてるんや、こっちの位置を正確につかんでないんや。ここで反撃したら位置がばれて数十人から集中砲火や、もっと引き付けて一斉に攻撃するんや!!」
小声ながらも、はっきりとした口調でそういったランボーおじさん。ハッと周囲に目を向けると味方は全員発砲を行っていなかった。聞こえているのはすべて敵の銃声だ。
「まあ少し落ち着け、あせるなや」
『M14』を股に挟んで胡坐をかいた姿勢から、精神を統一するかのように静かに深呼吸を行った。
あるサバゲーマーがこんな事を言っていた。
サバイバルゲームで勝つために大切な力が2つある。
それは新しい銃を買う『金銭力』と敵を狙う『集中力』であると。
休憩時間の他愛も無い会話で聞いた話だった。聞いたときは、『大切なのってまさかのお金ですか!!』と盛大にツッコミを入れて周囲を笑わせたものだが、『集中力』というのはあながち間違っては無かったのかもしれない。ランボーおじさんを見習い、銃身を下に向け大きく息を吸い込む。間量の酸素が肺に送られ高鳴り続けていた鼓動の動きが少し遅くなる。ドッドッ、全真に響く腎臓の音を前進で感じながら興奮気味の自分を落ち着かせてゆく。私は物陰から少しだけ顔を出して敵のいる方角を細目で眺めた。
銃声は聞こえるが敵の姿は1人として見えない。実は敵がいないのか?
いや、そんなはずは無い。自らの実戦経験が生かされたサバゲーマーたちの高度な迷彩テクニックを私が見抜くことができないだけなのだ。敵は確実に存在する。それもかなりの至近距離に。
顔を引っ込めた私。ちょうどその時、耳障りな心音が少し小さくなった気がして。私は静かに耳を澄ませた。作戦変更、目がダメなら耳に頼ればいいのだ。
すると敵の発砲音の数が少しずつ少なくなっていき、小枝の割れる音と茂みを掻き分ける音が続いた。敵が前進を始めたのだ。しかし兵士の訓練を受けたわけでもないので、素人の私には大まかに敵が近づいてくるとしか理解できない。何せかすかな足音に銃声や風の音、無関係な後方の敵の足音などが混ざり本当に近づいてくる敵だけを絞り込めないのだ。普段からほぼ視覚情報に頼りきった生活をしている一般人が足音だけで距離を測るなど無謀だった。
極度の緊張により再び鼓動が早く動き出す。耳障りなドクドクという音が聴覚を惑わし、私は軽度のパニックに陥りかけた。このままではダメだと、助けを求めるかのように視線を泳がす。
するとランボーおじさんと視線が交差した。
おじさんはチラリとこちらを一瞥すると、再び茂みの奥に向け鋭い眼光を向けた。何かの励ましを期待した私はその動作にがっかりしたが、一瞬でその考えを改めた。
(あの人には……見えているんだ。ならあの視線の先に敵が……)
私はランボーおじさんの視線に合わせるようにゆっくりと銃を構えた。隣では伏せの体制のヨッシーさんがG36を構え、乾ききった唇を静かに舌でなぞっていた。
陸自のゲーマーさんが小さく手を二回振った。
「用意」
ランボーおじさんが短くつぶやく。
ヨッシーさんは素早く静かに、私は少し震えながらゆっくりと引き金の指を添えた。そして攻撃の合図を今か今かと待つ。
ゲーマーさんの合図から15秒ほどの時が過ぎる。するとその時!!
バギッ、間近で枝が踏み抜かれる。こんな時に敵は重大な失敗をやらかしたのだ!!
「ファイア!!」
おじさんが叫び、私は引き金にゆっくりと力を乗せた。
大気が弾ける音が響き、こちらの陣営から豪雨の如く激しい銃撃が不運な敵ゲーマーに向け浴びせられる。続けざまに「うお、HIT」「HIT!!」『いた~い、アウト!!』3度の悲鳴が森に響き3名の敵ゲーマーがリタイアする。なんか山田の声が聞こえた気がするが気にしない。
ランボーおじさんが薄暗い林に向けてフルオートでシャワーを浴びせる。すると林が一瞬うごめき、私の緑で覆われた視界の中を、『ボヤケタ』何かが走りぬける。
私はその『ボヤケタ』何かに必死にピントを合わせた。緑、茶色、砂色、黒の斑模様……迷彩服? サバゲーマーじゃん!! ご丁寧に顔にまで迷彩ペイントを施したそのゲーマからは肌色の部分が一切見えない。
ぷっ、プロだ!!。
軽快な足取りで木々の間を縫うように走るサバゲーマー。距離はそこそこ離れているが、十分BB弾が届く範囲だ。一瞬反射は遅れたものの、私はMP7を相手の移動にあわせ横に流しながら、5発区切りで射撃を行った。最初の5発は見当はずれな茂みに突き刺さり、次の5発は風に煽られ相手の進行方向より、斜め上に着弾した。私は着弾位置のずれから、相手の腰部分めがけて3度目の射撃を行った。
パチパチ、軽快な音が響き、私の放ったBB弾は地面スレスレの木の根っこにぶつかり周囲に兆弾する。狙いは少し下にずれていた。
しかし足元でBB弾がはじける軽快な音がしたため、驚いた相手ゲーマーがジャンプという無駄な行動をとる。しかしその行動をランボーおじさんは見逃さなかった。高精度な射撃が可能な『M14』で相手の肩を一撃で撃ち抜く。
仕留めきれなかった悔しさで舌を巻く私。しかし直接の手柄ではないが、一応アシストということになるのだろうか。そうだそういうことにしておこう。そうでもしないとモチベーションがあがらない、何せ私はまだ0ヒットなのだ。おのれ、同じ初心者として山田には負けるか、意地でも2ヒット以上!! いや、この試合で奴がさらなる得点を重ねている可能性もあるから4HITは欲しい。いまさらながら私は負けず嫌いだ。
ランボーおじさんが敵を仕留めた数秒後、反対側でも敵のHITコールがこだまする。隣で小さくガッツポースを決めるヨッシーさん。どうやら1人狙撃したようだ。ぐぬぬ。
敵側の茂みで誰かが大声で叫んでいる。
こちらのカウンター待ち伏せ作戦により浮き足立っていた敵チームだったが。統率力のあるサバゲーマーがいるらしく、相手の先鋒を5人削ったにもかかわらす相手方の前衛はこの数分で反撃の態勢を整えつつある。
「くそっ、反撃しろ~!!」
茂みの中から大声で指示が飛び、敵の反撃が始まった。一度はひるんだ相手だったが、向こうも必死だ。近距離での凄まじい銃撃戦が始まる。
怒声と共に白、黒、茶色のBB弾が飛び交い、両陣営で限界をまで回転が上がった電動ガンのモーターが芝刈り機のような悲鳴を上げる。ガスガン特有のはじけるような銃声が連鎖して歌い、銃の金属パーツの擦れる音がテンポの良いリズムを刻む。横殴りの雨のような激しい銃撃戦の応酬が繰り返され、合間に『HIT』と鋭い叫び声が4回響いた。
2回は相手チームから。残りの2回は味方チームから。そしてその2つのうちの一つはヨッシーさんのものだ。殆ど偶然に近い流れ弾が額を掠めたらしい。
両手を掲げて退場するヨッシーさん。立ち去り際に
「後は任せたぞやもり----」
そういってヨッシーさんは戦場を後にしました。お、男なのに……ぬ、濡れること言うじゃないですか!!
「ここまで攻め上げて負けれるか!! 数勝ちしてるんだ、相手陣地をカチ割れ!!」
「押し込め!!」
命令になれた威厳のある声が相手側から上がり、敵の弾幕がいっそ激しく襲い掛かる。無理にでも押し込んでくるつもりか畜生!! はじめから数で負けている以上どうしてもこちらがやや劣勢となってしまう、敵の猛攻撃に味方の戦線がじりじりと後退を始めた。
「くそっ、後退や!!」
8つのうち5つ目の予備マガジンに手をかけたランボーおじさんが吼えた。
「えっ、死守じゃないんですか!?」
「馬鹿やろう!! 命令を柔軟に解釈して臨機応変に対応するんや!!」
いや、死守の命令を柔軟に解釈して臨機応変に対応したらまずいんじゃあ……。
「フラッグのチョイ後ろまで後退するぞ、そこでフラッグアタック狙ってきた奴確実に刈り取っていくぞ!! そこが本当の最終防衛ラインや!!」
「「「応!!」」」
生存者たちが同時にやる気に満ちた声を上げる。皆ぜんぜん諦めてないのか!! 私は一瞬驚きの表情を浮かべたがそんなもの一瞬でどこかに消える。
(そうだ、諦めたらそこで試合終了だって有名な先生も言ってたし)
馬鹿みたいに森に突撃したあの時と似たような、妙な一体感を全員に感じながら私は残り2本となったマガジンを交換する。これで残り1本、銃に50発。予備が50発。
(残弾ヤベッ!!)
敵の頭を下げさせようと制圧射撃を行おうとしたその時、中央がやばいと聞きつけた左翼側防衛のサバゲーマー2名が援護に駆けつけてくれた。2人の的確な援護射撃により残った仲間たちが無傷で本陣に向け撤退する。私もランボーおじさんの合図と共に物陰を脱出し、無事安全圏に後退することができた。
後方で『しんがり』を引き受けた味方の銃声が絶え間なく響く。
「これ以上下がれないぞ……」
本陣に向かう林道を駆け抜けながら私は小さくつぶやいた。戦況はついに最終局面を迎えようとしていた……。
感想もろもろお待ちしております!!




