↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられた第一王女ですが、聖剣を手に伝説の傭兵へ成り上がります!【乙女ゲーム前日譚・滅びゆく国を捨てて自分の人生を生き抜く異世界転生】  作者: 穂波 奏
第一章 前日譚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/83

第一話 終わりと始まり

 ルナエ王国ミル公爵家嫡男。


 ――それが、今の私の肩書だ。


 けれど。


 本来の私は違う。


 私は王女だった。


 名前すら与えられることなく、生まれたその日に王家から切り離された第一王女。


 そして前世では、ごく普通の女子高生だった。


 名前は、佐藤真彩。


 どこにでもいる高校生。


 ……と言いたいところだけれど。


 一つだけ、普通ではないことがあった。


 私は乙女ゲームが大好きだった。


 中でも、人生を捧げる勢いで遊び尽くした作品がある。


 乙女ゲーム――。


『ナエラ王国物語~戦場に舞う乙女~』


 攻略対象はもちろん全員攻略済み。


 隠しルートもコンプリート。


 設定資料集も持っていたし、ドラマCDも集めていた。


 限定版が出れば迷わず買った。


 何度も同じルートを繰り返して、台詞まで覚えてしまうほど好きだった。


 中でも一番好きだったのが――。


 王国最強の騎士、レオン。


 そのレオンが登場する後日談ドラマCDの発売日。


 学校から帰った私は、浮かれていた。


「ふふん、ふふ~ん♪」


 自然と鼻歌まで出てくる。


(帰ったらすぐ聴こう!今日はオール決定!)


 そんなことばかり考えていた。


 だから、気付くのが遅れた。


 交差点へ突っ込んでくる、一台の車に。


「……え?」


 視界の端に、車体が映る。


 赤信号。


 なのに。


 車は止まらなかった。


 ブレーキ音が響く。


 タイヤが地面を擦る音。


 誰かの悲鳴。


(えっ、ちょっと待って)


(うそ……)


 次の瞬間。


 強い衝撃が身体を襲った。


 身体が宙へ浮く。


 何が起きたのか理解する暇もない。


(これ……、死ぬ……?)


 全身を激痛が貫いた。


 視界がぐちゃぐちゃに揺れる。


 遠くで誰かが叫んでいる。


 けれど、声がどんどん遠ざかっていく。


(嫌だ……、まだ……、まだドラマCD聴いてないのに……!)


 最後に浮かんだのは、そんなくだらないことだった。


 意識が暗闇へ沈んでいく。


 そして。


 私の人生は、一度終わった。


 ◇◇◇


 ――次に目を覚ました時。


 私は病院のベッドにいなかった。


 天蓋付きの大きな寝台。


 見たこともないほど豪華な調度品。


 壁には美しい絵画が飾られ、窓には分厚いカーテンが掛けられている。


(……ここ、どこ?)


 身体を起こそうとする。


 けれど。


 動かない。


(え?)


 腕を動かそうとしても、思うように動かせない。


 足も重い。


 何より――。


 身体が、妙に小さい。


(……何これ)


 声を出そうとした。


「だぁ……」


 自分でも驚くほど幼い声が出た。


(……え?)


 その時。


 誰かに抱き上げられた。


 視界が高くなる。


 そして、部屋の隅に置かれていた鏡が目に入った。


 そこに映っていたのは。


 小さな赤ん坊だった。


 頬は丸く。


 髪は柔らかく。


 何より、私が知っている自分とは、まったく違う姿。


(……赤ちゃん?)


 理解するまでに、しばらく時間がかかった。


 ふと、一つの言葉が頭に浮かんだ。


(……転生?)


 そんな馬鹿な。


 そう思うのに。


 目の前の現実は、それ以外では説明できなかった。


 混乱している私の耳へ、女性の声が届く。


「おめでとうございます、王妃様」


「元気な女の子でございます」


 その瞬間。


 部屋の空気が変わった。


「……女?」


 低く冷たい声。


 寝台に横たわる女性――王妃が、こちらを見る。


 その目に浮かんでいたのは。


 喜びではなかった。


「女の子なの?」


「はい。母子ともに――」


「いらないわ」


 短い言葉だった。


 けれど、その一言だけで、十分だった。


 私は何を言われたのか理解できない。


 生まれたばかりなのだから。


 でも、声の冷たさだけは分かった。


「私は男児を産むために、どれほど苦しんだと思っているの」


 王妃は、私から視線を逸らす。


「その子は連れて行きなさい」


「ですが、王妃様……」


「見たくもないわ」


 胸の奥が締め付けられる。


(……私、いらないの?)


 まだ何もしていない。


 何も知らない。


 ただ生まれただけなのに。


 その時。


 大きな扉が開いた。


「リエラ」


 部屋へ入ってきたのは、一人の男性だった。


 四十代ほど。


 豪華な衣装を身に纏い、周囲の者たちが一斉に頭を下げる。


 ――この国の王。


 それだけは分かった。


 私は、思わずその男を見つめた。


(お願い……、この人なら……)


(せめてこの人だけでも、私を認めて……)


 赤ん坊の身体では、何もできない。


 でもせめて、笑おうとした。


 小さな口元を精一杯動かす。


 私にできる、唯一のことだった。


 王は私を見た。


 ほんの一瞬。


 そして。


「……女か」


 それだけだった。


 残念そうでもない。


 怒っているわけでもない。


 ただ、興味がない。


 それが一番近かった。


「男児ではなかったか」


「はい」


 王妃が答える。


「ですが――」


「もういい」


 王は私から視線を外した。


「処分する必要はない」


「……え?」


 侍女が戸惑う。


 王は淡々と続けた。


「ミル公爵家へ渡す」


 その言葉に、部屋の中が静まり返った。


「ミル公爵家……でございますか?」


「ああ」


 ミル公爵家。


 この王国でも最も古い家柄の一つ。


 そして。


 今の王にとっては、実の弟が治める公爵家だった。


 かつて王位継承権を持っていた弟は、自らその権利を放棄した。


 その代わりに与えられたのが、ミル公爵家の爵位と領地。


 公爵夫妻には、まだ子供がいなかった。


「公爵家には後継ぎがいない」


 王は事務的に言った。


「ならば、この子を後継ぎとして育てさせればいい」


「ですが、陛下。この子は女児でございます」


「だから何だ」


 王の声は冷たい。


「女児だと知られれば、王家との関係を疑われる」


「……」


「王女として存在させる必要はない」


 私は、何を言われているのか分からない。


 ただ。


 自分の人生について話されている。


 それだけは理解できた。


「男児として育てろ」


 王は、そう言った。


「ミル公爵には事情を伝える。公爵夫人にもだ」


「お二人には、真実を?」


「ああ」


 王は迷うことなく答えた。


「この子が女であることも、王家の血を引いていることも知っておけばいい」


「そして、男として育てることも了承させる」


 そこに迷いはなかった。


 まるで。


 一人の人間の人生ではなく。


 余った駒をどこへ置くか決めているようだった。


 私は必死に手を伸ばす。


「あ……」


 けれど。


 言葉にはならない。


 嫌だ。


 そう言いたかった。


 ここにいたくない。


 捨てないで。


 そんなことを伝えたかった。


 でも。


「だぁ……」


 出てきたのは、赤ん坊の声だけだった。


 王は、そんな私を一瞥した。


 そして。


「名前は必要ない」


 そう告げた。


「王女としては、存在しなかったことにする」


 ――名前すら。


 与えられない。


「死産だったと処理しろ」


「そしてミル公爵家には、王家から預けられた子ではなく、養子として迎えさせる」


 王はそれだけ言うと、もう私を見なかった。


 私が泣いても。


 手を伸ばしても。


 何も変わらない。


 王にとって私は。


 生まれたばかりの娘ではなく。


 王家に残しておく必要のない子供だった。


 ◇◇◇


 その後。


 私は何も分からないまま、王宮を離れることになった。


 もちろん。


 私に選択肢などなかった。


 誰が私を抱くのか。


 どこへ連れていかれるのか。


 これから何と呼ばれるのか。


 何も知らない。


 ただ。


 誰かに抱き上げられ。


 誰かに運ばれ。


 誰かの決めた場所へ向かう。


 それだけだった。


 そして数日後。


 私はミル公爵家へ引き取られる。


 そこで初めて。


 私の人生に――名前が与えられることになる。


 ここから、私の長い長い人生が始まった。

ご覧いただきありがとうございました。

本作の更新情報は、ページ下部の【ブックマーク登録】をしていただくと便利です。

また、作品への評価(☆☆☆☆☆)も合わせてお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。