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ゆれる、春  作者: なを
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9/9

エピローグ

札幌の春は、遅い。

三月になっても雪が残って、四月になってもコートが手放せない。本州の友達が桜の写真を送ってくる頃、札幌はまだ灰色の空の下にいる。

それでも、春は来る。

意地を張りながら、少しずつ、必ず来る。


四月の最初の週、さくらは大学の中庭を歩いていた。

去年と同じ道だった。

でも去年と違うのは、隣に結衣がいることだった。

いつも隣にいた。でも今は、少し違う意味で隣にいた。

さくらが八月の終わりに「言う」と言って——言った。

うまくはなかった。言葉がぐちゃぐちゃになって、途中で泣いて、結衣に「落ち着いて」と笑われた。

結衣は驚かなかった。

*「知ってた」*と言って、さくらの手を握った。

それだけだった。

それだけで、十分だった。


結衣はさくらに言った。

自分には恋愛感情がわからない、と。

でもさくらといると温かい、と。

それが恋愛じゃないとしても——大切だということは、本当だと。

さくらはそれを聞いて、泣いた。

悲しくて泣いたんじゃなかった。

結衣が正直でいてくれたことが、嬉しくて泣いた。

ちゃんと満ちている結衣が、それでも自分のことを大切だと言ってくれたことが——眩しくて、泣いた。

答えは、恋愛小説みたいには出なかった。

でも二人は今も隣にいる。

それが、今のさくらには十分だった。


中庭に、涼太と蓮がいた。

ベンチに並んで座って、何か話していた。

涼太が笑って、蓮が笑って、涼太が蓮の肩を叩いた。

去年と同じ光景だった。

でも去年と違うのは——二人が笑うとき、もう耳が赤くなかった。

赤くならなくていい距離に、なったから。

さくらはそれを見て、小さく笑った。

結衣も笑った。


朔は少し遅れてやってきた。

相変わらず無口で、相変わらずクールで、でも蓮を見つけた瞬間だけ——ほんの少し、歩くのが早くなった。

蓮が気づいて、手を上げた。

朔が頷いた。

それだけだった。

でもさくらには見えた。

朔の耳が、春の光の中で、少し赤かった。

朔はまだ言えていないのかもしれない。

それでもいい、とさくらは思った。

朔のペースがある。

ゆらいでいい。

時間をかけて、ちゃんと辿り着く。


五人が中庭に揃った。

去年の夏と同じ顔ぶれだった。

でも去年と違うのは——全員が、少しだけ自分の輪郭を知っていた。

完全にわかったわけじゃない。

答えが出たわけじゃない。

でも去年の春よりは——自分が何者で、誰が大切で、何にゆれているのか。

それが、少しだけ見えていた。


涼太が言った。

「なんか、花見したくない? 桜ないけど」

「ないんかい」と蓮が言った。

「梅ならあるんじゃない」とさくらが言った。

「梅で花見ってなに」

「風情あるじゃん」

「風情より桜でしょ」と涼太が言った。

「札幌に桜を求めるな」と朔が言った。

全員が笑った。

結衣が「梅でいいじゃん、行こう」と立ち上がった。

誰かが「じゃあコンビニ寄って」と言って、五人が歩き出した。

_


 札幌の春は、遅い。

 それでも来る。

 意地を張りながら、ゆれながら、それでも必ず——来る。

 五人の春も、そうだった。

 答えが出ないまま、ゆれたまま、それでも前に進んでいた。

 それで、よかった。

 ゆれていい。

 ゆれながら、歩けばいい。

 春の光の中を、五人が並んで歩いていった。


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