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駒か人か

 優二も愉李子も絢子も年末年始をひっそりと過ごした。とても祝う気にはなれなかった。


 両親が無事に戻った事に対しては安堵している。しかし殺人を犯しても罪に問われていない。絢子は幼い時から暴対法について少しずつ両親から説明を受けていた。だからこそ納得がいかない。


 だが、両親を責める気にもなれなかった。帰宅した時の両親の顔が印象的だった。父親の優二の暗い顔に母親の愉李子の安堵した顔。親は親だし、絢子には優しい。


 愉李子は穏やかな声で、

「貴方は私達よりも傷付いてる。でも、親子であっても他人だから私達の罪を背負う必要は無い」

 絢子は涙を流した。愉李子の言っている事は事実だが、どことなく冷たい。絢子は立ち上がり、

「澤木オジサマの所に行ってくる」

「何故?」

 優二が尋ねた。絢子は、

「もう、人殺しはだめだよ」

「親分に直談判しに行くのか?止めろ」

 優二は絢子の腕を掴んで止めた。愉李子は、

「そこまで追い詰めてしまってごめんなさい」

 絢子は震える声で、

「オカン、オトン。本来ならば二人共、死刑になるんでしょ」

「そうね」

 愉李子が短く答えた。絢子はまた涙を流した。愉李子は、

「貴方の気持ちを考えると自首したくなるけれど、警察も司法もそんなに立派でもない」

 絢子は呟くように、

「私、死にたい」

「何言っているんだ!」

 優二が絢子を抱く。絢子は、

「オトンとオカンに生きて罪を償って欲しい」

「お前が死ねば償いになるわけじゃないだろ!」

 優二が大声で言う。絢子は驚く。優二は気まずそうに俯いて絢子を離す。愉李子は、

「貴方が私達を許せないならば、善良な夫婦と養子縁組させよう」

「そんな簡単な話じゃ無いだろ」

 優二が否定した。愉李子は冷静な声で、

「でも、私達に育てられて絢子が傷付くなら仕方がない」

「嫌だ」

 絢子が呟くと、ウアーと声を出して泣いた。優二はまた絢子を抱いた。愉李子は、

「本当にごめんなさい。でも、一緒に暮らすなら耐えて欲しい」

 絢子は優二の腕から出ると自分の部屋に駆け込んだ。


 優二が愉李子に振り向く。絢子へのどことなく冷たい態度を咎めようとしたが止めた。愉李子が俯きながら涙を流している。優二は愉李子を抱いた。


 優二が愉李子を妊娠させた理由は、優二に依存させる為だった。子どもが出来れば女として母親として弱みを握れる。子どもも駒に出来る。しかし、実際はそうならなかった。


 優二は、

「澤木親分の所に行ってくる」

 と、言うと愉李子から離れて外に出て行った。


 澤木は休んでいたが、優二が来ると家の中へ上げた。

「どうした?」

 澤木が尋ねると優二は暗い声で、

「俺は⋯⋯砂澤を駒に出来なかったみたいです」

 澤木が黙って促すと優二は続けた、

「俺は上からの命令ならば従いますが、正直に言えば人殺しに苦痛を感じます。しかし砂澤は違います」

 澤木は落ち着いた声で、

「むしろお前達を苦しめて悪かったな。それで、砂澤は本当に良心の呵責が無いのか?」

 優二の目が泳ぐ。優二は、

「娘に責められて多少は苦しんではいます」

 澤木は腕を組み、

「要するに、お前は砂澤に劣等感があるのか?」

 優二は一度深呼吸をして、

「はい。所詮、俺は下らない男です」

 澤木は腕を解いて掌を膝に載せ、

「卑下するなよ」

 優二は俯く。澤木は、

「お前が思う以上にお前は砂澤の男だ」

 優二が顔を上げる。澤木は、

「まだ砂澤は人間だ。お前がそうさせている」

「そうでしょうか」

 優二が自信無さそうに言うと澤木は、

「そうだ。大事にしてやれ」

 優二は頭を深く下げると部屋を後にした。


 砂澤愉李子は調教されて操られるような女ではない。澤木も分かっていた。愉李子は愉李子独特の価値観で考えて動いている。場合によっては殺傷も厭わない。正真正銘のテロリストだ。しかしそんな愉李子でも夫と娘は特別な存在だ。やはり優二と結婚させて良かったと澤木は考えている。


 澤木の家から戻って来た優二は愉李子を抱く。愉李子は、

「優二。どうしたの?」

「暴発する駒は要らない」

 優二が呟いた。愉李子は、

「それじゃあ離婚する?私をどこかに突き出す?」

 優二は腕を緩めて愉李子の顔を覗き込む。愉李子も見返す。愉李子は無表情だ。優二は悲しい顔をして、

「お前は絢子の母親だ。俺の妻でもある」

 愉李子の目が泳いだ。優二は愉李子に口付けをした。


 久し振りに二人は束の間の性生活を営んだ。

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