愉李子からの蔑視
毒の楓と汪達は作戦を建てた。独楽田・山田・坂本・小野寺の四人を同時多発的に攻撃する。汪が毒の楓に四人の事務所の場所と構造を教えた。汪達が四人を油断させて事務所の中に毒の楓を手引きする。そこで汪達も毒の楓も一気に大暴れをする。
滋賀にいる坂本には羽村、愛知県名古屋にいる小野寺には汪、大阪府にいる独楽田には紺野、愛知県岡崎市にいる山田には優二と愉李子が陣頭指揮を執る。毒の楓も四つの班に分かれる。連絡手段も統一した。
十二月上旬の某日の夕方に同時に襲う。
山田は武器や車両を製造してそれを新田組に分配しているので手強い。そこを担当する優二と愉李子は毒の楓に百人ほど参加してくれないかと頼んだ。毒の楓は了承した。誰が何処で何をするか。警察に悟られないようにダークサイトを使いながら打ち合わせをしていった。
当日。四つの事務所が同時に開いた。毒の楓は愉李子達の手引きで一気に入り込み、射撃を開始した。しかし極道達は絶妙に攻撃を避けながら逃げて行く。毒の楓は嘲笑しながら追撃していく。逃げ切れなかった極道達はアッサリと倒れていく。毒の楓が有利に見えた。
しかし、一時間もしないうちに毒の楓が極道達に囲まれた。極道達は逃げる振りして毒の楓を人気の無い所に誘い込み、倒れた振りした極道達が退路を塞いだ。いつの間にか指揮を執っている新田組の裏切者がいない。
「騙したな!」
毒の楓の面々は激怒したが劣勢には変わりない。極道達は容赦なく反撃していく。頭や胸を撃ったり、喉や太腿を斬ったり、殺傷していく。
「増援を呼んでみろよ」
山田が挑発する。毒の楓の者達は逃げながらその通りにする。しかし、新たな仲間が来る前に全滅していく。
ドオン。ドオン。爆発音が響く。愉李子が手榴弾を毒の楓に向けて投げていく。身体が引きちぎれたり、衝撃波や爆圧で廃墟の壁に叩きつけられたり、絶命していく。手榴弾は愉李子自身が作ったものであった。愉李子は四方八方に振り向きながら何発も投げる。極道達は巻き添えにならないように巧妙に避けていく。
優二も容赦なく毒の楓を斬っていく。敵が抵抗しようが逃げようが躊躇いはなかった。
「お前らもお前らの国もゴミだ!」
「ヤクザなんか日本の恥!」
毒の楓が責めても極道達は攻撃を止めない。愉李子は薄ら笑いしながら、
「お前達こそ、罪の無いお婆さんを狙ってきた」
戦闘開始から三時間ほどで毒の楓は全滅した。死者は半分。生き残った者も重傷である。増援が来たが、惨状を目の当たりにすると、極道達とは戦わず、遺体や負傷者を引き取っていった。
極道達にも被害は出ていた。予め防弾チョッキを付けていたものの、十人ほど死亡し、三十人ほど負傷していた。優二と愉李子は軽傷で済んでいる。
山田と優二は本家に報告したり他の親分達の様子を確かめたりした。どこも作戦は成功し、毒の楓は壊滅状態であった。坂本と羽村は軽傷の者を尋問して毒の楓や本人の経歴について知っている分だけ吐かせた。小野寺と汪は毒の楓を警察に引き渡した。独楽田と紺野は軽傷の者を人質にとり、増援に来た者達と更に戦った。特に紺野はどんどんと敵を斬り伏せていた。
国籍は様々だが、相手は皆、比較的若い男達であった。ハハハ、愉李子は高笑いした。山田が、
「どうした?」
「私達、お婆さんの仇を討ったんですよ」
愉李子は楽しそうに答えた。右隣で優二がそれを睨んでいる。山田は不思議そうに、
「確かにそうだが、コイツらだって日本社会から辛酸を舐めてきた連中だ。アイヌのお前なら分かるだろ」
愉李子は真顔になり、
「新田組に入ってから私はアイヌではなくなりました。それにお婆さん達に罪は有りませんでしょう」
山田は俯く。優二は愉李子の肩を叩き、低い声で、
「俺達が人を殺した自覚を少しは持て」
愉李子は溜息を吐いた。
遠目で見ていた銀慈は複雑な気持ちになった。時折、優二が隙を塞ぐように援護していたものの、愉李子は戦場で戦って軽傷で済んでいる。心も傷付いていない。とんだ鉄火女ではある。しかし、男を人間と思っていないのだ。極道組織の駒としては致命的だ。女に対する強い同情心は強みでもあり弱みでもある。
優二は銀慈に振り返る。銀慈も軽傷だが不安そうな顔をしている。
優二・愉李子・銀慈は山田達に慇懃に挨拶すると、桐風村に戻って行った。




