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毒の楓

 新田組と敵対している半グレの名前はポイズンメープル、通称は毒の楓。毒の楓には極道の様に決まった事務所もなければ一同に集まる事もない。本人達も警察も組織形態や構成員を把握してない。SNSやサイトで知り合って、上からの指示で動いている。


 神出鬼没な上に犯行も入念に練られていて警察はなかなか逮捕出来ないでいる。配達員を装ったり、本物の警察官の制服を似せた服を着たり、極道の振りをしたりするが、すぐに消えてしまう。脅す役とカネを受け取る役を厳密に分けて更に被害状況を混乱させる。誰か一人を逮捕出来ても本人も全体を把握できていない。


 新田組では独楽田が率いる組織と小野寺が率いる組織で毒の楓をやっとの事で調べていた。坂本が率いる仁州組でも紺野と羽村が怪しい人物を探していた。特に独楽田の子分である汪がハッキングしたりダークサイトに繋がったりして毒の楓を追究していた。


 毒の楓には日本人だけではなく、様々な国籍の者達が関わっていた。中国系や韓国系だけではなくフィリピン系やナイジェリア系やネパール系やブラジル系など、実に様々だ。彼等は日本語や英語で意思疎通をしていた。


 毒の楓は何となく同じ国籍の者同士で繋がっていた。これといった主犯格は無く、同じ国籍の代表が思い思いに作戦や計画案を出して他の者達が受け入れているようだ。


 毒の楓には外国人技能実習制度で辛酸を舐めた者も多く、日本人に対する憎悪を持つ者も少なくなかった。日本人もまた、社会から排除された気持ちになっていた。日本の老女から多額の金額を巻き上げる事に快楽を覚えている。


 愉李子達は羽村の経営する店に行った。中には汪と羽村と紺野と独楽田がいた。彼等は愉李子達に毒の楓について説明をした。素性や居所が分かっている場合にはそれも教えた。


 独楽田も元々特殊詐欺をシノギにしているが、毒の楓の存在は商売仇以上に害悪だった。縄張りを荒らされている上に警察からは逆に毒の楓と組んでいると疑われ、毒の楓からの挑発を受けている。子分達が街中を歩いていると自転車や車で轢き殺そうとする。また、独楽田達は老女達の経済力を期待せず、羽振りの良い男達を騙していた。老女達を狙う毒の楓を蔑んでもいた。


 汪とその子分達数人は毒の楓の者達との接触に成功した。中国系と韓国系の者達は半信半疑であったが、先日、羽村の店に会いに来た。汪達は新田組から毒の楓に移動したがっているように見せかけた。汪達は実際に新田組に対して不満や疑問を感じていたので、迫真の演技だった。他の構成員と是非とも面会して、新田組を打ち負かす算段をしたいと熱弁した。毒の楓の者達はそれを了承した。


 翌日。毒の楓の者達が十五人集まった。中国系三人、韓国系二人。残る十人は十人とも、国籍も容姿も見事にバラバラである。しかし全員、男だ。老人も女もいない。その十五人を迎えたのは汪とその子分二人の他に愉李子・優二・羽村・紺野。毒の楓の面々は愉李子を訝しんだが、汪が説明した。


 愉李子は米軍基地に爆弾と毒ガスを仕掛けるほどアメリカを憎み、日本社会を蔑んでいる。新田組に見つかったが、そこから抜けたがっている。他の者達も新田組に不満を持っている。汪は中国語と英語で語った。愉李子と優二は無表情だが、紺野と羽村は穏やかに笑っている。毒の楓は目配せをし合った。半信半疑の様子だ。七対十五。いざとなれば毒の楓が有利だ。


 汪は毒の楓がどこまで新田組を知っているか尋ねていった。毒の楓の者達は嘲笑しながら新田組が暴対法と高齢化で弱体化していく様を語っていく。自分達の様に複雑な組織編成が出来ず、硬直しており、守りも攻めも弱い。毒の楓は違う。汪とその子分達は微笑みながら聴いていた。羽村も紺野も微笑んでいる。


 汪は穏やかな顔で毒の楓について質問していく。信頼関係を築くには実際に皆が会って議論したり、誰か一人が責任者にならなければ組織としては続かない。どうしているのか。毒の楓の者達は困った顔をした。新田組側が黙って待っていると、ポツリポツリと答えていく。


 日本で辛酸を舐めている点で皆同じ。作戦や計画は思いついた者がすれば良い。皆が面会すれば狙われるし、サイトやSNSで意思疎通は十分だ。極道と違って親分子分の繋がりは却って窮屈でしかない。


 汪は微笑んだまま英語で、

「それは分かったけれど、新田組を潰すには数が必要なんだよ」

「お前達は何人用意出来るんだ」

 フィリピン系の男が尋ねた。羽村は、

「確実には百人だ」

「新田組は一万人以上、いるんだろ」

 ネパール系の男がやや呆れ気味に言った。羽村は、

「まあ、戦っているうちに寝返ってくる」

 毒の楓の者達が苦い顔をすると、汪が、

「お前達の組織の大きさによって俺達も計画を考えるし、これまでの話は無かったことにする」

 毒の楓の面々は目配せをし合った。汪は、

「お前達が千人ぐらいいれば良いかな」

「そんなにいない。せいぜい三百人だ」

 フィリピン系の男が答えた。汪は、

「なら、何とかなりそうだな」


 毒の楓の者達が入る前から自白剤と催眠系のガスを店の中に充満させている。無色透明なので気付かれない。新田組側はその解毒剤を飲んでいた。やっと効果は出てきて、汪が質問すればするほど、スルスルと毒の楓の者達は答えていった。

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