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召喚

「ちょっとやめてよ!何してんの!?バカじゃないの!!」

「あー…なにがどうなってんだ…」

「誰か!いないの!?お願いここから出して!!」

「怖いよぉ…もうやだ帰りたい」

「はぁ、みんな落ち着いて。とりあえず静かにして…」

「っ……、うぅ…ひっ…ぅ…」

「あ、おいそこのお前!これは一体どういうつもりだ!」


 真っ暗な場所で、男女入り乱れた様々な怒声や泣き叫ぶ声が響き渡っている。

 うろうろと忙しなく動き回る者。悲愴感顕に蹲って震えている者。茫然自失している者。ガシャガシャと音を鳴らす者。

 あちこちから破壊音もしていて、このままではいずれどこかが崩落して皆生き埋めになりそうだ。


 阿鼻叫喚地獄とはこのことか。


 なぜこんなことに…。


 今日もいつも通り憂鬱で退屈な日常が過ぎ去るはずだった。


 今朝はつい、道すがら突然どこかで爆発でも起きればしばらく休めるのに、なんて碌でもないことを考えながら通学していたからだろうか。

 そのバチが当たったのかもしれない。


♦︎


 志津乃愛(しづのあ)、高校一年生。

 朝も少し肌寒くなってきた秋も中ごろの週初め。


 乃愛は慣れた動作で教室に入ると、すぐさま気配を殺して静かに着席した。ちょうどその時、見計らったかのように予鈴が鳴った。一限目の授業が始まる五分前だ。教室には既にほとんどのクラスメイトが集っている。

 教科書を出したりして自席に座っている生徒が多いが、まだダラダラと雑談しているような雰囲気で、席から離れて立ち話をしている者もいる。


 早く先生が来ないか。教科書やノートを広げながら、内心で少しソワソワとし始める乃愛。座った席は教室の一番後ろの廊下側だ。まだ誰からの視線も感じない。先生が来ればそちらに注目が集まりすぐに授業が始まるはずだ。

 授業の準備を終えた乃愛は、祈るように前方の扉を見つめた。


 登校するたびに訪れる、朝のこの僅かな時間は全く慣れることがない。一日で最も緊張して落ち着かない瞬間だ。授業が始まれば、あとは終業までの時間をただひたすら待つだけ。その場で空気のように溶け込んでおけばいい。

 理想はすぐ後ろにある、掃除用具入れロッカーの模様になることだ。その辺の壁のシミとかでもいい。とにかく教室の背景になりきる。それは乃愛の心の平穏を少しでも保つために必要なことだった。

 放課後は皆それぞれに用事があるので、自然と意識がそちらに向く。人の動きに合わせて、そっと自分も帰れば良い。だが始業前は違う。皆が集まる目的は同じであり、新しい一日の始まりに現れる顔ぶれを誰もが気にしている。挨拶をしたいためだ。

 挨拶ほど怖いものは無い。乃愛にとってはそれを回避することが、己に課した使命の一つと言っても過言ではない。


 —-ガラッ


 来た。きっと先生だ。今日も無事にやり過ごせそう。


 見つめていた先の引き戸が開いたことにほっと胸を撫で下ろせば、入ってきたのは見知らぬ女子生徒だった。誰?と思いつつも、期待通りの人物が現れなかったことに乃愛は嘆息し、そのまますぐに目を伏せた。


 その時だった。

 教室内が急に青白く輝き出した。光の発生元は床。

 あまりの輝きに皆呆然としてその場から動けない。ほんの数秒の出来事だった。

 乃愛は間の悪いことに光を直視して、一瞬で視界を奪われてしまう。


 視界が戻った時、そこは教室ではない何処かだった。


1/31 章構成変更に伴い、タイトル変更しました。(本文に変更なし)

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