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商人の利潤

 ベラルクに集まる商人達もまた、バルワルド商会と同じく揉めに揉めていた。

 

 エノールの話を聞いた商人が皆を集め、何とか最低限の人数は確保したが、突然の訪問に有無を言わせない要求は商人達の不興を買った。彼らは自らの領主たるアルガルド伯爵家をよく思っていないのだ。

 

 バルワルド商会にはバーガルドがいた。彼はいち早くエノールの異質さに気付き、商会長もまた交渉が終わった後にようやくバーガルドの真意に気付いた。

 

 あの二人がいたからバルワルド商会は団結できたのだ。対して、ここではエノールと交渉した商人もそれに気づけていなかった。自分がなぜ言いくるめられたのかも分からず、ただ言われるがままに人を集め会議を開いたのだ。そんな彼に反発する者、エノールの訪問自体に反発する者、エノールの態度に反発する者、伯爵家に反発する者など様々である。

 

「今更アルガルド家を信用できるか! 追い返してしまえ!」

 

「そもそも、流行病をなんとかするのも領主の役目だろう! それが、我々に責任転嫁をして何のつもりか!」

 

「貴族だからって我々に無償で金を借りようとするなど……よもや融資などとは言わんよな?」

 

「病など我々だけでどうにかできる! あの伯爵家でさえ糸口をつかんだのだからな!」

 

 反応は様々である。理由は彼らがそれなりに商人として成功しているからだ。

 

 この町の商会はバルワルド商会より大きい。ベラルク自体が商売が活発化した地だからだ。自分たちで発展させた、自分達で成り上がった、そんなふうに自負がある商人達は今更貴族の手を借りようなどとは思わない。

 

 商会長でさえもエノールの要求には消極的だった。

 

「ふむ……『忠誠を誓え』か。何をさせられるかわかったもんじゃないな」

 

「どうせ資金提供です。あの家、落ち目だからって領民から搾り取る次は我々の金を当てにしてきたんですよ」

 

「しかし、三日後には出立すると言って……他の商会とも協力を取り付けているからと、我々は眼中にないと言っております……あの自信、よもや本当なのでは……?」

 

「ブラフだ! ブラフに決まってる! 他の商会に確認してみろ! すぐにあいつらの嘘がバレる!」

 

「いや、そんなすぐに気づかれるような嘘を吐くだろうか……」

 

「どうせ『見解に行き違いがあったようですね』とか抜かしやがるんだ! あいつらはいつだってこざかしいからな!」

 

「立場を盾に……全く、度し難い連中ですな」

 

 議論はどんどん脱線していく。エノールの言葉を告げた商人は漠然とした焦燥感を抱きつつ、ワルツを踊る会議室の光景を眺めることしかできなかった。

 

「我々は眼中にないだと⁉︎ その我らに金を無心にきたのはどこのどいつだ!」

 

「金が欲しいからって病をどうにかする方法など……悪手にも程がある!」

 

「そもそも何を弱気になっている! 相手はあの落ち目の伯爵家だぞ!」

 

「しかし……そうはいっても伯爵家、敵に回すのもいささか……」

 

「丁重にお断り申し上げればいいのだ! それで俺たちは関係ない!」

 

「大体お前も何を七歳の小娘相手にはいはいと乗せられているのだ! お前も商人なら自分で交渉ぐらい──」


 その時、熱気立ち込める会議室の扉が開け放たれる。

 

「ご機嫌よう、みなさん?」

 

「っ……お前は──」


「──お初にお目にかかります、エノール様。私が当商会の商会長をやっております、ズウェルケル・アニサレートでございます」


 一人が失礼な口を聞きそうになったところで商会長が声を張り上げて割り込む。エノールは目を細めると、瞠目して堂に行った所作で挨拶をした。その仕草に周囲の視線が釘付けになる。

 

「……お初にお目にかかります、ズウェルケル殿。私はエノール・アルガルド、この地を治めるアルガルド伯爵家嫡子にして次期当主、現在は当主代理の任についております」

 

「当主代理?」

 

「ええ、お父様はお忙しく現在は領内にいません。代わりに私が留守を任されたというわけですわね」

 

(こんな小娘が……身代わりと言ったところか)

 

 商会長の推測は結果的に言えば正しかった。

 

「お話は聞きました、エノール様。して、何のご用で……」

 

「あら、随分と議論が白熱しているようだから、私が出ていってあげようとね。私が直接話したほうが何かと早く済むでしょう? 私、これでも忙しいので」

 

(小娘程度が、生意気言いよって……)

 

 商会長は内心の軽蔑を隠しながら応対する。

 

「そうですか。それでは、エノール様が出した『忠誠を誓え』という条件なのですが……」

 

「…………はぁ、またその話ですか。商人というのは上下関係も知らないのですか? 王国と貴族、貴族と騎士の関係を一から説明しなければならないのでしょうか?」

 

「いえ、忠誠を誓うというのは具体的にどの程度の範囲において──」

 

 その質問にエノールは瞳をパチクリとさせる。

 

「この王国に『忠誠を誓う』とは何なのか、よもや知らない人がいるとは思いませんでした。ごめんなさい、これもまた領主代理である私の失態です。申し訳ありません」

 

 エノールは煽りに煽り散らす。交渉の最初では怒らせてもいい。疲れさせた後に冷静にさせて、思うように話を持っていけばいいのだ。

 

 エノールの謝罪に周囲は怒りを募らせる。たった七歳の少女に、しかし相当な皮肉を言われてはらわたがカッと熱くなる。

 

「分からないわけではありません! しかし、あまりにも範囲が広いと言って──」


「騎士の中に一人でも『忠誠を誓うなんてどの程度の範囲がわからない』なんていう人がいると思う?」

 

「我々は騎士ではありません!」

 

「ですが、私の領民です」

 

「っ……まだ貴方の領民でもありません!」

 

「言葉に気をつけなさい。私はアルガルド家現当主アイジス・アルガルドの代理です。私の言葉は父上の言葉、私にものを言うのは伯爵に物を言うのと同義と知りなさい」

 

「失礼しました……ッ」

 

 商会長は目に見えて顔をこわばらせる。エノールはその様子を冷静に見ていた。

 

「貴方は領民として商人の立場で私に協力する、私は領主として貴方達を病から守る。古くから存在する統治者と被統治者の関係です。素晴らしい等価交換でしょう?」

 

「しかし! そもそも病の抑制は貴族の勤め! それを交渉の材料にするなどあってはなりません!」

 

 商会の一人が声を上げる。しかし、エノールが振り返ってそちらを見つめると、途端に声を上げた彼は後退りしそうになる。まるで蛇に睨まれたようだった。決してエノールは睨んではいないが、その双眸に見つめられるとなぜだか自分が小さくなったように感じる。少女の後ろに後光を幻視した。

 

 ──少女の纏っていた雰囲気は決して少女のものではなかった。

 

「……牛一頭の値段はいくら?」

 

 エノールの質問に商人の一人が鼻で笑う。

 

「そんなの、状態によります。普通であれば銀貨二十五枚から、上等なものなら金貨三枚でしょうな」

 

「そうね、いいものであれば当然高くつくわ。それは為政でも同じ。金を稼ぐのは私たちじゃない、貴方達領民よ。それをうまく活かせるかは統治者次第だけど、少なくとも私は貴方達の金をうまく利用してみせるわ」

 

 その物言いにやはり周囲の空気は険悪になる。小娘風情が何を生意気なことを言ってるのだと周囲の反感が募った。

 

「それなら、どうすると言うのですか! 貴方の言う病を防ぐ方法など、はっきり言って信用に値しません!」

 

「あら、随分と言うのね。伯爵の言葉を疑うとは、王国に報告したらどんな返事が返ってくるかしら」

 

 咄嗟に男は青ざめる。頭に血が登って不用意なことを言ってしまったのだ。

 

「貴方達の金を使って、私は領内を変えるわ。正確には町を全て病から遠ざける。そのために貴方達が資金を出す。合理的でしょ? 貴方達の住む場所は、貴方達がどうにかするの」

 

「そんなの、貴族としての義務の放棄ではないですか!」

 

「何を言ってるの? もしや、貴族が直接領内をよくするとでも? バカ言わないで。人を使ってことを起こさないと、我々は神やそれに準ずる何かではないのだから」

 

 エノールの言葉に誰も反論できない。反論しようにもどこまで行っても正論に聞こえるのだ。しかし、正しいと理解するのと納得するのとでは天と地ほども違う。

 

「しかし、それで我々に資金を提供せよなどと……あまりにも横暴すぎます」

 

「あら、何か勘違いしていない? 何度同じことを言わせれば気が済むのかしら。貴方達には『忠誠を誓え』と言ったはずよ。領民としてだけではなく商人として、この地を変える私に手を貸してと言ってるの。分かりやすく言うならそうね……伯爵家の傘下に入りなさい」

 

 その言葉に周囲の全員が湧き立った。アルガルド家は彼らの中でもはや侮蔑の対象である。そんな家に降れなどと到底受け入れ難いものだった。

 

「ふざけるのもいい加減にしてください! 病をどうにかしたければ軍門に降れなどと、あまりにも──」


「ふざけているのは貴方達のほうよ。少しは言葉に気をつけなさい。それが伯爵に対する口の利き方なの?」

 

「っ……」

 

「しかし、それではあまりにも厳しすぎます。せめてどの程度の資金援助をするかとか……」

 

「緩いわね。服従か離反、選びなさい。私の手を取るなら私の全力を持ってして貴方達を病から守ってあげる。それができないのなら自分で自分の身を守ることね」

 

「それならもう伯爵家の手など借りません! 自分の身は自分で守ります! ずっとそうやってやってきました!」

 

 勝手に会議に参加していた一人が叫んでしまった。商会長が焦って止めようとした時、エノールはすぐに踵を返してしまう。

 

「そう。それなら頑張ってね、ご機嫌よう」

 

「っ……ま、待ってください! どちらに行かれるのですか!」

 

「……? どこって、次の商会よ? 騎士や諸侯とも会わないといけないし、各地の視察もまだ残っているの。頑張るんでしょ? 他はあらかた助力を取り付けたけど、貴方達は自分で自分の身を守るんだから。病が広がったら頑張ってね、応援してるわ」

 

「ま、待ってください! まさか、我々を見捨てるおつもりですか……?」

 

 商会長は縋り付くように問う。エノールは毅然とした態度で答えた。

 

「見捨てる? 貴方達が手を振り払ったんじゃない。伯爵の、町を変えるという私が差し出した手を、私から病を防ぐ方法を聞かずとも自分たちだけでどうにかできるんでしょ? そこの商人さんが言ってたじゃない」

 

 注目が発言してしまった商人に集まる。

 

「ずっとそうやってきたんでしょ? ごめんなさいね、まさか各地の医者に話を聞いたり、診療所の併設を計画していたのが私だけではないとは……貴方達の力には恐れ入るわ。その調子で頑張って?」

 

「──診療所、診療所の併設と言いましたか⁉︎ それに、各地の医者に話を聞くなど……」


 商会長の語気は必要以上に荒立っていた。エノールが梯子を外そうとするのをどうにか引き止めるための行動に、エノールは商会長の余裕が削られているのを感じた。

 

「ええ、各地を回って医者まがいのことをしている人に話を聞いてね……ヤブ医者も多いのだけれど、金貨を投げたらペラペラ喋ってくれるから。中にはそんな方法もあるのだと感心するものもあるし、それに『ヤコブの魔術師』なんて呼ばれる医者のお婆さんにも会ってね。それなりに情報は集まったのよ」

 

「や、ヤコブの魔術師にもですか……⁉︎」

 

「ええ、口が硬かったけどね。医者が有益な情報をもたらしたら報奨金を出して各地にそれを共有するっていう制度を思いついて、それで医学を盛り上げようと画策してたわけなんだけど、そのお婆さんに色々と助言をもらって、事前にトラブルも回避できそうよ。まあ、でも貴方達には関係ないわよね。何せ私の手は必要ないのだから」

 

「いいえ! まさか、それほどとは……それ以外に、一体何をされるつもりなんですか?」

 

(ここだな……)

 

 エノールは魚が餌に食いつくのを感じた。商会長にしてもここでエノールが画期的なプランを話して大いに賛成して、そして話を協力の方向性に持っていきたいだろうと考えた。双方にとってここが一番のビジネスチャンスである。

 

 利害対立していたはずの両者が、この瞬間だけは同じものを求めていた。協調と服従、何が何でもこの商会長は約束を取り付けたいはず。それが顔を見て丸わかりだった。

 

「そうね……まずは私の持つ病の知識と各地の医師から集めた知識を一つの書に編纂するわ。それらを協力してくれた町に無償で配布する。病の正体とその移り方、どうしたら広がるか、それを防ぐためにはどうしたらいいか、広がってしまったらどうすればいいかを綴って、病から遠く、病が広がったとしても迅速に対応して被害を最小限に抑え込める町づくりを領内全体で執り行うわ」

 

「それは素晴らしい!」

 

「そのために各地から医療に関する知識を集めて、特に有用な情報をもたらしたものには報奨金を出す。そうすれば各地で医療が活発化するし、そもそもこの領内では医療のニーズはいくらでもあるわ。まともな医療を提供できるなら、商品があるなら医療という商売はこの上ない成長株になる。金のなる木よ。すごくお金の匂いがするとは思わない?」

 

「いやはや、全くその通りです! 我々もその話に一枚噛めれば──」


「あら、何を勘違いしているの? 確かに貴方達の資金は借りるけど、貴方達は何も商人としてその話に関わるんじゃないわ」

 

「え……それはどういう……?」

 

「言ったでしょ。貴方達は領民として、一個人として私の政策の恩恵を受ける。貴方達はその手伝いをするの。領内を変えるのは私ではない。貴方達領民自身なの」

 

「し、しかし……ですが……」

 

「まあ聞きなさい。診療所の併設にあたって、すぐにでもモデルケースを作るわ。診療所がうまくいくか、良さそうな場所を各地を回って調査してあるの。医者がいて、病人がいて、協力してくれる商会との取引も可能な場所。いくつからあるから、理想的な場所に一軒目をたてて、それから広げるわ。貴方達には伯爵家の直轄領における診療所開設の初期費用、それから軌道に乗るまでの資金援助を頼むわ。金利ではなく一割上乗せの借金としてね」

 

「で、ですが、それではあまりにこちらの利益が……」

 

「だから聞きなさいと言ったでしょう? 話は最後まで聞くものよ」

 

「は、はい……」

 

 縮こまる商会長に視線が集まる。しかし、その半分は彼を責めてはいなかった。自分も受け答えをする立場ならこうなってしまうだろうと考えたからだ。

 

「診療所がうまくいくとわかれば、次は騎士領に開設を命令する。初期費用は騎士達に負担させるわ。あいつら、私の税収を相当中抜きしてるから不可能ではないはずよ。資金援助をしてくれた商会には、その診療所との取引を独占させてあげる。高価な医療品を扱うからそれなら問題ないでしょ?」

 

「そ、そうですね……」

 

「問題は病が広がった時よ。治療費を払えるような人間はそうはいないわ」

 

「そうですね……」

 

「だから、普段は借金という形で診療所が利用者の治療費を負担する。健康になった領民はそれを長年かけて返すでしょうね。そうすれば診療所は金貸業者としてある程度儲かる。もちろん利用者について審査をする必要があるけど、病が広がって私が緊急事態と考えた時には治療費を無料にするわ」

 

「む、無料ですか⁉︎」

 

「そして、それらを騎士達に負担をさせる。当然あちこちから非難がくるでしょうけど、そこは何とかするわ。資金が底をついたら私が破産申請を受け入れて、貴方達に金利ありの借金をしてあげる。そして、破産した騎士領に人を送るわ。あいつらの財政を骨抜きにして、私の手元には騎士領の実権が残る。貴方達は病が広がった時に金を貸せる。素晴らしいと思わない? そして充実した財政はこの領内に投下してあげる。無論、商売の訪問にね」

 

「ほ、本当ですか……それは」

 

 商会長は耳を疑った。少女の──わずか七歳の伯爵家の嫡子にして令嬢であり、次期当主兼当主代理であるエノールの計画は病が広がった時からが真骨頂なのだ。


 無論、最大限対策するが、流行病は度々流行する。人々も抵抗力をつけ始めているようだが、病もどんどん力を強めていくのだ。久しく病に悩まされていなかった村が新たな流行病によって全滅するというのは聞いたことがある話だ。

 

 そこで規模が大きければ大きいほど自分たちは金を貸せる。領地経営の規模は商人の知るところだ。それは自分たちの商売よりもいくつも桁が多い規模となる。その事業の融資をできるというのは願ってもない話だ。

 

 しかも、聞くところによれば騒ぎが収まった後、騒ぎが大きかった分だけ融資額も増えるが伯爵家の税収も増加する。決して返済できないわけじゃない。診療所との取引が独占できるということは、その騒ぎに乗じて商人達も大口の顧客を手に入れるということだ。その時の金貸しと売買による営業利益は──これまでの比じゃない。


 一商人としては決して動かせない領地経営規模の事業に完全に食い込むことができる。それは診療所の資金援助の借金で金利を取るよりよっぽどマシだ。むしろ金利をとって診療所が潰れれば、最終的に損をするのは商会側となる。

 

「下手に診療所の援助で金利を取って潰すより、診療所を増やして病が広がった時に備えていたほうが貴方達にとってもいいはずよ。商会の金のなる木なんだから、大事に扱ったほうがいいと思うけど」

 

 これを理解できている奴がどれだけいるかはわからない。それでも、少なくとも商会長は理解した。そしてこの少女も理解した上でこの事業を持ちかけている。

 

 必ずあるであろう病の流行、それらは単なるまちづくりでは決してどうもできないだろう。王宮でさえ病が広がることはあるのだ。それで血が途絶えかけたこともある。必ず発生する、大規模な流行病の騒ぎが。この領地でなら尚更だ。

 

 こんな場所でちまちま商売するよりもよっぽど金になる。領地中の町を変えるなどと言っていたが、あれは嘘ではない。なにせ、そこに巣を構えた商会が町規模の事業に手を染めるからだ。

 

 自分たちに求められているのはその新規事業の立ち上げの融資、資金面の援助。全くもって問題ない。この上ない商売だ。

 

 なるほど、そう考えるとこの娘(エノール)の病を商売にするという話は間違いじゃない。むしろ、言葉通りだ。この少女は人々が苦しむときに商業チャンスを見出した。悪魔のような所業だ。七歳とは思えない。

 

 それがたとえ誰かの入れ知恵だとしても、それを理解しているのは恐るべきことだ。この少女は商売の神や悪魔にでも魅入られたのだろうか。

 

 何はともあれ商会長は膝をつく。もはやこうする他ない。

 

 商人として忠誠を誓わなければ、ここで自分は商人として死ぬ。

 

「このズウェルケル、エノール様に忠誠を誓うことを宣言します」

 

「商会長⁉︎ 何をやっているのですか⁉︎」

 

「お前達も跪け。これは、そういうことだ。ここで膝をつかなければ我々は商人ではない」

 

「「「……」」」

 

 商会長の言葉に続々と膝をつく面々。その様子をエノールは満足そうに見ていた。

 

「ここに、商会に属する商人一同、エノール様に忠誠を誓うことをお約束致します」

 

「それなら、貴方達の商会の名の下、貴方達個人が私に対して『忠誠を誓う』と書面に残して頂戴。貴方達商人の流儀に則らせてもらうわ」

 

「かしこまりました」

 

 バルターは全員分の契約書を取り出した。

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