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49 カタクリ:嫉妬

お久しぶりです。

定期連載の俺不運がだいぶ書き溜められましたのでまたぼちぼち更新を始めます。


 最近の東条は人が変わった様である。

 此処に来た時は怖くて怖くて仕方がない人だった。

 でも、最近は違う意味で怖い。


 なんというか、グイグイくる。

 そう、グイグイ。

 まるで近所に住んでいたゴールデンレトリバーのように。

 大きな身体で全力で甘えてくる感じ。

 ワンコの大きなボディでタックルされて私のライフはレッドゾーンだ。


「おはよう涼菜、会いたかったよ」

「……おはようございます」


 朝から豪華な薔薇が咲くかの様な、綺羅綺羅しい満面の笑みで迎える東条。

 なんだったらハグまでしようとしてくる。

 それを手で制して、挨拶だけ返すと、少しだけ寂しそうにしながらもにっこりと笑った。

 会いたかった、と言うが昨日も夜までほとんど一緒で、お風呂と睡眠時間くらいしか離れて居なかった。

 遠回しにそう伝えてみたけど、事実それだけの時間離れていたじゃないか、と返された。

 解せない。


「東条さんは……」

「涼菜、違うよ」

「……ぁぁあ……きら…はっ、四六時中一緒に居たら息苦しくないんです……ないっの?」


 ()()()の翌日から名前呼び、敬語不可を強要されている。

 距離を感じて嫌だと切々と訴えられて押し切られてしまった。

 年上の男の人に対していまだに慣れない呼び方と喋り方なのだけど、東条さんとか、敬語を使うと訂正させられるのだから頑張ってる。


 家族に会える様になってから約半年。

 私と東じょ…ぁ晃…っはそこそこ良好な関係を築けていた。

 私の『花』の栄養価が高く、栄養不足だった晃の身体全体に充分に行き渡ったらしい。

 『花』は冷凍保存もしているので、これからは無理をせず、普通に過ごして自然に出来た時だけ渡したら良いらしい。

 それで良いと言われたのは、晃が変わってすぐの事だった。


 そしてもう一つ。


「朝の『タッピング』の時間だよ。さぁ、こちらに来て、力を抜いて……」


 大きなソファーに腰掛けた東条が麗しい笑顔で私を呼んだ。


「ぅぅ……んっ」


 契約上でも、私の身体としても大切な事。


 “『花生み』にとっての一番の栄養は『花食み』の体液”


 以前教えられて、現在しっかりと実感している事だ。

 確かにタッピングを受けると充足感と多幸感を感じる。

 そしてとても美味しい。

 それまで食事やスイーツなどで感じていた幸せなど紛い物でしか無い、と言わんばかりの甘美なソレは、もう生きていく上で手放せないモノになっていた。


「んん…っふ……」


 もう十分だと肩を叩くと最後にもう一度、と言わんばかりにぐっと深く入ってきて出ていく晃の舌。

 自分で十分だと言ったにも関わらず、去っていくのが悲しく感じるのは『花生み』の本能なのだろうか?

 舌は離れてしまったが、軽く啄む様にちゅっちゅとリップ音を鳴らしながら抱きしめて、頭や肩、背中などを優しく大きな手が撫でていく。

 美味しいし、幸せを感じるけどコレはちょっと困る。

 あまりにも恥ずかし過ぎる。

 やっぱりタッピングって医療行為では無いのでは?と思ってしまう。

 助けを求めて後藤を見ると視線を逸らされた。

 ひどい。

 護衛とはなんなのかしら?

 更に名月に視線をずらす。

 そんな私と目が合うと、わざとらしく大きく溜息を吐いて晃をバリっと剥がしてくれる。

 ばっとその場から離れる。

 腕の中から逃げられれば無理に追いかけてこない事はわかっているのだ。


「名月さん、ありがとうございます」

「なんでそんな可愛い顔でお礼を言うのかな?」


 酸素不足で潤んだ涙を拭いながら名月にお礼を言うと、晃が拗ねた様に唇を尖らせる。

 その姿に先程までの行為を思い出し、頬が熱くなった。

 自分に必要な事だとは理解しているが、まだちょっと恥ずかしいし、長くは辛い。

 現にこれから学校に行かなくてはならないのに、手足に力が入らない。

 これも全ては晃のせいだ。


 もうすぐ春になる。

 二年生になる。

 今でも週に一度、家族が皆で会いにきてくれる。

 とても嬉しい。

 でも、皆と一緒に過ごせない事が少しだけ寂しい。

 前はずっと一緒だったし、一人の時間が欲しいって思ってたのに……。


「そういえば涼菜、二年生の祝いは何か欲しいものはないか?なんでも用意するよ?」


 少し乱れた服を直しながら聞いてくる晃。

 言っても良いだろうか?

 正直欲しい物は何もない。

 十分以上に与えてもらっているから。

 でもやりたい事はある。


「え、と……ホントに、なんでも……いい、の?」

「勿論だとも。あぁ、ただ契約の破棄だけは認められない」


 優しげな微笑みでなんでも言ってごらん、と言いつつ、契約の破棄だけはダメだと付け加えられた。

 私だって契約の破棄はもう求めていない。

 あの甘美な、抗い難い蠱惑的な雫を失う事は嫌だと感じているし、絶対に必要な物だとも思っている。

 恥ずかしいから絶対晃には言わないけどね。

 自分の思考に少しだけ恥ずかしくなって、穏やかに微笑む晃から少しだけ視線を外した。

 そうしてやりたいと思っていた事を口にする。


「……ぁ、新しい家で……家族と、一晩過ごしたい……なぁ…って……」

「?!」


 晃は大きく目を見開いた。

 その姿を見れば許可を出したく無い事は一目でわかる。

 でも、最近の晃なら嫌々ながらも許可を出してくれる様な気がして、期待を込めて答えを待つ。

 そこそこ長い時間を掛けて、苦悶に満ちた表情で許可がでた。


「ありがとうっ!」

「ングッ!!その笑顔は、ズルい……」


 なぜだか顔を大きく逸らして何事か呟いていたが、喜びに溢れていた私にはよく聞こえなかった。

 早速お泊まりの準備と家族への連絡を瀧本にお願いしておく。


「ただし、前後の日は学校を休んでオレとずっと一緒に居る事」

「ぅえぇっ?!」


 それはかなり私の心臓に負荷が掛かりそうだ。

 絶対にべったり貼り付いてくるやつじゃん!


「涼菜に長時間会えないのを我慢するんだから涼菜成分を前後の日は補充させてくれ」

「〜〜〜っ」


 名月を涙目で見ると、どちらとも過ごさないか、どちらとも過ごすかの二択だと言われ、しょんぼりしつつも了承する。

 そう答えて車に向かった。


「最近なんかお前ばかり頼りにされてないか?」

「気のせいでしょう」


 後方から二人が話す声が聞こえてきた。

 いいえ気のせいではありませんよ!(心の声)

 晃を止められるのは名月しかないないのだ。

 頼るのは当然である。

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