あったかいな……。
後半、三人称が少し入ります。
シルスさんには、大通りの、出来るだけはしっこの方を歩いてもらっていた。
シルスさんの言ったとおり、ときおりチラリと見られるも、それほど注目を浴びることなく家に戻られそうだ。
「心配しましたよ、ミハルさん。けれど、こうしてあなたの温もりを背中に感じて、少しホッとしました」
「うん……ごめんね」
シルスさん、優しいんだ。それがなんだか不思議で。だってシルスさんは、旦那様というよりは、事務員さんとして雇った側面のほうが大きい。お互いそれをわかっての、どちらかというと、経営者とスタッフという感じなのかなと思っているのだけれど、なんというか、そわそわしてしまう。
「あの……シルスさん」
「はい」
「わたし、経営者とスタッフとしてあなたを採用したんですけど……その……」
「?」
ぐわりと顔面に熱が集まる。ああ、これはダメだ。挙動不審に陥る前に、勢いを使って言ってしまわなければ。
わたしは息を吸い込んで、熱と一緒に言葉をひといきで吐き出す。
「や、優しすぎて。旦那様の側面が強いというか。なんかどうしたらいいのかあわあわしてしまうというか」
シルスさんが驚いて少しわたしのほうを向く。けれどすぐに口の端を少し持ち上げて、微笑む。
「ミハルさんは、その気持ちが不快ですか?」
「え?」
わたしはシルスさんの言葉を考える。
少しだけ沈黙して、小さくかぶりを振る。
「いえ。優しくて動揺します。けれど、経営者とスタッフとして話し合ったのに、このような気持ちを持つわたしのほうが、むしろ気持ち悪くないですか?」
わたしの言葉に、シルスさんは珍しくふはっと笑った。
「そのような気持ちを持っているなら、わたしとしては僥倖です」
「?」
「女性と婚姻関係を結ぶことは、この国の男性にとっては必要なことです。ですが、まったくその気がない女性のもとへ行くというのは、少なくともわたしはしません」
えっ、え、あのっ……。
「この店の開店初日に、あなたから渡されたクッキーが忘れられなくて。ひたむきに頑張るあなたを応援したくて、たびたびこの店を訪れていました」
放熱したはずの熱が……わたしの頬に再びくっつく。
たしかリフさんもそんなこと言ってたような。オープニングキャンペーンは、この国ではあまりする習慣がないの……かな?
「それはその……ありがとう……ございます」
「い、いえ。ええ……はい……」
お互い赤くなってモゴモゴしていると、大きな手がスッとのばされた。マクマクさんだ。
ええと……。
「マクマクさん?」
「うん、そろそろ交代してもらおうかなと思って」
交代? ああ、そうだよね。わたし重いから、長くおんぶは出来ないよね。そこまで思い至らずに、恥ずかしいかぎりです。
頬の赤さを誤魔化すように、シルスさんが訊いてくる。
「ミハルさんは、それでも大丈夫ですか?」
「は、はい」
え。シルスさんの表情が、縋るように切なそうに見てくるのは、わたしの勘違い……だよね。
「リフくん。お願いしてもいいかな」
「へいへい」と、マクマクさんに頼まれたリフさんが「わかってますよー」といわんばかりにわたしのそばにくる。
「んじゃ、ま。ちょっとワリィ」
と、再びリフさんが脇の下に手を差し込んでわたしを持ち上げ、マクマクさんの背中にはりつかせた。
わっ。おっきい背中。
思ってたより大きくて安定感のある背中に驚いてしまった。大型犬? クマさん? なんなんですかな、この癒し的背中は。
「立つよ?」
「う、うん」
視界がぐわりと高くなり、わたしの目の前の世界が俯瞰する。
思わず感嘆の声をもらすと、マクマクさんはクスッと笑って何故かご満悦だ。
マクマクさんが歩くと、見慣れた街並みがまるで違って見えて面白い。
これがマクマクさんの視点なんだ。
この視点でしばらく楽しんでいたら、マクマクさんが後ろにいるわたしを少し見る。
「今日は色々大変だったね」
わたしはフルフルと首を横に振る。
自業自得なので、逆に旦那様たちのほうが大変だったのだと思う。
「ごめんなさい」
わたしは、マクマクさんのうなじを見ながら謝る。
「ミハルちゃんが無事なら、それでいいよ」
「マ……」
そう言って笑うマクマクさんの背中は、大きくて温かくて優しくて。
安心して。
ひっこんでいた涙の膜が、再びできて揺れる。
あったかいな。
みんな……あったかい……。
あったかすぎるよ。
ホッとしたら、なんだか眠たくなってしまい、自然と瞼が重くなる。
「眠いの?」
「ん……」
こしこしとまぶたをこする。
ちょっとだけ……。
ちょっとだけ……いいかな?
「っ」
わたしは、マクマクさんにきゅっと掴まり、暖かい首に頬をつけて目を閉じた。
そのあとのことは、よくわからない。
「ミ、ミハルちゃん?」
首に触れる柔らかい感触に、大きな体躯のマクシヴァルが、小さくそわそわする。
ミハルを見たいが、ちょうど真後ろにいるため、彼女をうまく見ることが出来ない。
「可愛い顔しちゃってまぁ」
と、リフが何やらミハルにちょっかいを出して笑っているが、悔しい。見えない。
「子供みたいですね」
シルスがそれに追随する。
「えっ。僕もミハルちゃん見たいんだけど」
「マクさんは、そのままミハルおぶってりゃあいいじゃん。そのかわり、俺らはこの寝顔眺めてるんで。なぁ?」
「はい。そうですね」
何故かのニ対一の構図に、マクシヴァルが柔く苦笑する。
「え、なんか新手の嫌がらせ?」
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