11.マリーの作戦②
「……というわけで、わたしがお二人を全面的にサポートさせていただきます!」
フュルテゴットのせいで白けた空気をなんとかしようと、マリーは元気よく宣言した。
「ちょっと待って! おれ、やるって言ってないけど!?」
「そういう細かいことは気にしない! 気にしすぎるとモテないぞ、マルクス」
「だからそれは関係ないだろ!」
マルクスのもっともなツッコミに対し、フュルテゴットがどこかズレた返しをする。
こういうとき、フュルテゴットの不真面目な性格をありがたく思う。普段ははた迷惑としか思えないだろうけれど。
「まずはわたしが考えたダンスの振り付けを見てください。……と言っても、さすがに歌いながら踊ることはわたしの体力的に難しいので、歌はお二人のうちのどちらかか、もしくはお二人で歌ってもらえないでしょうか?」
「なんの歌?」
「お二人とも、ご存じの歌ですよ」
マリーが告げた歌のタイトルに、二人ともあれか、という顔をする。
その歌は、庶民から貴族まで、幅広く知られている歌である。
勇者と呼ばれた青年が旅立ち、仲間と共に成長していく物語を歌ったもの。それは実際にあったことを題材にし、多少の脚色を加えて曲をつけたといわれている。
「オーケー、オーケー。俺が歌う」
「では、フュルテゴットさま、よろしくお願いいたします。1、2、3で歌い始めてもらえますか?」
「りょーかい」
マリーは目を閉じてすっと息を吸い込む。
昨日はずっと練習し、シミュレーションも重ねたのだ。だから大丈夫。
フュルテゴットが「1、2……」と数を数え、「3」と言ったのと同時に目を開け、踊り出す。
本音を言えば、マルクスの前で自分の考えた踊りをするのは恥ずかしい。
しかし、それ以上に、マルクスが歌って踊っている姿を見たかった。歌っているとき、踊っているときのマルクスはとても素敵なのだ。そんな姿をぜひ皆に知ってもらいたいと、マリーは心から思っている。
この振り付けは、マリーでは物足りないように感じるだろう。マリーにはマルクスやフュルテゴットのように、キレのある動きはできない。
それでも、マリーはできる限りの力で踊った。技量では二人に遠く及ばなくても、気持ちはきっと伝わる──そう信じて、マリーは最後まで踊りきった。
最後まで踊ると、息が上がった。
乱れた息を整え、マリーはマルクスを見つめた。
「……どう、でした、か……?」
マルクスは果たして気に入ってくれただろうか。やはり、これではだめだったのだろうか。
そんな期待と不安を抱きながらマルクスを見ると、マルクスは頬をかいた。
「気に入っていただけませんでした……?」
不安になってそう問いかけると、マルクスはゆっくりと首を横に振った。
「……いや。すごく良かったよ」
少し困ったような、そんな顔をして「まいったな……」とマルクスは呟いた。
「なんていうか……マリーさんの熱量に負けた気がする」
「それでは……」
「その……散々、渋っていたけど……マリーさんの提案に乗らせてもらってもいいかな?」
「……! もちろんです! ありがとうございます!!」
マルクスに気に入ってもらえた──。
それだけで、マリーは胸がいっぱいになった。
(わたし……マルクスさまのお役に立てた……! すごく嬉しい……!)
自然と顔が緩んでしまう。
だらしない顔をマルクスの前ではしたくないけれど、嬉しすぎて真顔を保つことが難しい。
「丸く収まって良かった良かった。最初から素直にやるって言えば良かったのに。マルクスって本当に素直じゃないなぁ」
「……うるさいな」
「まあ、それはどうでもいいんだけど! ねえ、マリーちゃん。俺の歌はどうだった?」
「どうでもいいって……」と言うマルクスの抗議を無視し、フュルテゴットはマリーに話しかける。
マリーはにっこりと笑って答えた。
「踊りやすくて、とても素敵でした」
マルクスさまを無下にしなければもっと素敵ですけれど、と嫌味を言ったにも関わらず、フュルテゴットはそれを気にした様子はなく「でしょ、でしょ」と誇らしげだ。
嫌味が通じないフュルテゴットに、マリーは内心で舌打ちをする。
「それで……これからおれたちはどうすればいいのかな?」
「これから毎日、お二人には歌と踊りの練習をしていただきます。わたしも微力ながらお手伝いさせていただきますので、三人で頑張りましょう!」
張り切るマリーに、マルクスもフュルテゴットもしっかりと頷く。
そしてマリーはにっこりと、笑う。
「まずは歌の練習からですね。発声練習をしたのち、ダンスの振り付けを覚えてもらいます。だいたいは先ほどわたしが踊った通りにしていただければいいのですが、同じ動きをするだけだとつまらないので、少しだけ動きを変えます。わたしではできないようなこともお二人ならできると思いますし」
にこにこと、マリーは告げる。
そして笑顔のまま、二人に告げた。
「──先に言っておきますね。わたしの指導は厳しいです。覚悟なさってくださいね?」
迫力のある笑顔で宣言したマリーに、マルクスとフュルテゴットは固まった。
なかなか返事をしない二人に焦れたマリーが「わかりましたか?」と問いかけると、二人は弾かれたようにコクコクと首を縦に振る。
「……なあ、マルクス。もしかして、俺たち……」
「言うな。今、マリーさんの提案に頷いたことを少し後悔しているところだから……」
こそこそとマリーにわからないように話すマルクスとフュルテゴットの会話の内容は、幸いなことにマリーには届かず、マリーはとても良い笑顔で「さあ、発声練習をしますよ!」と二人に声をかけた。
二人は顔を見合わせ、諦めたように笑ったあと、マリーの言う通りに発声練習をし始めたのだった。




