12話
かつっと、足に何かが当たった。
しゃがみこんで砂を掘る。
顔の大きさぐらいの瓶。
中には紙切れが入っていた。
夢のような気がした。
もしかしたら、ユキヤの……?
〜僕と彼女が初めて出会ったこの場所に遺書を残そうと思う。この手紙が読まれるのはいつになるのか、そして誰が読むのかも分からない。いや、誰にも読まれずに海に沈んでいるのかもしれない。
……ユキヤだった。
この手紙を書いたのはユキヤだ。
……遺書?
突然の夢みたいにフワフワした感覚。
手が震えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー……
もしも、この手紙をユキコ本人が見てくれたならどんなに嬉しいだろうか。
初めて出会った満月の夜のこと。
ユキコに一目惚れした。
合唱団に誘ったのは、それが理由だ。
ユキコと歌った思い出は忘れない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー…
それだけだった。
しかし、もう一枚。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー……
僕の遺書はこれだけでは完成しない。
どうか探して欲しい。僕の他の遺書も。
きっと僕からのメッセージに気づいてもらえるはずだから。
そして、もしも南川ユキコという人物に出会ったら伝えてほしい。
僕のメッセージを。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……
紙と瓶は新しいものだ。
きっとまだ何日もたっていないはず。
ユキヤはこの世界にいるはず。
いても立ってもいられない衝動に駆られて走りだした。
「お嬢さん♪どこ行くの?」
振り返る。
金色の輝く髪の毛。
口にはタバコ。
ああ、見覚えのある顔。
「タクトさんですか?」
「そうだよ♪見たよね?遺書」
楽しそうにタクトさんは笑っていた。
「ユキヤのこと知ってるんですか?」
「うん。もちろん♪知ってるに決まってる」
「遺書のこと知ってるんですか?」
「ああ」
「……っ教えてください!ユキヤは今どうしてるんですか!」
「えーと。それは、教えられないかな♪」
がくりと膝をついた。
「な……んで?」
「秘密主義!あはは。教えてほしいの?」
「………」
「まあ、知りたいよね。でもそれをユキヤは望まないよ。それにね君は……
んー。やっぱり言わない!」
現実離れしすぎた、会話。遺書。
私は、気を失った。