第12話 夜は淫らな僕の教師
ふむ、不味いな。
現在、ウェンロッゲ王国と隣国の魔族領とかなりの緊張状態にある。というかほぼ戦争待ったなし状態だ。
ゲーム本編でも中盤から本格的な魔族との戦争が始まる。
今この瞬間こそ本格的な戦いになっていないが、この国では魔族は冷遇されている。
貴族や冒険者ギルドによって身分が保証されていなければ、国外追放かあるいは奴隷である。
そういう意味では、メイジーメイ先生は我が父バッドワルド辺境伯に身分を保証されているのだが……。
しかし、魔族領と隣接している地を治める辺境伯がその屋敷に魔族を匿っているというのは……やはり誤解を呼ぶのかもしれない。
それをこのバカ王子に責められると……些か問題かもしれない。
「答えていただきたい。何故このご時世に魔族を屋敷に置いておられるのか」
王子が笑顔のまま言った。
笑顔だが目が笑っていない。完全に政治的な攻撃だ。
まずい。
確かにまずい。
魔族領と隣接する辺境伯の屋敷に魔族がいる。誤解を招く状況であることは間違いない。
どう答えるか。
落ち着け、慎重に、丁寧に。
「僕の性処理担当です」
俺は言った。
はっきりと断言してやった。
断言してしまった。
沈黙。
完全な沈黙だった。
場がめっちゃ凍り付いた。芸術的なまでに。
リンセ王女だけが「……?」という顔でこちらを見ていた。
うん、あなたはずっとそのままでいてください。出来るなら学園入学まで。
「せ……性処理、とは」
王子が絞り出すように言った。
「字面通りの意味でございます」
俺は答えた。
「言い換えましょうか。
夜は淫らな僕の教師、です」
「エロ本やエッチな動画タイトルみたいなことを言うな! おい辺境伯、こいつ本当に十歳か、全くすごい英才教育ですなあ!」
「勘違すんなよバカ王子、あれは教育のせいじゃなく、素でああだ」
「なおさら悪くない!? どんな前世の業を重ねたらあんなのが生まれるんだ!」
バカ王子が怒鳴る。
ほっとけ余計なお世話だ、俺は前世で特に悪い事した覚えはないぞ。真っ当に生きて若くして死んだだけだ。
俺のこの口調はこの世界のバグだぞ。祝福とか加護とかスキルとか言ってるがバグだろこれ。
ちなみにこの世界にエロ動画は存在する。水晶球に保存するマジックアイテムだ。ゲームでもお世話になった。ヒロインたちの盗撮動画とか。
なお先生が隠し場所を暴いた父上の秘蔵コレクションは、父上の口調を知ってる人たちからしたらびっくり仰天するような、甘々な純愛ものばかりだった。
閑話休題。
「魔族を淫らな夜の教師にするのは……ダメでしょうか? そんな法律はありましたっけ」
「ねぇな」
父上が補足してくれる。
「法律の問題ではない」
法治国家だろうがこの国は。
「我が国……いや人類圏そのものが魔族と敵対しているのだ、この時期にそのような怪しい事をしていることが問題なのですよ辺境伯。
ふん、だいたい口でそのような下品で下劣なことを言っているが、どうせ我々を煙に巻くための方便に過ぎぬのだろう。我々をそのような口八丁で欺けるとでも」
「では証拠があればいいんですね?」
「ああ」
「仕方ないですね。あ、侍女さん。姫様の目と耳を塞いでくれますか? 目隠しプレイいいですよね、視覚を封じられる事で肌の感覚が鋭敏になって」
俺のセクハラに色々と察したのか、侍女さん達がリンセ王女の目と耳を塞いだ。うむ、実に有能な人たちだ。
「おいちょっとエロガキ、何を」
「ナニですよ」
先生も流石に察したのか口を出す。
しかし先生、これは身の潔白を示すためなのです。すまぬ。ごめんなさい。
俺は懐から水晶を取り出し、魔力を送る。
すると……。
『んっ、このエロガキ、調子に、のっ……んんんんんっ!』
先生の喘ぎ声と共に、とても表記できないような映像が空間に映し出される。夜のお勉強の録画だ。
なおちゃんと俺の光魔法で大事な部分は修正してある一般向けなので大丈夫だ。魔法で生み出した光の帯が胸と股間部分を見事に隠している。
「なっ……」
「これが証拠です。まだまだたくさんありますよ。何なら、場所と時間をある程度無視して録画再生する僕のオリジナル盗撮魔法によって先生が自分を慰める動画も……」
俺は最後まで言えなかった。
後ろから杖で後頭部を強打されたからだ。魔族の手によって。
というか先生だった。
魔力を乗せた盛大なフルスイングだった。
そのあくらつな一撃で――俺の意識は刈り取られた。
嗚呼――俺は選択肢を間違い、DEDENDルートに突入したのだ。
――完――
◇
いやまあ、別に俺は死んではいなかったようだ。
気が付けば部屋だった。うん、頭が痛い。
どうやら殴られて気絶しただけらしい。
「か、勘違いしないでよねっ! 別にお兄様のことなんて心配なんてしてないんだから!」
妹のテンプレなツンデレが心に染みる。
さて、聞いた話ではあるが――結果として、魔族問題の議論はうやむやになった。
王子としても「性処理担当の魔族を追い出せ」とは言いにくい状況になってしまったのだ。まああの空気ならな。家臣とは言え他人の家の下半身事情に口を出す王子というのは傍から見て実にアレだからな。計画通り、
しかし問題はそこではなかった。
飛空艇が故障したらしいのだ。何でも来る途中に魔物に襲われてそのせいらしい。
そして修理に数日かかるとのこと。
なので、王子と姫と騎士たちが数日の間、エルニズム辺境伯領に滞在する……ということになったらしい。
バカ王子いわく、
「この際だ、今まで会えなかったぶんを取り戻すといいでしょう。エドワルド殿と我が妹で仲睦まじく。何しろ婚約者なのですから」
おい馬鹿やめろ。
お前、あんだけ公衆の面前、王族や王宮騎士たちの前で夜の家庭教師との夜のお勉強動画をドヤ顔で公開したクソガキと妹を一緒に過ごさせる?
頭にウジ湧いてんのか。
絶対に正気じゃねぇだろ。
……その話が進むときに俺が起きていたら、セクハラ全開にフル発揮して何とか食い止めていたのだが……クソ、先生め。先生が手加減無しにぶん殴るから破滅フラグがまた立ったじゃないか。あとでいじめてやる。
その夜。
「チャンスじゃん。今のうちにあの姫様エロ調教しちゃえよエロガキ」
研究室で先生がそんなことを言い出した。
何を言っているんだこの先生は。
「何の話ですか露出癖先生」
「露出癖はないっつーの昼の事絶対に忘れないからねクソガキ。もし無修正だったらガチで殺してたよ」
「安心してください、先生の貧相かつエロい身体を他人に見せるつもりはまったくないですから。先生の身体は僕のものです」
「……最近そのスキルのせいだけじゃなく普通にエロガキになってきたよね君。
それはともかく。あの王女ちゃんだよ。性的に無知でしょ彼女。今のうちに色々と仕込んでおけば後々安泰だよ」
何が安泰なのか。
……いや。
「今のうちに耐性つけとけば、今後の君発言にも動じなくなるでしょ。常識的な性知識がついてから君と会話したら間違いなく嫌われるでしょ、だけど今からなら……」
確かに、それはアリと言えばアリかもしれない。
実際にゲーム本編のエドワルドは滅茶苦茶嫌われていたのだ。
だったら今のうちにしっかりと仕込んでおけば……。
「いや、もったいないけどやめておきます」
「なんで」
「この国では純潔教育が徹底されているはずです。王女ともなればなおさら。そこに俺がエロ調教をしてしまえば……それこそバレたら大問題ですよ」
俺はそういう経験はないが、前世ではそういった大人が子供をエロ調教する事件はあった。俗に言うグルーミングというやつだ。
そしてそれは、調教された本人から周囲にバレる。
なにも「私は犯されています、助けて」といったSOSではない。
「私は大人の人とこんな素敵な事してるのよ」と、罪悪感も背徳感もなく周囲に告げる、自慢することで暴露されるのだ。
純粋な子というのは純粋が故に、あやうい。
つまりリンセ姫を調教してみようものなら、必ずバレるだろう。
そうなれば間違いなく首が飛ぶ。
結婚したならともかく、まだ婚約者――それも俺は姫の複数いる婚約者の一人に過ぎないからだ。
「なるほどね。しかしそうなると大変だよ」
「ええ、大変です。全くあのバカ王子も何を考えているのやら、飢えたゴブリンの檻に女の子を投げ込むようなものですよ。
あれですかね、家族が汚されるのを眺めて【セルフバーニング】する性癖でも持っているんでしょうか。……盗撮魔法の対策しとかないとですね」
「えげつない性癖だね。ていうかその盗撮魔法って何なんだよ私聞いてないよ」
「言ってませんでしたっけ。記録魔法を色々といじってみたら出来るようになりました、場所と時間をある程度弄って遠隔で過去の映像も盗れるんですよ」
「……えげつないね。ていうか、その手の記録魔法の防御術式は張っていたはずなんだけど。
……そっか、君のエロ魔法はエロ魔法専門の術式を組まないとだめなのか」
先生がぶつぶつと考え込む。
魔術には対抗術式が存在しているが、「全ての魔法を跳ね返し無効化する」というのは不可能らしい。
それぞれの細分化した魔術、ジャンルごとに対抗術式を組む必要があるらしい。
なるほど、普通は俺のエロ魔法は想定していないだろうからな。
まあそれはそれとして……。
姫様と一つ屋根の下、か。
何だろうね、この心躍るはずの青春ワードが、俺にとってはホラー映画のキャッチコピーにしか聞こえなかった。




