第22話 一件落着にはほど遠い?②【第一部 完】
投稿2/2です。2話同時投稿しています。
「いきなり呼び出して、すまないね」
抜けるような青空の下、宗一郎は庭園にあるガゼボのベンチに腰かけたままそう声をかけた。
側には騎士服に身を包んだルードが跪いている。
「いいえ、ゼファル様の御召しとあらば」
「ありがとう」
ルードがここに現れるまで、宗一郎は原典を確認していた。
このガゼボは、以前リヒャルトから逃げたときに訪れた、人気のない場所だ。
部屋にいると聖獣やメリアたちが賑やかなので、最近の宗一郎は一人で作業したいときだけここに来ることにしている。
原典の前半部分は、もうほとんどが赤文字で綴られていた。この影響で、改変された展開はこれからも続いていくのだろう。
「文官たちの業務改善をしようと思うんだ」
「はっ」
「全員の仕事を誰にでも見える形にし、適切な分量で割り振り、人手の足りない部署へは適切な能力を持つ人材を雇用して回す。そのためには時間がかかってもきちんと聞き取りをしないと」
説明している間、ルードは真剣な表情をしていた。
こんなことをする王族は今までいなかっただろうに、それでも宗一郎の意志と能力を信用して黙って聞いてくれている。
(ありがたいな。やはり、ルードは一番信用できる騎士だ)
心底ホッとしながら、宗一郎は穏やかな口調で爆弾を落とした。
「そして、王がいなくても滞りなく仕事が回るようにしていく」
「えっ」
驚いたように目を見開いた彼に宗一郎は宥めるような声で続けた。
「もちろん、王を軽視するような風潮にはしないよ。ただ、父上がそろそろ引退したいらしくてね。私は、次の王はラフィセルがいいと思うんだけど……。彼はまだ十五だろう? 不慣れな彼が困らないように私がせめて体制を整えておこうかと」
(聖騎士ラフィセルには、これからメリアと共に世界を救う別の大仕事もあるしなぁ)
「きちんと引き継ぎ資料を作っていくから、安心して。その通りにやれば私がここにいなくても大丈夫。みんな問題なくやっていける」
「な、なぜ」
「うん?」
「殿下が我々の前から消えてしまうような」
(――だって私は、所詮異邦人だからね……)
少しだけ眉を寄せて微笑んだ宗一郎は、ルードに手招きした。
そして足元に近づいた彼の肩に手を置く。
「君を呼んだ理由はね、頼みたいことがあるからなんだ。誓いをした君にしか頼めないことだよ」
「はっ、なんなりと」
「――私がいなくなったあと、ラフィセルを支えてほしい」
ルードは目を大きく見開いた。
はく、とその唇が音もなくわずかに動く。
(やはり原典通り、ルードはラフィセルの側にいるべきだ。私はこれから田舎でスローライフが目標だし、騎士には退屈だろう……)
「君の腕を信頼しているから頼むんだ。……どうか」
もう一押し、と言葉を重ねた瞬間、ガサガサッとガゼボ近くの茂みが分かれた。
「ダメーーーーーー!!」
羽ばたくハシビロコウに乗ったメリアが、とてつもない勢いでベンチに突進してくる。
サッとルードが宗一郎を退避させたが、鉄製のベンチはすっかり歪んでいた。
「兄上えぇぇ!」
うるうると目を潤ませたラフィセルも現れ、抱きついてくる。
逆方向からルルとメリアもひしっと宗一郎にくっついた。
『いなくて大丈夫なんていうなよゼファル~やだよ~』
「ダメなの。一緒にくらすのよ」
メリアは一際大きな声で叫んだ。
「私たちは、おじさまと一緒にいたいの! いなくちゃ、寂しくてダメなの!!」
「……メリア」
呆然として彼女を抱き留めていた宗一郎は、瞬きを繰り返した。
そして自身の思い違いに気づく。
どれだけ環境を整えても、合理性を追求して『役割』を分担しても、個人がいなくていい理由にはならないのだ。
ふと、一瞬現世のことが気になった。
きっと業務上は何も問題なく進んでいるはずだ。しかし――
彼ら、彼女らは、宗一郎の不在を少しでも寂しく思ってくれているだろうか。
(異邦人だなんて、この子たちに失礼だったな。これほど私という存在を受け入れてくれてるのに)
「ごめんね、みんな。ありがとう」
ここにもちゃんと居場所があったのだと、宗一郎はくすぐったく思いながら笑った。
‡
『あ、邪気の卵? ああ~、お手柄なメリアに加護送っておくわね』
女神教の神殿にて、宗一郎は例の聖水瓶に閉じ込めた『何か』を持って、報告にきていた。
「これが卵?」
『うーん、寄生虫の卵っていうのかしら。まだ成虫になる前でよかったわね。ねずみ算式どころじゃなく増えるのよ、これ。今のうちに駆除駆除。でも一匹いると三十匹はいるわよ。やだ~探して早めに処理しなきゃ~』
(某黒い害虫みたいな言われようだ)
『誰から引っこ抜いたの? 大丈夫? 廃人になってないといいけど』
礼拝堂の中では、天から降ってくるように女神の声が聞こえてくる。
『改めて、謝罪するわ。メリアにも怒られたの。こちらの世界につれてくるとき、失敗してしまってごめんなさい。もう身体と魂は大丈夫?』
「ああ、聞きました。いえいいんですよ、だってあのままいても向こうでは死ぬ運命でしたから」
『――えっ?』
「ご存じなかったですか。がんのステージ四で、交差点ではバイクにも跳ねられて、その瞬間だったでしょう。恐らくですが、貴方が拾い上げてくださらなかったら私は、アスファルトに叩きつけられて即死だったでしょうね」
『ええっ!?』
「なので、謝る必要はありませんよ。こちらこそ新しい生を与えてくださりありがとうございます」
身を守る青い炎の加護も与えられていたのだ。宗一郎の感覚では十分すぎるフォローだった。
『そ、そうなの。メリアがすごく怒ってるから、私、貴方も同じなのかと思っていたわ』
「いえいえとんでもない」
『よかったわ~! ホッとしちゃった! あ、なんか他にも加護いるかしら? 今なら大奮発しちゃうわよ!』
問われて宗一郎は首を傾げた。
口約束でもこういったものは、即答しないのが一番だ。一度持ち帰り検討するのが、常である。
ただし反故にされない程度の間隔で願いを言うのがいいだろう。
『私、わりとなんでもできるから、遠慮しないで!』
「では考えておきますね」
『あら?』
「今日はこれから予定が。……みんなで聖霊樹を見に行くんです」
聖獣は鼻が利くので神聖区の森にある聖霊樹の実を見つけられる――これが定説だ。
しかしみつけた後、採取は聖獣でなくとも良いらしい。誰でもできるなら、と今日は準備をしっかりしてきた。
(大規模な収穫と運搬の人手も確保してきたし。みんなしびれを切らしている頃かな)
『そうなの。いってらっしゃい』
失礼します、と女神に一礼した宗一郎の上にきらきらとした光の粒子が降り注ぐ。
(なんだろう。加護? 祝福? まあいいか)
宗一郎はそのまま礼拝堂を出た。
「お祈り、おわったー?」
『早く行こうぜー』
メリアとルル、そして聖獣たちがわくわくした顔で待っている。
彼らが心待ちにしているのは採取ではなく、お昼のランチボックスだ。宗一郎特製のばくだんおにぎりが入っている。
その他にも、ラフィセル、ルード、ギルバートにライラ、そしてレナードが率いるレジスタンス組……
みんなが宗一郎を待っていた。
礼拝堂の扉を閉める前、祭壇の女神像を振り返り宗一郎は穏やかな笑みを浮かべる。
「ありがとう、女神様。私はこれでも、ここで生きて、とても幸せですよ」
【第一部 転生おじさま編 完】
ここまで読んでいただきありがとうございました!
カクヨムにて【MFブックス】イケオジ小説コンテスト【中編】に参加中で、(宗一郎おじさまはイケオジ……だろうか?)
規定により6万字以下で第一部完としたのですが
ほのぼのした番外編とか書いていきたいので\(^o^)/
引き続き、転生おじさまをよろしくお願いします!




