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悪役イケメン王子に転生しちゃったおじさん  作者: 天城


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第1話 アラフィフおじさま、転生して天命を知る


カクヨムから移動してきたおじさま愛され物語です!


よろしくお願いします!




「処刑だけは! どうかお慈悲を! 殿下!」


 ハッと我に返った瞬間、目の前にズラリと並ぶ土下座した男たちの姿が視界に入り、神崎宗一郎かんざきそういちろうは驚いた。


 土下座などという非人道的な謝罪を求めるクレーマーはどこの誰だろう、と考えただけではない。

 目の前に続く一本の赤い絨毯、大会議室の三倍はありそうな空間に白い石の床、豪奢な装飾の扉、眩しいほど外の明かりを取り込む大きな窓――そして、目の前には土下座の男たちが数十人、である。


 これを驚かずに流せたら、その者は心臓に毛が生えているだろう。


「謀反などと、貴族共の言いがかりでございます! ラフィセル様がそのようなことをなさるはずが……!」

「何を言うか! 動かぬ証拠があるから捕らえられたのではないか!」

「ゼファル様を亡き者とし王位継承を狙ったに違いない! 妾腹の第二王子ごときが身の程を知れ!」

「いまだ病床に伏していらっしゃる陛下を慮らないばかりか、なんと身勝手な行いか!」


 おや、知っている名前がぽつぽつと……

 そして覚えのあるセリフにつられるようにして、続きが口をついて出た。


「――騒々しい。誰が発言を許した」

 

 凜と響く低音だった。

 一瞬にして周囲の人々が凍り付いたように動かなくなる。


 今のは本当に自分の声か、と不思議に思い喉元に手を当てると、手袋越しの感触がした。改めて自身の身体を見下ろしてみて、出勤用のスーツではなく普段着のポロシャツでもないことに気がついて息を呑む。


「ゼファル殿下、もう問答も不要でございましょう。罪人共はすぐに処刑場へ」


 傍らにいた背の高い男性が屈み込んできて、穏やかな微笑みをたたえながら話しかけてきた。


 そうか、自分が『ゼファル』なのだと自覚する。

 この西洋ファンタジー風な人々、謁見室のような部屋、自分の豪奢な服装、それにくわえて――ゼファルという名だ。

 それは愛読書『捨てられ聖女の復讐譚』の中の悪役だった。

 

 これってもしかして転生というやつですか。

 こんな五十路のおじさんでも異世界転生、起きますか。そうですか。


 せめて幼少で転生していたら、主人公たちとの関係回復や悪役回避などできただろう。しかし今みる限りこれは悪役が主人公サイドを断罪する場面である。

 すでに縄にくくられた第二王子ラフィセルが薄汚れた服装で床に這いつくばっている。乱暴に扱われたのか横に並ぶ部下たちはボコボコだ。

 刑の執行前にそういうことをするのはいけないと思いますね、などと思い宗一郎は眉を顰めた。


 そのせいで周囲の人々に緊張が走ったのは知るよしもない。


 確か断罪の時点でラフィセルの年齢は十五歳である。キラキラした青春時代の中学生になんてことをと宗一郎は胸が痛くなった。

 ラフィセルは母親似の金髪碧眼で絵に描いたような王子様だ。ゼファルの黒髪と朱色の瞳とは対照的に描かれていた。性格も真逆で、妾腹とはいえ父親からは聡明かつ天真爛漫な性格を好まれ、側室と共に離宮で愛でられて育っている。

 ただ、彼には後ろ盾といえるものが何もない。唯一のよりどころであった父親が病に倒れ、第一王子であるゼファルが王の代行を始めたときからその運命は転落の一途を辿った。


「……」

「殿下? どうかなさいましたか?」


 これからラフィセルだけが処刑を免れ、味方はすべて斬首、その恨みを胸に鉱山労働へ回される。そして数年ののちに聖女を連れて復讐にやってくるのだ。その未来を宗一郎は本の中で繰り返し読んだ。

 けれどその通りに物語を進めたら、王都は火の海になる運命だった。

 なにも燃やさなくたっていいじゃないか。もっと平和的な解決を望みます。おじさんは平和主義者ですので。

 

「処刑は許さぬ」

「は、……では強制労働など……?」

「ラフィセルは私の側仕えとする。その部下たちは騎士団の下働きとして雇用せよ」

「――こ、雇用?」


 どよどよと周囲に広がる動揺を感じながら、弾かれたように顔を上げたラフィセルの顔を見下ろす。薄汚れても輝きを失わない、強い意志の籠められた目と視線が交差した。


「不服か、ラフィセル」

「……とんでもございません。温情に、感謝いたします」


 縄をかけられた男たちが引き起こされ、そしてその縄を引く者たちも一様に「???」とキツネに摘ままれたような顔をして部屋を出ていく。

 一人ぽつんと残されたラフィセルは、金色のつむじを見せたまま深々とこちらに頭を下げていた。


「面を上げよ。……まずは湯浴みだ。それなりに仕上げて私の部屋へ連れて来い」

「は、仰せのままに!」


 メイドたちに囲まれたラフィセルの背中を見て、ホッと安堵のため息が漏れた。

 彼にはこれから小説の主人公である聖女と出会って貰わねばならない。彼と聖女によってこの世界は危機を脱し、平和な未来が訪れる。


 そこへ導いてはじめて自分も平穏な人生を送ることができるだろう。……ちなみに正史であればゼファルの末路は、攻め入られた王城にて炎に包まれ生死不明。まるで本能寺である。

 格好良いと震えたのは読者だったからで、宗一郎はそんな最期を迎えるのは御免だった。

 今からでも主人公を復讐鬼ではなく真っ当な道へと導き、世界を救ってもらうのだ。


 異母兄弟であるラフィセルはゼファルと五歳ほどしか年齢が離れていないが、宗一郎の気分は『親戚のおじちゃん』であった。前世の年齢を考えたら父と子の年齢差である。


(大きく育つんだよ、聖騎士ラフィセル……!)


 内心でエールを送られているとは思わない当の彼は、キュッと唇を引き結びながらメイドに連れられていったのだった。


      ‡


 神崎宗一郎は、今年五十になる平凡な会社員である。

 つい先日総務部長が定年退職し、再雇用となったため形ばかりの部長職についた。

 辞める前には「その都度ちゃんと教えるから」と言っていた元上司は、月給が三分の一になったと文句を言い面倒くさがりはしたものの、口伝ばかりの業務を宗一郎によくよく教えてくれた。

 それを端からマニュアル化して休暇をとっていても業務が滞らないようにした。

 総務部内の仕事は細部に至るまですべてマニュアル、共有化したため、一人でも急遽休んだ場合は他の人が代わりに立てる。総務部は小さいお子さんを持つ女性も多かった。

 

 「部長の仕事ってそこに座ってるだけだと思ってました」


 はじめは面倒くさがった女性職員たちからも優しい目で見られるようになった。

 業務会議も嫌がられながら月一で開催するようにして、最初は戸惑っていたパートさんや事務の女性たちからの意見も吸い上げ、仕事量の偏りもなくしていった。

 そして適切に総務部が回るようになってきた矢先のことである。

 宗一郎は人間ドックで胃がんが発見され、ステージ四を宣告された。最近ちょっと胃もたれするなぁ、などと軽く考えていたがもっと早くに病院にかかるべきだった。


 ――ああ、どんな荒波にも心を穏やかに生きてきたこの人生も、そろそろ終わりか。

 

『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。一度生をうけ、滅せぬ者の有るべきか』


 気分は、みんな大好き信長最期の場面、敦盛である。

 読書の好きな宗一郎は信長の題材の物語もよく読んだ。悪役っぽいがその魅力に抗えない、みたいなキャラクターが好きだ。

 うんうん、と頷いてまあこれも運命だろうと考えた。


(そうだ、昼から限定30本のエクレアを買って帰ろう)


 せっかく通院のためにとった午後半休なのだ。

 本屋にも寄って、久しぶりに新刊の棚だけでなく既刊のほうも回って、死ぬまでに読んでおきたい本を買っていくのも良いだろう。


 宗一郎は独り身なので何に気兼ねすることもない。


 さて、今日のお昼ご飯は何にするか――

 そう考えながら横断歩道を渡っていたとき、突然バイクが大型トラックの横をすり抜けてこちらに突進してきた。


(――え?)


 





第一部完まで、一気に途切れず毎日アップしていきます。

よろしくお願いします。

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