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【間話】あの頃の様にもう一度

 どうしてこんなことになってしまったのか。


 私は未だかつてないピンチに追い込まれていた。


ーーーーーーーー


 その日は、ウィミリオンの屋敷へと招待されていた。今の私達は“婚約”状態だった。


 再会を果たしたばかりの我が子との時間をとらせてほしいと、公爵に泣きつかれウィミリオンとは逢瀬を重ねるに留まっていた。



 屋敷をひとしきり案内され

「いずれはロシュ…ルイーズとここに住むと思って用意した家なんだ」


 乙女のように頬を染めて彼はつぶやいた。

 こちらまで照れてしまうーー

 実際には公爵家を継ぐため結婚すればここは別邸になるけれどーー


「ねぇルイーズ、どうしてもお願いがあるんだ。ついてきてほしい」


 なんだろう?そう思い手を引かれついていくと、そこは洗い場の手前、服を脱ぐ場所だった。


「あの頃みたいに、ルイーズにして欲しいんだ」


 "して欲しい"って何をーー!?

 その曖昧なもの言いに、顔に熱が集まってくる。


「よく、孤児院でしてくれたじゃないか。ルイーズはとても上手だし、その……俺も、ルイーズにしてもらうのが……一番気持ちよくて」


 口を手で覆い、顔を少し背けたまま言うウィミリオンは、耳まで真っ赤だ。

 洗い場で……ってまさか、身体を洗って欲しいってこと!?

 え、私が上手って、えっ!?

 気持ちいいってそこは触ってないはずーー!?


 目を白黒させて動揺していると、ウィミリオンが動く。

 洗い場のドアを開け、服を着たまま中に入る。


「ルイーズ、こっちへ来て」

「う、うん……」


 ええい、ままよーーーー


 目をつぶり中に入ると、ウィミリオンがーー服を着たまま椅子に座っており、もう一脚、脚の長い椅子が用意されていた。その上にはハサミが置かれーー


「あの頃みたいに、髪を整えて欲しいんだーー」


 そう、黒い瞳を子犬のように潤ませておねだりしたーー。


「あ! 髪! 髪ね。いいわよ、私はてっきり服を脱がせて身体を洗ってって言われるのかとーー」


 言いかけて墓穴を掘ったことに気がつく。

 キャーーーーッ何を言っているの私は!

 そんな破廉恥なことを考えていたなんて知られたらーー!


 両手で顔を覆い指の隙間から彼を見やれば、真顔になったあと意地悪く口角をあげニヤリと微笑んできた。


「じゃあ、髪を切り終わったらそれもお願いしようかな。ああ、ルイーズってば()()()()()んだから、平気なんだったよね」


 まさか、幼い頃投げたブーメランが今頃返って来るなんてーー!



ーーーーーーーー



 そうして今に至る。


 か、髪を切っているうちに忘れてくれないかなーー?


 薄金色の癖のある髪を、シャキシャキと落としていく。

「やっぱりルイーズに切ってもらうのが一番気持ちいい。寝ちゃいそう」


 考えてみれば彼は半魔。

 刃物を持った人がこんなに近くにいたら……髪を切ってもらうなんて、相当気を張ったかもしれない。

 安心して身を委ねられなかったかもしれない。

 滑らかな手触りの髪は断たれた側からハラハラ落ち、肩に、服に、座った膝についていく。それを繰り返しーー穏やかな時間が流れた。


「できた!本当にちょっと揃えるだけで良かった?」

「うん、ありがとうルイーズ。でもなんか鼻のあたりがむず痒いや」


 髪を摘みながら嬉しそうな笑顔を作るウィミリオンの鼻の頭には、切った髪がついていた。

「あはは、髪がついちゃってる。今払い落とすからちょっとまって」


 彼の前に回って、顔についた毛を軽く撫で落とす。そのまま肩、胸板、腰、太ももと軽くはらいーー


「これでどうかな? チクチクしたり痒いところはないでしょう?」


 言い終えて、かがんで毛を落と作業をしていた自身の身体を起こすや否や、ウィミリオンは椅子に座ったまま即座に私に背を向けた。

 前かがみになってプルプル震えており、その耳は真っ赤になっていた。


「はぁ……耐えられない……おかしくなりそう」


 何かをつぶやいていたがそれはいつかの、子鹿のように震えていた小さいミリオンを彷彿とさせ、可笑しくて、懐かしくて声を上げて笑ってしまった。



 その後涙目になったウィミリオンは、何故かものすごく怒っていてーー



「じゃ次行こっか」


 笑顔が怖い。


 そのまま仁王立ちして動かない彼の服を上から脱がすことをさせられ、テントを張ったズボンに気付き怒った理由を察するも、先を促され、顔を背けながらなんとかそれを脱がせたが、下履きはーー


「その先はどうしても出来ないわ、ごめんなさい」


「あれ? 見慣れてるんじゃなかった? さっきの髪を払う手つきも、すごく慣れてるように感じたけど」


 少し低いトーンの声、意地の悪い視線が向けられる。


 顔が熱い。

 恥ずかしくて火が出そう。

 助けを求めるように涙目で見上げればーー


「ーーそれは反則」


 短くそう声がしたかと思えば、荒々しく両手で顔を包み込まれ、しかし優しいキスの雨が降り注いだーー。




いつも応援ありがとうございます。

ローファンタジー「猫がいない世界に転生しました」連載中です!そちらもよろしくお願いします。 

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