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第24話

 

 慌てて部屋を出てきたためにすっかりアポを取ることを忘れており、それに気がついたのは長い階段を上り切った後であった。今から一階の受付に確認しに戻るのもめんどくさいので、このまま部屋を訪れてしまい、もし都合が悪かったらまた出直すことにしよう。


 ガレットの執務室の魔導具を操作してチャイムを鳴らし、自分が訪れたことを口頭で伝ると、すぐに扉の解除音が聞こえたので、どうやら一階には戻らなくてもすみそうだ。室内に入ると、ガレットは執務机で書類仕事をしていた。



「昨日に引き続きお邪魔します」


「今日も来たのか。言っておくが、まだレポートは読み終ってはおらんからな?感想はもう少しだけ待ってくれ。量が多すぎて理解しながら読むのにも時間がかかるからのぅ」


「いえ、今日はアキのレポートを提出しに来ました。俺も読ませてもらいましたが、中々丁寧で解りやすいモノに仕上がっていましたよ。それと、とてもお疲れのご様子なのでこのポーションは差し入れです。スタミナ回復に使ってください」


「誰かさんがとんでもない物を書き上げてくれたおかげで、徹夜で読むはめになったからな。それで、これが嬢ちゃんのレポートかい。確かアイアンからブロンズへの昇級試験の課題だったやつじゃな。どれ、すぐ終わるだろうし、先にそっちを読んでやろう」



 そう言ってガレットは差し入れのポーションを飲みながら、アキナのレポートを読み始めた。この時またポーション絡みでひと悶着あったが、こちらは割愛させていただこう。流石に三人とも同じリアクションを取るとは思わなかった。



 (ただの在庫処分品だったんですけどね・・・・)



 何とか(なだ)めて、ガレットがレポートの採点をしている間に、ソファーの前にあるテーブルを借りて、紙にこれから改造の許可を取るつもりの魔導具の追加ユニットの簡単な設計図を書き写して時間を潰すことにした。やはり、『速記』と『模写』のスキルは優秀だ。設計図が記憶にあるので、あっという間に完成してしまった。


 ナタクは先程、アキナのレポートに不備がないかだけをチェックしただけだったので、そこまでに時間を掛けずに読み終えていたのだが、ガレットはとても丁寧に読み解いてくれているようで、どうやら此方の方が早く作業を終えてしまったようだ。



「ふむ、少々丁寧に書き過ぎて説明が(くど)くなってしまってはいるが、内容自体は申し分ない出来じゃな。嬢ちゃんの人柄がよく現れてるいいレポートじゃないか。採点結果は“合格”じゃ。念書を用意して話を通しておくから、帰りにでも受付でギルドカードの更新をしてもらいなさい」


「ありがとうございます、きっと喜ぶと思います」


「丁度、誰かさんのとんでもレポートを読まされとる最中じゃったからな。良い気分転換になったわい」


「それでは、迷惑ついでにもう一つだけ。ガレットさんに追加で許可を頂きたい案件が出来たので、こちらも目を通してもらってもいいでしょうか?」


「・・・・お前さんは次から次へと。それで、許可とはなんじゃ?」


「はい、温室に設置してある温度調整機(エアコン)の強化ユニットのご紹介ですね。此方がその簡単な設計図になります。こちらを搭載すれば、コスト面での大幅削減と出力の増加が見込めますので、付きましてはその改造の許可を頂きたいのですが、いかがでしょうか?」


「何っ、あれに強化ユニットじゃと!?」


「せっかくいい魔導具なので、そのままにしておくのが勿体無くて。勿論サンプルとして完成品は寄贈(きぞう)させていただきますので、性能を体験してみてください」


「あれはワシが若い頃に手がけた魔導具で、あれ以上の改良案が見込めないと思い泣く泣く研究をうち切ったアイテムなんじゃが。そうか、まだ改良の余地があったのじゃな・・・・」


「あの魔導具はガレットさんの作品だったんですか。たぶんですが、当時は平面での魔力路構築を考えて作製したりしてませんでしたか?


 それだと、確かにあれ以上の改良は見込めないと思うのですが、この設計図のように魔力回路を一旦外に逃がして、このように改良するだけで大幅なエネルギーのコスト削減が見込めますよ。それに干渉も最小限で済みますので、同時に出力向上も見込めます」


「そういう方法があったとは・・・・。確かに、平面に拘りすぎて気づかなかったが、これならまだまだ改良の余地があるということじゃな。しかし、魔力路の立体構築なんぞ良く思いつくな。その発想は、ワシにはなかったわい」


「この方法は様々な魔導具に応用可能な技術なので、色々試してみると研究の幅が広がって楽しいですよ。まぁ、とっておきの一つなのであんまり広めたくなかった技術ではあるんですけど、良かったら使ってみてください。毎回無理を聞いてもらっている、せめてものお詫びみたいなものです」


「・・・・全く、お前と言うヤツは。これは魔導具作製の教本に載せても問題ない程の技術じゃぞ?


 待っててやるから今度レポートに書いて持ってきなさい。お前さんの名前で公表するのが条件じゃ。そうじゃないと、後ろめたくて実験できんではないか、馬鹿者め!」


「では、特に技術使用料を徴収しないことを条件にレポートを提出させていただきますね。使用料のせいで研究できない人がいたら、更なる発見の邪魔になってしまうかもしれませんしね。応用が利く分、幅広い分野で使えますから」


「実にお前さんらしい考えじゃのぅ。それで改造の件じゃが、任せるから好きに弄ってみるといい。ワシもどれくらい変わるか興味があるしな」


「ありがとうございます。それでは、実験室でパーツを作製して組み立てておきますね。たぶん夕方には完成していると思うので、明日にでも一度見に来てください」


「了解じゃ、明日お前さんがいる時に声を掛けるとしよう。しかし、本当にとんでもないことを軽くやり遂げる奴じゃな。いったい、その頭の中にはどんだけの情報が詰まっておるんじゃ?」


「俺なんてまだまだですよ。お師匠はもっとぶっ飛んでいますからね」


「その方が坊主の代わりにこのギルドを訪れなかったことを、心から良かったと思うわい。今でさえ、かなり振り回されておるのに、これ以上じゃと?絶対身が持たなくなるわい!」



 話も終わったので、ガレットに断りを入れて部屋を後にした。エアコンの改造に使う予定の技術だが、空気清浄機の魔導具に使われている技術のほんの一部を情報開示しだだけで、あれほど喜ばれるとは思わなかった。しかし、ガレットが自分の名前で発表しても構わないと思っていたのに、本当に律儀な人だ。


 今世は良い上司に恵まれて幸せだ。では、サービスついでにもう少しだけ追加で技術を記載しておこう。魔導具関連のレポートであれば、ガレットもさぞかし喜ぶことであろう。


 実験室に戻り扉を開けようとしたのだが、昨日の惨事を思い出したのでPTチャットの方でアキナに部屋に入っていいか確認を取った。そうすると、すぐに『大丈夫ですよ』と返信があったので、これで問題なく部屋に入ることができた。



 (なんか、自分の部屋に入るのも一苦労ですね。まぁ、今はしょうがないか)



「先生お帰りなさい。レポートありがとうございました」


「いえいえ。ちゃんと提出してきてその場で採点もしてもらいましたよ。見事『合格』だそうです。おめでとうございます」


「やった、ありがとうございます!!」


「これで、自分の専門研究なんかもできるようになりましたね。次からは自分でテーマを決めてレポートを書くことができるので、是非楽しんでみてください。俺に分かることであれば、ちゃんと教えてあげますので」


「ありがとうございます。そうだなぁ、もう少し自分でも色々考えて見ますね!」


「植物の品種改良とか楽しい・・・・「大丈夫です、たぶんそれだけは選ばないと思いますので!お金的な意味で!!」・・・・そうですか。まぁ、自分にあった分野を探すのも楽しいですから。時間もありますし、色々体験してみるのありですね」


「そうですね。後でどんな事が研究できるのか、色々教えてください」


「それでは今度、参考資料でも作っておきますよ。それとギルドカードですけど、帰りにでも受付に寄ってくれれば、更新できるように手配するってガレットさんが言っていましたよ」


「分かりました、それじゃ帰りに必ず寄りますね。それで、先生はこれから温室での作業になるんですか?」


「その前に改造用のパーツ作りですね。まぁ、作ったことのある物なのでそんなに時間は掛からないとは思うんですけど。また出る時にノックしますんで入って大丈夫だったら教えてください」


「あぅ。一応今はサンプルを作ってるだけなので、そんなに気にしないでもいいですよ?流石に、試着してる時は困りますけど、今日はその予定もしてないので。


 それに商談の時は一緒にいてもらわないといけないので、サンプルを見ただけで怒り出したりはしませんよ」


「そ・・・そうですか?」


「良く考えたら、流石に昨日は言い過ぎてしまいました。今度から私も気をつけますので、先生も普段通りに過ごしてください。それに、ここは先生の実験室ですしね。私にそこまで遠慮しないで大丈夫ですよ」


「分かりました。でも、昨日は本当にすいませんでした」


「私の方こそ、椅子を投げてしまって、すいませんでした」


「・・・なんか、お互い謝ってばっかりですね」


「ふふ、確かにそうですね」


「さて、それでは気を取り直してお互い作業に戻りますか」


「りょうかいです!」



 実は、お互い昨日の事をかなり気にしていたようだ。仲直りもできたので、これでいつものようにアキナと接することができそうで少し安心した。しかし、何時女難の相さんの罠が潜んでいるやも知れないので、慎重に行動することを心がけるのは忘れないようにしていこう。なんとなくだが、不意打ちを喰らった時が一番ダメージが大きい気がするので、なるべく気を張って生活していれば大きい事故だけは回避できるかもしれない。



 それでは、アキも裁縫を頑張っていることですし、俺も午後のお仕事を頑張るとしますか!

今は・・・大丈夫だよな?(; ・`д・´)


扉|(`・ω・´)~♪


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