第25話
パーツ作りといっても既存の魔導具の強化素材を作製するだけなので、そこまで大掛かりな作業でもないためサクっと仕上げていく。まずは追加の基盤となる金属板に魔力路を刻み、魔力の逃げ道を作製する。あの魔導具の出力が想定している値よりも低いのは、隣接している魔力路と干渉を起こしてしまい、伝達力に不具合が発生してるからなので、それを解消してやるだけでもかなりの効率アップが見込めるはずだ。
あの狭い空間であれだけコンパクトに基盤を収めたガレットの技術力には感服するが、全てを平面で解決しようとして無理をした結果、想定よりも能力が上がらなかったんだと思う。この辺は発想の違いで、ナタクは元の世界でヒントを見つけることができたおかげで割とすぐにこの解決法を閃くことができたが、やはり知識や技術力の後退によって自分達で新しい技術を見つけ出さなくてはならないこの世界の研究者達は、中々苦労をしているのだろう。
基盤が完成したので、今度は錬成を利用した魔石の削り出しをおこない、魔導紋を刻む作業へと移っていく。これは腕輪の魔導具にも使用していた技術だが、今回はこの技術の基礎知識も一緒に公開してしまう予定だ。
本来の目的であれば、今作った基盤だけでもかなりの効率強化が見込めるが、それでは元々の性能を発揮させただけに過ぎないので、ここから更に魔導具へ本当の意味での“強化”するための処置を施す。
これが成功すれば、低コストで真冬に温室内を常夏のようにすることができ、逆に真夏でも快適な春先の気温を再現することが見込めるので、大風呂敷を広げたからにはこれくらいは軽くやってのけるべきであろう。ただ、方法は提示すれど要求される技術力は基礎と言ってもかなり高度なため、この加工を再現できる職人が何人いるかは分らないが、決してゼロではないはずなので是非習得を目指して頑張ってほしいものだ。
『形質変化』を巧みに使いながら魔石に必要な情報を刻み込み、これで全てのパーツが完成した。後は元の魔導具の基盤を弄り、これらのパーツを接続すれば完成なのでここでの作業は以上となる。
時計を見ると丁度15時を回ったところだったので、追加の作業が思ったよりも時間がかかってしまっていたようだ。
「先生?お時間ですけど、今は大丈夫ですか?」
「お迎えありがとうございます。丁度今終わったところですよ」
「うわぁ、強化パーツって言っていましたけど、随分と細かい部品に分かれているんですね。私はてっきり、パソコンの外付け機材みたいなのを勝手に想像してましたよ」
「今回のは、どっちらかと言うと組み立て式パソコンの内部パーツ見たいなものですね。既存の回路も多少弄らないといけなかったので、こういった形になりました」
「先生は、よくこういったモノが作れますね」
「最初は俺も理解できませんでしたよ。なのでお師匠に習ったり、独学で色々調べて憶えましたね」
「独学って・・・・。一体どういった勉強をすればこんな技術が身につくのか、私には到底検討もつかないんですけど?」
「参考にしたのは物理学の基礎知識と電気回路系の仕組みが書かれている書籍ですかね。後プログラムなんかも勉強したかな。元々文系だったので、最初は『すぐ挫折するかな?』と思っていたんですが、案外やってみると楽しかったですよ。趣味の力って凄いですね」
「えっ?先生って文系の人なんですか?てっきり理系出身者だとばかり思ってました」
「学生の頃は語学にはまってましてね。色んな言葉が分ると、それだけ多くの文化や考え方を持つ人と話せるので、それが楽しくてのめり込んでいました。他にも友達とバイトでお金を貯めて、大型連休を利用していろんな国へプチ留学みたいなことをして遊んでいましたね」
「なんか、凄い学生さんだったんですね。私の学生の頃は、友達と卒業旅行で国内を旅したことくらいしかありませんでしたよ。あっ、でも社員旅行で一度ヨーロッパに連れてってもらったことがあるので、それが唯一の海外旅行ですね」
「異文化に触れると見聞が広がって楽しいですよ。そんなアキも、今や立派な外国暮らしですけどね」
「そういえばそうですね。と言うより、今は世界すら違いますけど」
「確かに。さてと、それでは種の収穫にいきますか。植え替え作業もありますしね」
「はぁい、りょうかいです!」
先ほど作ったパーツを持って、今朝訪れた温室へと再びやってきた。どうやら植物達は順調に成長しきったようで、すでに収穫できる状態で成長が止まっていた。後は次に使う種を選別して準備をするだけなので、今朝と同様二人で手分けして作業に取り掛かった。
「先生ありましたよ!この子が【変異率100%】個体です」
「了解です。こっちも赤い実をつけた個体がありました。名前も『レッドペッパー』に変わっているので『チカの実』での食用の品種改良は終了ですね。後はある程度収穫したら他の“配合”に鉢をまわせそうです。『トトアの実』も種を回収できたので、こちらも次回から品種改良の作業に移行しましょう」
「ついに唐辛子が完成したんですね。どれどれ・・・って本当だ!向こうの世界の物と同じ色形をしていますね。そして、『トマト』もついに品種改良が開始されるのかぁ。なんか、知ってる作物がどんどん生み出されるのは、ワクワクしますね♪」
「これが、この“品種改良”の醍醐味ですよ。自分の思い描いてた作物ができた瞬間は本当に嬉しいものです」
「それが、先生の言ってた『自分なりの研究テーマ』ってヤツなんですね」
「そういうことです。アキもそう思えるようなモノが早く見つかるといいですね。勿論お手伝いしますので、気になることがあったら何でも聞いてください」
「はぁい。それでは、私はこの子以外の苗を片しちゃいますね」
「お願いします。俺はその間に次の種の“配合”を済ませておきますので」
そうして再度二人で手分けして作業を再開し、自分の方は種の配合だけなのですぐに済んだのだが、アキナが担当してくれていた植え替え作業は流石に植木鉢の数が多いため、途中からナタクが参加しても結構な時間が掛かってしまった。
「ふぅ。やっと終わりましたね。いらない苗はこの木箱に入れればいいんでしたよね?」
「そうですね、お願いします。俺は、残った土をまた鉢植えに戻す作業をしておきますね」
「しかし、これだけ数があるとやっぱり大変ですね」
「確かに、手作業でやる限界を超えてきてしまっていますね」
「先生、なんか便利な道具ってないんですか?」
「植え替えに使う魔導具ですか?確かに、もう少し規模が大きくなった時にでも作ろうかと思っていた物はあるんですが・・・・」
「本当にあるんですね、適当に聞いてみただけだったのに・・・・」
「錬金術のスキルである『抽出』『分解』を利用した魔導具ですね。少々材料にミスリルと金を使うので躊躇していたんですが、手間を考えると先に作ってあってもいいか。分かりました、さっそく明日にでも製作してみます」
「先生が躊躇するって、どういうことですか?」
「その魔導具はこの劣化『携帯型ドレッサー』とほぼ同じくらいの難易度なんですよ。しかも、錬成に失敗すると金属パーツが今の環境だと再抽出できないほど融合してしまうので、全部スクラップになってしまうので、作製を躊躇していたって訳です。ですけど必要が出てきたなら、作ってしまいましょう!」
「この腕輪って、やっぱり難易度高かったんですね。てっきり私は物凄い金額がかかるから躊躇したのかと思っていましたよ」
「魔導具一回分の錬成でだいたい金貨20枚くらいなのであんまりたいしたことはないですね。それに、今のレベルだと俺なら5回に1度は成功できると思うので、まぁなんとかなるでしょう」
「金貨20枚って・・・・。それに成功率2割って結構な博打じゃないですか!」
「この腕輪を作った時はもっとレベルが低かったのにちゃんと成功できたので、今回も上手くやってみせますよ」
「うぅ、あんまり材料費が掛かりそうなら途中で止めてくださいね。そうなったら、私が植え替え作業頑張りますので」
「今はそこまで無理もしませんから、安心してください。それにあの魔導具があると、とても便利なのできっと気に入ると思いますよ」
「ちなみに、その魔導具も売りに出してたんですか?」
「これもあんまり売れない商品でしたね。そもそも“品種改良”を大量におこなう人にしか需要がなかったので、完全に俺専用の魔導具と化してました。ちなみに、価格は金貨160枚で売りに出していましたね」
「そもそも、『銭喰らい』ちゃんをここまで同時稼動させてる人の方が稀ですもんね」
(本当に便利な道具なんですけどね)
話をしながら作業をしていたら、いつの間にか種をセットする準備も終わっていた。ここまでで結構時間を使ってしまったので、今日の品種改良はこの回で終了になりそうだ。もう少し段階が進めば三時間おきに収穫ができるようになるので、もう暫くは一日に二回の収穫が限度であろう。
「後は種を植えて魔石をセットすれば終わりなんですが、今回から『ライネの実』は“3種類”に分けてそれぞれ違った種を合成してあるので、混ざらないように注意してくださいね。それと、魔石の量もこの段階から3個から4個に変わりますので、此方も間違えないようにお願いします」
「いよいよ、異なる進化をしていくのですね」
「そういうことです。ここからの成長は、“配合”を加えるごとに徐々に違った変化をしていくので、観察していて中々楽しいですよ」
「りょうかいです。楽しみにしていますね」
段階に応じて変化する注意点をアキナに教えながら種蒔きを終わらせて、魔石を投入すれば今日の品種改良はこれで終了である。後はまたお互い別作業になるので、アキナとここでいったん別れてそれぞれの仕事場に戻っていく。アキナは実験室に戻りサンプル作りへ、自分はここに残って機械弄りだ。
さて、それでは残りの仕事もぱぱっと終わらせてしまいますか!
そういえば、ここも外国でしたね(´・ω・`)
ですねぇ~(*´﹀`*)




