大団円
今回が最終話です。
これまた定番の祐史と御加賀見の嫌味の応酬をスルー気味に眺めた後、俺は御加賀見とともに学校に向かった。
……嫌な定番だな、おい。
「雅紀? 心配してますの?」
教室へ向かうまでの道のりで、御加賀見が俺の顔を覗き込むようにして尋ねてきた。
「……大丈夫ですわ、もう」
返事を返さないまま視線だけをむけた俺に、御加賀見はそう言って微笑んだ。
相変わらず、光が乱反射してるんじゃねーかと思うくらいの美少女っぷりだった。
教室の扉を開けると、「たつみーん」という声とともに飛びかかってくるそれに、つい足が出た。
蛙が潰れたような「ぐおっ」という呻き声をあげ、そいつは腹を抱えてしゃがみ込んだ。
そして目の端にかすかに涙を浮かべ、俺を見上げた。
「ひっどいよー、たつみん。ただの朝の挨拶じゃないかー」
「それを挨拶とするなら海の向こうに帰れ似非日本人」
「そうですわ。あなたごときが雅紀に抱きつくなんて一億光年早いですわよ。海外へ行かれるなら、ちょうどよろしかったですわ。今わたくしの愚弟が再教育を受けている最中ですから、一緒にいかがです?」
それはもしかしなくても恭弥のことか。
そうすると教官は近衛だな。
…………嫌だなその再教育。
「あー、おっはよ、お姫様。今回はいろいろ迷惑かけてごめんねー。でも普段は僕が迷惑かけられてるからお・あ・い・こ、だね? はっはー」
「ちょっと聞き捨てなりませんわね、いつわたくしがあなたに迷惑をかけたというのですの?」
「あ、自覚なしかー。さっすがお姫様だ。はっはっはー」
「笑ってごまかしてないできちんとおっしゃいませ。それともやはり口から出まかせですのね? 仕方のない方。ほほほほほ」
「いやいやー、言ってもいいけどねー? どんだけあるかなって、ちょっとまとめる時間くれるかなー? あ、リスト化した方がいーい?」
「……いい加減になさらないと後が怖くてよ?」
「ははははは」
「ふふふふふ」
これまたいつもの応酬を呆れつつ眺めていると、ひょこりと萌田が横にきて言った。
「お、おはようございます。た、辰巳君」
「……ああ、はよ」
「あ、あの。兄がご迷惑おかけしたようで、すみませんでした。もう、大丈夫だと、お、思いますので」
「……いや」
申し訳なさそうに言う萌田に軽く首を振った。
萌田に「大丈夫」と言わせる近衛の対処がどんなものか怖いので、あえて聞くことはせんが。
俺は知らない。
なにも知らないったら知らない。
うん、これで行こう。
思わず遠い目になる俺に、萌田は御加賀見と幸広を見ながら独り言のように呟いた。
「いつもどおり、ですね」
「……ああ」
頷いた俺に、萌田は顔をあげ、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「よかったです。わ、わたし、辰巳君がいて、御加賀見さんがいて、幸広君がいる、この毎日がと、とても大切なんです。大事なんです。い、いつもどおりに戻って、本当に嬉しい。本当に、……よかった」
いつも通りの日々。
少しずつ変わってはいくけれど、それでも大きな変化がない愛すべき日常。
ああ、確かに。
それは素晴らしい、ものだ。
だが。
「雅紀! ここではっきり断言してくださいませ。わたくしとこの勘違い男のどちらの方が大切ですの!? もちろんわたくしですわよね! だって誰よりも雅紀のことを愛しているのはわたくしですもの」
「はっはー、嫌だなお姫様。たつみんは友情に厚い男なんだよ? しつこい隣人のストーカー紛いの求愛者より、親友の僕を選ぶに決まってるじゃないか。僕だって、たつみんこと、だーい好きだしね? ねー、たつみん?」
「えっと、あの、わ、わたしも、た、辰巳君の大切な人の中に入ってます、か。あ、もちろん一番なんておこがましいことは、いいいいい言いませんけどっ。で、でも、わたしも辰巳く、君のこと、だ、大事にお、思ってままままますから!」
じりじりと詰め寄ってくるこいつらは、なんでこんな俺のことが好きなのか。
……………………ああ、本当に面倒くせえ。
長い間どうもありがとうございました。




