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ぼくのかんがえたさいきょうのけんぽう。  作者: 村岸健太
ぼくのかんがえた条文
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幼馴染ボーイズラブ


日本国憲法


第二十四条


婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。


2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。




 嵯峨(さが)律有人(りゅうと)の前にはいつでも佐々原(ささはら)生央(いお)がいたし、佐々原生央の前にはいつだって嵯峨律有人がいたのである。

 それは雪ノ木台第二小学校に入学したときから、雪ノ木中学校に上がっても、常に律有人のほうが生央より少しだけ背が高く、また出席番号順に机を並べるとき「鷺宮」とか「桜井」とか「酒匂」とか間に挟まる苗字を持つ同級生が一人としていたことがないためである。……桜井、桜木、桜田ぐらいならいてもよかったと思うのだが、事実として二人の生活圏にそういう苗字の人間はおらず、結果としてこの春から二人揃って入学した市立浅川高校でまとめて配された一年B組においてもそれは同様。

 席替えをすれば離れることになるけれど、それでもだいたいはまあ、前後二人に並ぶ二人、背の順になれば前後が入れ替わるが、家も近いものだから、まあ「幼馴染」という認識でよかろうと思っていた。

 いつもと同じ日々、今日も目の前に生央がいる。自分よりちょっと背が低くて、はっきり細くて、弱くて、危なっかしい幼馴染。

「……いま」

 とっくに花びらの全部散った川沿いの桜は、花の代わりに芽吹かせた青い葉を揺らしている。春の前半が慌ただしいままに過ぎて行き、瞬きするうちに長い夏がやって来る。そんな時間の中で歩みを止めて、聞き間違いかもしれない言葉を、聞き間違いのまま行き過ぎることを選ばなかったのはなぜだろう?

「いま、なんて言ったのお前、……えっ……?」

 最後の「えっ」は、耳の奥で生央の声の残響を確かに捉えることが出来たからではなかったか。声変わりが中学のときいちばん遅かった生央、だからたぶん精通も遅かったはずの生央、エロい話をしようと思っても「生央がいるから」となんとなく遠慮するのが仲間内で暗黙の了解になっていた生央、ほとんどの女子から「可愛い」と言われて育ったはずの生央。

 けれど最近やっと声変わりをして、でも無関係なところで目を悪くして眼鏡を掛けるようになった。「知的に見えたらいいな」と言う彼を見て、なんかまたいじめられそうだな、なんてことを律有人は思ったのである。

 その生央が、言ったのは、……好き、という言葉。

 律有人が、好き。

 という言葉。

 この世界を、人生を、主人公として生きているつもりだ。もちろん高校入学後最初の小テストで自分というものの位置付けをまざまざと見せつけられたし、中堅メーカーの勤めの父と、その稼ぎだけでは貧乏に追い付かれてしまうからとパートに出ることを検討する母のもとに生まれ、築二十五年のマンション暮らしをしているアニオタの自分が、ちょっといい高校に入ったからと言って中学のときは自分に見向きもしなかった女子たちから憧れの目を向けられるようになったり、試験の点数が悪かったら素直じゃないけどよく見ると可愛い同級生の女子(なお、そのことに気付いているのは自分だけであるとする)から勉強を教えてもらったり、もちろんある日突然異世界に飛んでハーレムを作ったり、……出来るはずがないというぐらいの理解はある。

 フィクションと現実をごっちゃにしないのが、オタクとして最低限の嗜みである。

 しかしながら、夢を見るのは自由であって、やがて来る夏までに仲良くなった女子に祭に誘われて、浴衣姿の彼女とかき氷を食べながら花火を見上げる土手で、打ち上げ花火の音のせいで、彼女の決定的な言葉を聴き逃すような未来が、自分の身に起こらないと言い切ることは決して出来ない。

 けれどいま、律有人は生央の言葉をしっかり聴き取ってしまった。

 そうであるからには、この現実と向き合わなければいけない。

 この、信じがたい現実と!

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