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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第二章 霧の海

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第48話 魔の力

ギルドに報告しに行っていたバルジスが戻ってきた。

バルジスは討伐した魔物の報告だけでなく、俺らの話もしたようで、次の報告の時はバルジスと一緒にギルドのお偉いさんも一緒に来るという。

闇の中の話を聞きたいらしい。

次の報告は二週間後だ。

別に聞かれて困ることなんてないけど、ルシアが聖女だってことはやっぱ言わない方がいいよなぁとは思う。


そんなことを考えながら、一日、また一日と時は過ぎていく。

水汲みダッシュ、石の入った袋を担いでのランニング、薪割りとバルジスの斧を使っての素振り。

毎日毎日同じことを繰り返す。

婆さんのスタミナをつければ最強になれるという言葉だけを信じて、ただひたすらに体を動かし続ける。

ウォールディンたちが海に出て行っても、今の俺はもう無理に連れて行ってくれとは言わない。

今はとにかくスタミナをつける時期だと割り切った。


俺が毎日水汲みをするから、今、島の水は潤沢だ。

皆一日の終わりに水浴びをするし、こまめに洗濯もしている。

俺も日が暮れ始めると訓練を辞めて、水浴びをする。

水浴びの時は嫌でも、腕や腹にある黒い斑点が目に入る。

よくわからないこの黒い斑点は、日に日に大きくなっている。多分。

大きさを測ったわけじゃない。

だから、気のせいということもある。

けど、なんかこの黒いのは嫌な感じがする。

あんまり大きくしない方がいいような……そんな感じ。

服で隠れている場所だから、みんなに見られないのはよかった。

ルシアとか心配しそうだし。


――あのさ……体どうもない?


ルシアの言葉を思い出した。

この黒い斑点が見えたんだろうか。いや、暑くても脱いだりしてないから見てなんかいないはず。

心配そうな顔してたな。なんで?

黒い斑点の事なんて知らないんだから、心配なんかじゃなくて「レネって力持ちだったんだね!」って言ってくれてもいいはずなのに。

腑に落ちない気持ちのまま部屋に戻る。

部屋ではオルビーが、何かを作っていた。


「レネおかえ……うわわっ! なんで?」

「どうした?」

「ここ霧の海は瘴気が多いから魔物が多いって言われてるんす。だから、本当にそうなのか空気中の瘴気を測る装置を作りたかったんすけど、ダメだったみたいっす」


最新の機械らしく、オルビーはすごい量の設計図と装置を交互に見ながら、「間違ってないと思うんすけどね」とぶつぶつ言う。

じゃあ成功しているんじゃないかと思うけれど、そう言ったらオルビーは首を横に振った。


「これさっきまで、これくらいだったんす。それが今、急にここまでになって」


オルビーが言うには、装置を試運転していると急激に瘴気が上がったらしい。

魔物が近くにいるわけでも、周囲に何か変化があったわけでもないのに、急上昇するなんて変だと。

オルビーは「思いもよらない理由で急上昇した可能性もあるけど、まだ試作品だからきっと装置に問題があるんす」と笑っていた。


その説明を聞いて、腹がスッと冷たくなる。

その原因、もしかして俺なんじゃねーの?

無意識に手を腹にあてた。


「レネ? おなか痛いっすか?」

「え? あ、いや。そう、ちょっと食い過ぎた」

「レネは訓練で消費しているから、食べる量もすごいっすからね」


その夜、オルビーが丸くなって寝ている横で、俺は仮説を立ててみた。

俺は闇から出て、突然強くなった。

それは無意識に力を使っている状態だからだと思う。

俺は、足の力。少し速く走れるだけのはず。

けれど、今はきっと足の力は以前より強化され、腕の力もある。これからもっと増えるかも、いや気が付いていないだけか。

そういえば、オルビーが作ってくれた文字表はすぐに覚えた。

もしかしたらメモリーの力なのかもしれない。

そして、その力の根源はきっとオルビーたちが瘴気と呼んでいるもので、あの闇だ。


それしか考えられなかった。

闇から出てくる前、俺はルシアに向かってくる闇の前に出て、闇に掴まった。

体のほとんどが持っていかれる中、今こうして闇の外に出られるのは、ひとえにルシアが引っ張り出してくれたからだ。

ルシアがいなかったらあのまま闇にのまれていた。

きっとあの経験が、この力の原因で。

だとすれば、俺は俺の中に闇を取り込んでいる。


あーどうすっかなー。

寝返りを打っては考え、そんなこと考えずに眠ろうとしては目が覚める。

考えても考えても、辿り着く結論は一緒だ。

多分、この仮説が正しいなら俺の時間はそんなに多くない。

もう何度目になるかわからない寝返りを打ち、窓の外を見た。

明るくなってきた。もうすぐ朝か。


考えたところで答えは出ないまま、十日が経った。

闇の力のおかげか、婆さんの訓練メニューが良いからかスピード、パワー、スタミナのどれもがめきめき上がっている。

今ウォールディンたちは魔物を狩りに行っていて、今はいない。

次に帰ってきたときには、ギルドのお偉いさんも一緒だ。多分、あと数日のことだろう。

バルジスの斧で素振りをしながらギルドへの報告について考えていると、ルシアのことだけじゃなくて俺のことも話せねぇことに気がついた。

俺も今や足だけじゃなく、腕の力まであって普通じゃないからだ。

幸いこっちに来てからすぐにゼルシェ婆さんの訓練を始めて、足の力のことはまだ誰にも話してない。

ミュンダーでは誰もが何かしらの力を持っていることも。

これは別に隠していたわけじゃないけど、今となってはもう話せないな。

あれ? 話せることほとんどないな。


「きゃー!」


島に叫び声が響き渡る。

女の子の声、ルシアだ!


「マルグレホ! マルグレホだー!」


次いで、誰かの魔物出現を知らせる声が聞こえる。

なんだ、この島は魔物でないんじゃなかったのかよ!

ギルドからの聞き取りのことなんて一瞬でどこかに飛んで行って、バルジスの斧を持ったまま走った。

俺は、足の力。

しかも今は闇の力ですげぇー速く走ることができる。


あっという間に辿り着いた。思った通り一番乗りだ。

大きな鋏を持った、大きな赤い魔物。

魔物の先には足を引きちぎられ、足から血を流しているおっさんと、そのおっさんを必死に引きずって逃げようとしているルシアがいた。


闇から出てきて初めて見た魔物は、あまりの大きさに呆然とした。

俺とあんな怪物みたいなやつが戦う想像もできなかった。

けれど、今は自然と体が動いた。

魔物に向かってまっすぐ走って、跳躍。

それから、そのまま手に持っていた斧を振りかぶる。

俺が知っている戦い方は、これだけ。

ただこの振り上げた斧を、振り下ろす。

それだけだ!


斧が甲羅に食い込み、メキミシ、と音を立てて入っていく。

斧はまだまだ止まらない。

甲羅を砕き、そのまま地面へ。

一発でマルグレホは真っ二つになった。


「おぉぉぉぉぉ! レネ、すげぇぞぉぉ!」


続々と集まってきたおっちゃんたちが声を上げる。

俺の訓練の時に使う道具よりは一回り大きな道具を持って、ゼルシェ婆さんも来ていた。

「ほら、とりあえず叩き込めば勝てるって言っただろ?」とでも言いたげな顔だ。

振り向いて、ルシアの方を向く。

ルシアは信じられないものを見るように、目を見開いていた。


「でもなんでこの島に魔物なんか」


誰かがつぶやいた。

ほんとにな。なんでだろーな。


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