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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第一章 闇の国

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第10話 天地創造

翌日。

念のためアスラに今日のお茶は要らないと言ってから神殿を抜け出し、スープ屋に来た。


「ねぇおばさん。ジェーダっていう詩人知っている?」

「驚いた。いつもバルケル様、バルケル様って言っているあんたが、ジェーダかい? ジェーダとバルケルの語る歌は全然違うじゃないか」


昨日のレネとの話をかいつまんで説明すると、おばさんは私とレネが同時に正反対の感想を述べたところで、大笑いして言った。

もちろんチリーも声こそ出てないが、また大笑いしているのがわかる。


「なるほどねぇ。もしかしてその男の人ってレネって名前じゃなかったかい?」

「な、な、なんでおばさんわかったの?」

「そりゃあレネとジェーダは仲がいいし、レネはうちのお得意さんだからね」


お得意さん? どういうことだろうかと思いながら、おばさんと話を続ける。

いつもならスープを一杯飲み終わるとすぐにバルケル様の所へ行くが、今日は「ここで待っていな」というおばさんの言葉に従って、スープ屋の屋台の後ろに座って待たせてもらう。

しばらくすると本当にレネがやってきた。


「レネ、あんた昨日女の子にジェーダを勧めたんだって?」

「あぁ、勇者の歌聞いたことがないっていうから勧めてみたんだ。でもなんで知ってんの?」


おばさんが親指で屋台裏に座っている私を指し示す。

レネがおばさんの陰から顔を出し、「あれ? セイじゃん」と驚いた。

おばさんも「あんた、セイっていうのかい」なんて言っている。


「レネ、この子ジェーダが歌っている場所知らないんだよ。今日この後行くんだろ? 連れて行ってやってくれないかい?」


おばさんがレネに見えないよう私にウィンクして言った。

確かに! おばさんありがとう。レネはどこで歌うかなんて言っていなかったし、場所を言われたとして、私が分かるのはこの神殿前広場と時計塔広場位だ。


「いっけね。場所言ってなかった。いいぜ。配達しながらになるけど一緒に行こう!」


配達って何だろうと思っていると、レネが背負っていた籠を下ろし、中から鍋を出してきた。

その鍋とお金をおばさんに手渡せば、おばさんは中にスープをたっぷりいれる。

レネはおばさんの所で買ったスープを、レネが配達を依頼されているパンと一緒に売るらしい。


「レネ! セイのこと頼んだよ!」とおばさんが言うと、「おーまかせろ」と右手に持つランタンを掲げながらレネが返す。

私が神殿から抜け出し始めたのは最近なので考えてみたら当たり前だが、レネの方がおばさんと親しそうな様子を見ていいなと思う。

私が神殿の外で安心して話せるのは、おばさんしかいないのに。

なんだかおばさんを取られたような気持ちだ。


「セイ!」


出かけにおばさんが声をかけてきた。


「いってらっしゃい。あと、私はミト。今度からおばさんじゃなくてミトさんってお呼び!」


胸に温かいものが広がっていく。

名前を知っただけなのに、何か嬉しい。


「はいっ! ミトさん、いってきます!」


レネについて歩く。

時計塔広場を通り過ぎ、そこから右へ左へといくつかの曲がり角を曲がる。

辺りはすっかり住宅街になったようだ。

神殿前広場や時計塔広場と違い、ここら辺は行き交う人も少なく、遠くにぽつりとランタンの灯りが揺れるのを見て、人がいるのだとわかるくらいだ。

レネは交差点に差し掛かる度に壁についているヒカリゴケを注視する。

よく見ると、ヒカリゴケを削って通りの名前が書かれている。


「あぁ、あった。この通りだ。1、2、3、4。ここだ」


通りの名前を確認し、交差点から四軒目の家でレネが止まった。

そこでも家の前にあるヒカリゴケを削って書かれた表札を見て、最後にドアを叩いた。


「レネでーす! パンのお届けに参りました」

「レネ、いつもありがとう。あら? 今日はお友達も一緒?」


中から上品そうな奥様が出てきて、レネからパンを受け取る。

お友達と呼ばれたので、どう答えたらいいのかわからなくて、ぺこりと頭を下げた。「俺様もいるぞ!」と言いたげに飛び上がったチリーをさっと捕まえる。

へらりと笑えば奥様もほほ笑んだ。


「今日は、根菜たっぷりスープだよ。パンと一緒にどう?」


奥様はレネから二杯分のスープを鍋に移してもらい、パンとスープのお金を払った。レネはそのお金のいくつかを袋に、残りを無造作にポケットに放り込んで奥様とは別れる。

それからまた少し歩いて次の家、また次の家と回って、レネはパンを配達し、希望者にはスープも売る。

スープはあっという間に空っぽになった。最後に行ったのはパン屋。


「セイ、売上渡してくるからここでちょっと待っていて」


そう言って店の奥へ入っていったレネは袋のお金を渡し、そのうちいくつかをもらっているようだった。

お金を稼いだんだ。レネ……私と同じくらいの年の子が。なんだかすごい大人みたい。


「これで配達は終わり! んじゃ、行くか」


レネについて歩いていく。レネの足取りは軽やかだ。

配達の時と違い、通りの名前すら確認しない。行き慣れた道という感じがする。


「ミトさんが言っていたんだけど、レネは詩人のジェーダと仲がいいの?」

「あぁ、あいつと俺は一緒に育ったんだ。あいつの家の爺さん、俺は長老って呼んでたんだけど、メモリーでさ、長老は昔、山ほど本を読まされたらしくって。その覚えた本の内容を俺らにずっと繰り返し、話してたんだ。あ、本って知っている?」

「本って、神殿の長が持っている紙の束でしょう? 山ほどってどういうこと? だいたい、メモリーなら、神殿で働いているはずじゃないの?」


なんてことのないように話すレネの話に全くついていけない。

疑問が次から次へと湧いてくる。

例えば、レネが言ったメモリーとは記憶に力がある人のことだ。

人にはそれぞれ力がある。

その程度は人によって大小さまざまだが、大抵の人はちょっと早く走れるとか、ちょっと力持ちとか、体の機能に力が宿る。

けれど時には頭や目、耳に力が宿る。メモリーは頭だ。

一度聞いたことを決して忘れぬ力。

そういう希少な力や力持ちや早足でも程度が大きい人は民の為に働くことが望まれ、神殿扱いとなる。私もそう。

闇を晴らす力なんていう今となっては本当か嘘なのかわからないようなとても希少な力があるため、神殿に住んでいるのだ。

だから、メモリーの力を持つ人なんて市井にはいないと思っていた。


それに本だって……。

神殿の長が式典の時にぺらりぺらりとページをめくって少し昔の話をするだけのものだ。山ほどあるなんて知らなかった。

神殿より市井の人たちの方が本を読んでいるのだろうか。


「あ、長老の力のことは内緒な。まぁ、もう長老も亡くなっているからいいだろ」と呑気にレネは言う。

市井には、長老みたいに力を隠して生きていた人がたくさんいたんだろうか。

だとしたら、私だって逃げていいよね……。


「そうそう、本はそれ。神殿の長が持っているやつ。今はもう神殿にある何冊かくらいしか残ってねーだろうな」

「昔はいっぱいあったってこと?」


今日はレネの配達にも付き合って、あっちこっちへ歩き回ったので、もう足が棒のようだ。

少しずつ遅れていた歩調を速めて、置いて行かれないようレネの隣に並んだ。


「そ! セイはさ、神殿の式典で天地創造の話、聞いたことない?」


話すのもしんどくなってきたので、あるとだけ答えた。

ジジ様の方針で私は式典に出たことがないけれど、ジジ様が話す天地創造はアスラと隠れて聞いていたから。

確か、こんな話だ。


――まず、天と地があった。天は風に吹かれるままにわれらの頭上を走り続け、朝には光を連れて、夕べになると光を連れ去った。

東からやってくる曙色の光は、やがて朝露を煌めかせ、照り付ける光で海をまぶしくさせた。

西へと沈む夕色の光は、天や地にいる羊たちを赤や、黄色、紫色へと染め上げ、闇を連れてきた。

人々は光と共に起きだし、闇夜に光る星々を数えて眠った。


心の中でジジ様の読む天地創造を反芻する。

式典が終わるとジジ様は隠れて聞いていた私に「聞いていましたか」と苦笑した。

あの頃の私は、無邪気に「私が早く闇を晴らすから、そしたら一緒にまぶしい海を見ようね」なんて約束していたけれど、今ならわかるジジ様が苦笑した理由が。

多分ジジ様は私にこの天地創造は聞かせたくなかったんだろう。

だって、私がその約束を果たすことはできないんだから。


「あれを聞いたらわかると思うけどさ、最初世界はこんな闇の中じゃなかったんだよ。ある日突然闇に包まれたんだ。そうするとどうなると思う?」


レネの持つランタンの光だけを見つめて、過去のことを思い出しつつ、とにかく足を前に進めていたら、突然レネが立ち止まり、くるりとこちらを向いた。

レネの瞳の中で私のランタンの炎がゆらゆら揺れている。

どうなるって……どうなるの? わからない。


「暗いのさ。真っ暗。最初は家々に蓄えてあった薪や蝋燭を使って明かりを灯した。けれど、いつまで経っても闇だ。あっという間に使い果たした。今の俺らはもう闇に慣れっこで、闇の中で羊を飼い、漁をし、木々を切り、暮らしているが、突然真っ暗になったもんだから、その頃の人たちは何にもできなかったんだ。仕事も日常生活も」


レネの言葉が途切れると、ざざーん、ざざざざざざぱーんと今まで聞いたことのない音が聞こえてくる。

頭の片隅でこの音は何だろうと思いつつ、レネの言葉がやけに大きく響いた。


「つまり、蝋燭が無くなり、薪が無くなると、みんな手近なものを燃やしたってわけ。まぁ、あとはわかるだろ。闇に覆われ寒くなったミュンダーで服を焼くなんてできないが、本は無くても死なないからな」


レネがきょろきょろと辺りを見回しながら、説明してくれる。

誰かを探しているのだろうか……。

軽い口取りで話すところを見ると、レネにとってミュンダーが闇に包まれた時の話は知っていて当然の知識なのだろう。でも私は、初めて知った。

その時少し遠くでかがり火が焚かれた。

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