描いて消えた未来
昼だというとあわただしく思う人もいるだろう。画家という職であり、コンクールに出すことが少ないためあわてて書いたことはなかった。今回の個展会場はいやなうわさが漂っているところである。源太郎は管理人に挨拶するため、管理人室のドアをどこか軽快にたたいた。
「どうぞ。」
声は渋いのだ。政治家が金を隠すために建てられたものであるのは近所じゃ知られている。だからか、有名な画家は来たがらないというのだ。ドアを開けるとふけて見える中年男性がいた。
「今回、個展をさしていただきます。嘉門といいます。普段は八木源太郎といいます。」
「君を今回選んだのはね。弟さんがこちらに来たから何かの縁だと思い込んでしまってね。君は断らないから。」
圭太が事件を調べにきたのかもしれない。阿部登と村沢巧の事件はどこかでつながっていると思ったからであろう。2人の画家が死んだのは嫉妬とかあるだろうと思っている。
「千尋さんが昔、来たことがあってね。ここに息子の絵が飾られる日が来るのを楽しみにしているいい残したのを思い出してね。千尋さんの無念を感じるよ。」
管轄外でも歩いていたのを聞いていたから本当なのだろうと思った。幸助は今、取調べを受けいているようである。否認をするつもりはないらしくすべて答えているのだ。政治家もその流れてでつかまっている。変な協定でも勝手に結んでいたんであろう。怒鳴り散らしたという。
「絵を描くしか能がなかったんです。だから、人を救えるような絵なんてかけないんですよ。」
皮肉めいたことを口が勝手にしゃべっていく。圭太は夢をあきらめて刑事になっていることも知っているから。
「そんなことないと思うよ。総理大臣夫人がかげに隠れて金をばら撒いて罪に問われないのを見ているのと違うのだから。君の絵にはメッセージがあると思っている。見ている人の一部にしかわからないことと見た人すべてが伝わることが描かれている。だからやっているんだろ。本質を見つけ出してほしくて。」
「わかることもあるのは知ってはいるんですよ。不安に駆られることもあるんです。けど、テレビで取り上げられる卑怯者を見るといらだってしょうがないんです。吐き出し口になっているんだろうとも思ってます。」
彼の目は輝いて見える。廊下での会話がここまで聞こえてきている。業界での悪口もあるだろう。そして身近な話だって。ニュースの話は政治家の不正とかに限られるだろう。ふがいないとか思ってくれる政治家など出てくることはないだろうから。時代は変わっても政治家は変わることなどないだろう。自分たちの都合のいいようにしている限り。罪悪感のない犯罪に手を汚しているのだと思ってしまう。権力に飲まれて見つけることのできない現実から逃げているのだから。ばら撒くのはもう見飽きた。うそで塗り固められたものを壊す日がくればいいのに。




