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第97話:帯刀からの誘い

 


 ☆


 自室に戻った凪は、そのままベッドに横になった。



(なんだかモヤモヤして気持ち悪い)



 生徒会室での乱闘騒ぎから凪はずっと胸に何かが支えたような感じがしていた。



(考えていても解らないし、帯刀先輩にメールしてみようかな)



 凪は胸ポケットから携帯電話を取り出すと、帯刀にメールを送った。

 すると、すぐに帯刀から電話がかかってきた。

 凪は恐る恐る通話ボタンを押した。



「樹神か?」



 凪の携帯電話に掛けたのだから当然だろうと感じたが、いつもの声音に凪は胸を撫で下ろした。

 だが、帯刀は一方的に話し始めた。



「明後日の朝7時に校門の前に来い。暖かい服装でな」


「え!?し、7時!?」



 凪は思いきり動揺してそう言ったのだが、帯刀はそれを無視して通話を切った。



「7時って……」



 凪は呆然と携帯電話を眺めながらそう呟いた。



 ☆


 翌朝、凪は言われた通りに暖かい服装で校門へ向かった。

 帯刀は既に来ていて、凪を見付けるなり彼女の手を取った。

 戸惑いながらも凪は黙って従ったが、新幹線に乗ってからは流石に我慢出来ずに口を開いた。



「あ、あの!いったい何処へ行くんですか?」



 だが、帯刀は「秘密だ」としか答えず、教えてくれる様子はない。



「到着したら起こすからそれまで寝ていろ」



 どうやら今は話をする気はないらしい。

 仕方がないので、凪は黙って車窓から見える景色を眺めていた。

 そして、いつしか凪は本当に眠っていたが、帯刀に起こされて新幹線を降りると今度はタクシーに乗せられた。

 タクシーは郊外から、カーブが続く山道に入る。

 除雪車が雪を道路脇に避けたのだろう。

 あたりの景色は雪の壁に覆われていて場所が判らない。

 時折車とすれ違うが前を走る車はなく、バックミラーにも車の影はない。

 そんな人がほとんど利用しない白い道を走る事20分、丸太小屋風の店の前で車が止まった。



「あの、ここはいったい……?」


「喫茶店だ」



 それは理解している。

 目の前の真新しい丸太小屋からは香ばしいコーヒーの香りが漂っているし、丸太を二つに割って作られた看板には、喫茶『天使の夢』と書いてあるからだ。

 凪は何故こんな遠くまでと言いたかったのだが、帯刀はそれに構わずに店の中へと入ってしまった。

 凪は戸惑いを隠せないままそっと扉を開けると、店の雰囲気の良さに目を輝かせた。

 ノスタルジックなまるでランタンのようなランプシェードから放たれる柔らかな灯り。

 室内を暖める薪暖炉。

 手作り風のマガジンラックに様々な収納棚。

 然り気無く置かれたアンティーク小物。

 見るもの全てがレトロな雰囲気を放ち、そこにいるだけで癒される。



「……気に入ったか?」



 そう聞かれて凪は何度も頷きながら暖炉に近づき、パチパチと木の水分を弾く炎をウットリと眺めている。



「気に入ってもらえて何よりです」



 心に染み渡るような優しい男の声がして、凪は驚いて振り向いた。



「いらっしゃいませ。天使の夢へようこそ」



 癒し系の微笑みを真っ正面から見てしまった凪は、マスターに心を奪われた。

 髭がワイルドさを醸し出しているが、それがまた男らしい色気を放っている。

 その色気に、顔を真っ赤にさせながらウットリと眺めていた。



「え?恭ちゃん。彼女、俺に見惚れてるよ……?」



 少し驚いたようにそう言われ、帯刀は無言のまま強引に凪の手を引き、椅子に座らせた。



「帯刀先輩……」


「……なんだ?」


「マスターさん素敵です……」



 夢見心地でそう呟く凪に溜息を洩らし、帯刀はマスターを恨めしそうに睨んだ。



「……健一さん。無駄に色気を振り撒かないでください」



 するとマスターは面白そうに軽く目を見開いた。



「色々ビックリだ」


「何がですか?」


「恭ちゃんが彼女を連れて来ただけでもビックリなのに、恭ちゃんと一緒にいて俺をウットリ見る子がいるなんてね」



 その言葉を聞いて、凪は我に返って顔を赤くして否定した。



「か、かの、彼女じゃありません!」



「え?違うのかい?」




 マスターは帯刀に答えを求めると、彼は不貞腐れたように頷いた。




「いくら……だからって彼女じゃないのに此処に……?」



 呟くように言っていたせいで初めの方が聞き取れなかったが、マスターの表情が何かを懐かしむようにそれでいて哀しげに見えた。

 凪は口を開いてはいけないような気がして、慌て気味に自分の口を塞いだ。




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