第88話:メイクの時間
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保健室で医者から鎮痛剤を注射され生徒会室に戻ると、帯刀がメイク道具を広げて待っていた。
凪は資料室で水着に着替えると、帯刀と越智が険しい表情で凪を見つめた。
「ボロボロじゃないか!?」
肋骨を骨折するぐらいだからある程度覚悟はしていたが、腹部は赤黒い痣が広範囲に広がり手首にはロープの痕と擦過傷。太股の外側にも擦過傷があり、なんとも痛々しい。
「背中はそうでもないな。ビキニは止めてワンピースにしよう」
帯刀は返却用の段ボールからボツにした水着を広げて、ブツブツと呟きながら、やがて一枚の水着を取り出した。
腹部辺りでクロスしているクロスワンピビキニに見えるが、クロス部分以外のバスト下からヒップ上まではシースルーの肌色の布がついているので、腹部は完全に被われている。
「だまし絵みたいで気に食わないが、舞台の上でならウエストが露出してるように見える筈だ。だが、それでも隠しきれない箇所はメイクでカバーする。
樹神、ここに座れ」
帯刀は凪と向き合うと、複数のコンシーラーを使って痣消し作業に取りかかった。
痛みの無いように気を付けてやってはいたが、凪としてはそれがくすぐったいのか、身体をびくつかせてはその動きで起きた痛みに顔をしかめている。
「よし、取り敢えず少しは隠せたな。着替えてこい」
先程の水着を渡され、凪は再び資料室で着替えてきた。
「着てみると、案外悪くないな」
「悪くないっていうか、結構エロくないか!?」
それは着た時に凪自身も感じていたので顔を赤らめた。
「残りの痣隠しと、顔を弄るから早く来い」
帯刀は恥じらう凪を無視して、コンシーラーを再び駆使する。
そして身体中にラメのパウダーをつけると、今度は顔に取りかかった。
相変わらず見事な筆遣いで様々な色を落としていく。
そして、凪らしい雰囲気でありながら蠱惑的な女性が出来上がった。
「蠱惑的。樹神にぴったりだろう?」
満足気にそう言う帯刀に、越智は難色を示した声を上げた。
「身体のラメ、キツくないか?
ライトの下だとかなりギラギラと光りそうだが……」
「いや、これでいい」
そう言うと、帯刀は一枚の白い布を出した。
細かいレースは近くで見ると肌が見えるが、舞台に立てば観客との距離があるので、シルエットが見える程度の透け方だ。
「これで全身を被うようにして登場しろ」
「……布で隠したら水着審査にならないんじゃ」
不安そうな凪の意見に、帯刀は問題ないと首を振った。
「水着は着ているから問題ない。で、舞台上でだが……」
帯刀は越智に聞こえないように耳打ちした。
それを聞いた凪が耳まで顔を赤らめたので、越智が気になって口を開いた。
「て、帯刀。いったい凪に何言ったんだよ?」
「フッ。それは本番までのお楽しみだ」
「……うっ。そんな事を考えるなんて、帯刀先輩って実はエロい、んですか?」
凪が恥ずかしそうに抗議すると、帯刀は面白そうに笑った。
「これでも健全な高校生なもんでね。普通に女の身体に興味ぐらいある。
なんならそれについて特別に手取り足取り教えようか?」
「けっ、結構です!!!!」
凪は思い切り拒否すると、布を手にして身体を隠した。




