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第75話:鈍い女と悟った男

 


 ☆


 翌日、帯刀は凪の病室に訪れて昨夜話し合った事を伝えた。



「……ミスコンですか」



 難しそうに眉を寄せて呟く。やはり凪は自信がないらしい。



「そうだ。美しさと知性を競ってもらう。ん?自信ないのか?」


「正直なところ、知性はともかく美しさに自信が持てません」



 お世辞にも自分は美人とはいえない。悪いわけでもないが、標準的な顔だ。それを自覚しているだけに戸惑いを隠せない。

 そんな様子の凪に帯刀は派手に溜息を吐いた。



「確かに凪は美人とはいえないな。

 だがな、内から滲み出る人格、笑顔、そして自信が人の美しさを作り上げるもんだ」



 いくら造りが良くても性格が悪ければ醜い。笑顔が無ければ輝きは出ない。自信がなければ魅力的にはならない。

 帯刀の持論ではあるが、間違いではないはずだ。



「……ですが、確かに優勝すれば皆さんに認めて貰えますね。

 解りました。あたしに出来る最大限で挑みます。宜しくお願いします」



 そう答えたものの、凪はまだ自信がないようだ。



「俺が精魂込めて凪らしい魅力を引き出すメイクをしてやる」


「あたしらしい、ですか?」


「そうだ。いつもの凪らしさが出る飛びきりのな。お前は充分美しい。それを自覚させてやる」



 帯刀のセリフが終わらないうちに、ドアが激しく揺れた。

 どうやら廊下に誰かいるらしい。



「どうぞ?」



 凪がそう呼び掛けたが、ドアはいつまで経っても開かない。

 凪の代わりに帯刀がドアを開けると、そこには顔を赤くさせた毛利がいた。



「あ、いや、明日退院すると、さ、早苗から聞いたので、見舞いに来たのだが……

 すまん。まさか取り込み中とは思わなくてだな」


「取り込み中?いえ、特に何も取り込んでないですよ?」



 キョトンとそう答える凪に、毛利は驚きのあまり口をあんぐりと開いた。



(取り込んでないって、今の帯刀の口調は愛しくて仕方ないと訴えてるかのようだったぞ!?)



 思わず帯刀に目を向けると、彼も頷きながら苦笑した。



(明らかに判るのに、気付かないのか!?)



 そうだとしたらかなり鈍い。

 帯刀はかなり無愛想だから、これ程普段と違う表情を見せれば嫌でも普通は気付くはずだ。

 それなのに普段通りの凪。そして、何かを悟っている帯刀。

 毛利は溜息を吐きながらおよそ彼らしくない言葉を紡いだ。



「……樹神。実はお前はドSだったんだな」


「え!?き、急にどうしたんですか!?」



 毛利らしくないセリフに、大袈裟とも言える驚きを表現する凪を見ながら、帯刀はニヒルな笑みを浮かべて毛利に耳打ちした。



「お蔭でライバルが減って助かっている」



 アッサリ気持ちを認める帯刀の変化にも驚きを隠せないが、同時に牽制されたような気がして毛利は苦笑した。



(全く、どんだけ好きなんだか……まぁ、あの帯刀をここまで変えたのは樹神か)



 帯刀の氷を溶かす程に凪の方が強い。

 そして、早苗も凪と話をするようになってからは無理に明るくではなく、本当に楽しそうに話すようになった。

 毛利はこの先も色んな事がいい方に流れて行くように感じ、二人に微笑んだ。




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