第75話:鈍い女と悟った男
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翌日、帯刀は凪の病室に訪れて昨夜話し合った事を伝えた。
「……ミスコンですか」
難しそうに眉を寄せて呟く。やはり凪は自信がないらしい。
「そうだ。美しさと知性を競ってもらう。ん?自信ないのか?」
「正直なところ、知性はともかく美しさに自信が持てません」
お世辞にも自分は美人とはいえない。悪いわけでもないが、標準的な顔だ。それを自覚しているだけに戸惑いを隠せない。
そんな様子の凪に帯刀は派手に溜息を吐いた。
「確かに凪は美人とはいえないな。
だがな、内から滲み出る人格、笑顔、そして自信が人の美しさを作り上げるもんだ」
いくら造りが良くても性格が悪ければ醜い。笑顔が無ければ輝きは出ない。自信がなければ魅力的にはならない。
帯刀の持論ではあるが、間違いではないはずだ。
「……ですが、確かに優勝すれば皆さんに認めて貰えますね。
解りました。あたしに出来る最大限で挑みます。宜しくお願いします」
そう答えたものの、凪はまだ自信がないようだ。
「俺が精魂込めて凪らしい魅力を引き出すメイクをしてやる」
「あたしらしい、ですか?」
「そうだ。いつもの凪らしさが出る飛びきりのな。お前は充分美しい。それを自覚させてやる」
帯刀のセリフが終わらないうちに、ドアが激しく揺れた。
どうやら廊下に誰かいるらしい。
「どうぞ?」
凪がそう呼び掛けたが、ドアはいつまで経っても開かない。
凪の代わりに帯刀がドアを開けると、そこには顔を赤くさせた毛利がいた。
「あ、いや、明日退院すると、さ、早苗から聞いたので、見舞いに来たのだが……
すまん。まさか取り込み中とは思わなくてだな」
「取り込み中?いえ、特に何も取り込んでないですよ?」
キョトンとそう答える凪に、毛利は驚きのあまり口をあんぐりと開いた。
(取り込んでないって、今の帯刀の口調は愛しくて仕方ないと訴えてるかのようだったぞ!?)
思わず帯刀に目を向けると、彼も頷きながら苦笑した。
(明らかに判るのに、気付かないのか!?)
そうだとしたらかなり鈍い。
帯刀はかなり無愛想だから、これ程普段と違う表情を見せれば嫌でも普通は気付くはずだ。
それなのに普段通りの凪。そして、何かを悟っている帯刀。
毛利は溜息を吐きながらおよそ彼らしくない言葉を紡いだ。
「……樹神。実はお前はドSだったんだな」
「え!?き、急にどうしたんですか!?」
毛利らしくないセリフに、大袈裟とも言える驚きを表現する凪を見ながら、帯刀はニヒルな笑みを浮かべて毛利に耳打ちした。
「お蔭でライバルが減って助かっている」
アッサリ気持ちを認める帯刀の変化にも驚きを隠せないが、同時に牽制されたような気がして毛利は苦笑した。
(全く、どんだけ好きなんだか……まぁ、あの帯刀をここまで変えたのは樹神か)
帯刀の氷を溶かす程に凪の方が強い。
そして、早苗も凪と話をするようになってからは無理に明るくではなく、本当に楽しそうに話すようになった。
毛利はこの先も色んな事がいい方に流れて行くように感じ、二人に微笑んだ。




