第63話:屋上での会話
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冬休みが明け、学園は元の賑やかさを取り戻してあちらこちらでリフレッシュ気分の生徒達で溢れかえっていた。
そんな中、浩樹は伊藤を屋上に呼び出していた。
「こんなとこに呼び出して、何の用だよ?」
伊藤としては、浩樹が自分をこっそり屋上に呼び出すなんて嫌な予感しかしない。
よってかなり警戒しながら浩樹を観察していた。
「忙しい時期にすみません。実は先輩に伺いたい事がありまして」
そのセリフに伊藤は凪の事が頭に浮かび、即、拒否した。
「だ、ダメだダメだ!!樹神さんにはまだテニス部にいてもらうからな!
部費ならいくらでも譲歩するが、これだけは絶対に譲らないからな!!」
(コイツは大丈夫らしいな)
浩樹は苦笑しながら同時に安堵した。
正直面白くないが、どうやら伊藤は色々な意味で凪に熱を上げているらしい。
という事は、例えうまい話が転がり込んだとしても凪を狙ったり、ましてや学園を追放しかねないものに荷担しない筈だ。
浩樹はそう確信し、首を左右に振った。
「違います」
伊藤はそれを聞いて、胸を撫で下ろした。
「驚かせんなよ。じゃあ一体なんなんだ?」
「実は……最近、誰かに何か言われませんでしたか?生徒会について」
そう問われ、伊藤は首を傾げた。
「そんな事でこんな人気のないとこへ?」
真冬の冷たい海風に晒される屋上に人はまず来ない。
生徒会に関する事で、わざわざこんな所に呼び出す必要があるのだろうか?
訝しく思う伊藤だったが、浩樹の表情は硬い。
「こちらも生徒会の面子がありますので」
単細胞の伊藤なら、それで納得するだろうと思って用意したセリフだった。
もし、それで納得できなくても補足の言葉は用意していた。
「面子ねぇ。ふーん、お前等も大変なんだな」
(コイツ、本当に単細胞だな)
そもそも生徒会自体に興味がないからかも知れないが、間違いなく単細胞である。
呆れはするが手間も省ける事に安堵して、浩樹はもう一度伊藤に質問した。
「で、何か言われませんでしたか?対抗戦以降で」
伊藤は壁に寄り掛かり考え始めた。
浩樹は始めのうちは姿勢正しく立っていたが、あまりにも伊藤の考える時間が長過ぎて、苛立ってきた。
しかし、急かせるわけにはいかない。
急いでは相手を不快にさせ、必要な情報を得る機会を失いかねない。
浩樹は苛立ちを抑えようと、フェンスに寄り掛かり目を閉じた。
「……あっ」
ややあって伊藤の口から思い出したかのような声が洩れ、浩樹はフェンスから身体を離した。
「何か思い出しましたか?」
「水泳部の桂に生徒会に一泡吹かせようと誘われたなぁ」
「それで?」
「それが出来れば推薦が取れるらしい。この不景気で、実業団とかある企業の就職は困難になってるからな。まだ何も決まってない奴等にとっちゃ甘い誘惑だよな」
(それを決定できるのは理事会、校長、教頭だけだ。
校長は生徒の自主性を重んじる方だから、こんなキナ臭い事には関わらない。
と、なると……やはり、叔父さんなのか?)
いくら野心家とはいっても、将来ある生徒を利用するなんて考えたくない。
だが、帯刀が言っていた通りの展開になりつつある。
(やはり春宮一族はクズということか……)
浩樹は居たたまれない気持ちになった。
だが、その直後に出てきたのは意外な人物だった。
「なんでも学年主任の明智先生がそう言ってたんだとよ」
「明智先生!?」
いつも穏やかな笑みを崩さないおっとりした生徒に人気の教師、明智。
確かにサーバーの件でも彼の名が出てきたが、こんなキナ臭い事に加担するとは未だに信じる事が出来ず、頭が上手く回らない。
「……あ、明智先生だけですか?」
「俺が聞いたのはな」
そして更に何かを思い出し、伊藤は声を上げた。
「そうそう。何でも学園を正しい姿に生まれ変わらせるって言っていたなぁ。
あ、だとしたら黒幕がいるんじゃないのか?
俺の勘だと理事長が怪しいな。俺、顔見たことないしな。だって公式の場に顔を出さないってあまりにも変だろ?きっと悪い事企んでるんだぜ」
単細胞の割には勘がいい。
とはいえ、流石に理事長が可哀想なので、そこはちゃんとフォローを入れる事にした。
「今の学園を生徒会主体にしたのは、理事長自身ですからそれはありえません。
だが、黒幕の線は彼じゃないとしても考えられそうですね」
自分の推測が認められたのが嬉しかったのか、伊藤は上機嫌になった。
「だろ?大海原達がどうなろうが俺には関係ないけど、その事で樹神さんに万が一の事があったら大変だからな。また何かあったら報告するし、聞いてくれよ」
伊藤は胸を叩いてそう言った。
その姿は頼りになる先輩だが、実際はあまり頼りにはならないと感じている浩樹は苦笑しながら頷いた。
じ、時代背景が……すみません(;>_<;)




