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第62話:帯刀からの電話

 


 ☆



 夜になり、越智一家と瑞希の手料理に舌鼓を打ち、お風呂を頂いた凪は部屋に戻って携帯電話を手にした。

 ふと時間が気になって時計を見ると、22時を回っていた。



(流石に電話じゃ遅すぎるか……)



 メールを打ちながら凪は考える。

 恐らく教頭絡みで何かがあったのだろうと思うが、メールで帯刀が正直に返してくれる補償はない。

 何しろ当初は、『忘れろ』と言っていたくらいだ。



(やっぱりメールは止めて、明日電話しようかな)



 電話ならメールと違い、問い詰める事が出来る。

 そう思い直し、メールを閉じようとすると携帯がブルブルと震えだした。

 液晶画面には帯刀の名前が表示されていた。

 凪は慌てて通話ボタンを押すと、携帯電話を耳に当てた。



「遅くにすまない。今、話せるか?」



 帯刀の低く甘い声が耳の中へと流れ込む。



「だ、大丈夫です。

 丁度電話をかけるべきか明日にすべきか悩んでいたので」


「……俺は大概遅くまで起きているから気にせずかけて来い」



 言い方は突き放した彼の独特の口調。

 だが、「遅くまで」と敢えて時間を言わない。

 つまり、「何時でもかけたいときにかけていい」という意味だという事がよくわかる。

 凪はそんな帯刀の気遣いに胸が暖かくなりつつ、用件を聞いた。



「……いや、お前が何か聞きたいのではと思ったのだが」



 意外な言葉が返ってきた。

 どうやら凪が疑問に思っていた事を理解していたらしい。

 凪は深呼吸をして、帯刀に恐る恐る聞いてみた。



「しょ、正直に教えて下さるんですか?」



 電話の向こうで喉を鳴らして笑う音が聞こえる。



「正直に話さなきゃ勝手に動くだろう?それに俺はもう止めないと言った筈だ」



 と、いう事はやはり教頭の件らしい。

 凪は何故急に泊まるよう指示したのか、その理由を聞いた。



「教頭がお前に目をつけている。対抗試合の時の連中もな。

 お前をあのまま寮に置いていくのはあまりに危険だと判断し、越智の家に行かせた」


「……何故、あたしを?」



 この質問に呆れたらしく、派手な吐息が洩れている。



「お前が生徒会に来てから将来有望視されてる奴等がみんな変化した。お前が絆になって、バラバラだった個体が繋がったんだ」


「あたしにそんな力ないですよ」



 吃驚している凪に、帯刀が再び呆れた声を洩らした。



「自覚しろ、阿呆が。

 まぁいい。仮にお前にその自覚がないとしても、教頭から見ればそう見える。

 だからお前を狙っている。教頭は春宮一族だ。野望もある。

 よって、凪を自分の味方にするか若しくは危険因子とみなし、排除しようと動く可能性がある。

 だからお前を一人にさせるわけにはいかなかったんだ」



 本気で教頭がそう感じているとしたら、あまりに荒唐無稽な考えだ。

 凪はそう感じ、どっと疲れが身体を襲った。



「どうにも納得出来ないのですが、教頭は本気であたしをそんなふうに思ってるんですか?」


「ああ、間違いない」



 はっきり断言する帯刀にも納得出来ない凪だったが、どうやら帯刀は真剣に心配しているらしい。

 それに何事も起きなければ帯刀は安心できるだろうし、事実なら用心にこしたことはない。

 凪は深い溜息を洩らすと、帯刀に条件を付けた。



「……解りました。取り敢えず大人しくお世話になります。

 すが、これから先、何か情報が入ったら逐一教えて下さい。何も知らずに守られるだけという状態は断固拒否します」


「解っている」



「仕方のない奴」というニュアンスで帯刀が承諾すると、通話が切れる音がした。



 “ツーツー”



 そんな機械音が聞こえ、凪も携帯電話を手放してベッドに転がった。




(帯刀先輩、過剰に意識し過ぎな気がするんだけどな……)



 だが、帯刀となりに少しの油断もなく、慎重に事を進めようとしているのだろうと凪は思った。

 相手は春宮一族。

 下手を打ったら将来に影響する。

 自分が逆らう事で、危険な要因を増やすわけにはいかない。


 凪は再び吐息を洩らして、今は越智とフランクに話せるようになるという課題に取り組む事に集中する事にした。



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