第48話:嫉妬
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12月の冷たい風が凪の頬を撫でる。
東屋は会場から殆ど離れてはいないが、賑やかさは完全に消失しシンと静まり返っている。
越智は石造りの椅子に腰をかけると、凪を抱き寄せて自分の膝に座らせた。
「え?越智先輩!?」
凪が動揺するのにも構わず、越智は両手を彼女のウエストに回して動かないように固定すると、自分の頬を彼女の頭に乗せた。
「こうした方が冷えないだろ?」
確かに暖かい。越智の体温が背中から伝わる感じも心地よい。
だが、これでは自分は主人に抱かれるテディベアである。
凪は、恥ずかしさから越智に離れるよう言おうと顔を後ろに向けようとしたが、それは越智に制された。
「あたしを見ないでくれ。見られたくない顔してるから、今」
耳元近くで聞こえる声があまりにも切なげで、凪は抵抗を止めて越智に身を預けた。
「越智先輩?どうされたんですか?」
大人しく身体を預けることにした凪だったが、いつもと違う越智の様子が気になった。
越智はバツが悪そうに、でも正直に話し出した。
「いや、実は馨についてなんだが……」
凪は黙って次を待った。
「その、アイツの家、小さい頃に色々あってさ、それですっかり人間嫌いになったんだよ。
でも、あたしにだけは心を開いてくれていてさ……なのに数年前から急に壁が出来たんだよ」
越智から吐息が洩れる。
「表向きは変わらない。
いつもあたしの傍にいてくれるし、あたしを呼ぶ時だけ『静香』と下の名前を呼んでくれる。だけど、あたしが更に近付こうとすると、距離を置こうとするんだ。
人間がまた嫌いになったのかとも思ったんだけどさ、アイツ、凪の事名前で呼ぶようになったろ?だからそういう訳じゃない。
なのにあたしとは距離を置く。何故なんだ?
それが理解出来ないんだ」
辛そうに言う、越智に凪は首を傾げた。
「あたしには紫藤先輩が越智先輩を避けているようには見えないのですが……?」
「いや、避けてるんだ!」
強い口調でそう言われ、凪の身体がピクンと跳ねた。
「だってそうだろ!?
馨はあたしと踊ったりしない。凪と踊ってる馨、スッゴク幸せそうだった。
沢山話して、凪が頷く度に更に嬉しそうに話してさ……
馨のあんな笑顔、あたしは何年も見てない。
……たぶん、数年前にアイツはあたしを見限ったんだ。ただ、馨にとってあたしやあたしの家は恩人だから別れを言い出せずにいて、更にこの学校に入る時にも借りが出来たと思っているから余計言い出せないに違いないんだ。
だとしたら、あたしはこの先、どうした方がいいと思う?」
沈黙が流れる。
越智は凪の頭に顔を埋めたまま、動かない。
ただ、沈黙が辛いのか、それとも凪の返答が怖いのか、両腕が震え、凪にその振動が伝わっていた。
しかし、「どう思う?」と聞かれても、何に対してどう思ったらいいのか分からないだけに返答も出来ない。
(紫藤先輩が越智先輩を避けるという事はまず、有り得ない。
そもそも越智先輩はいつからそう感じるようになったのか?)
越智は「数年前から」と言っていたが、そう感じたのは数年前ではない。
それは自信を持って言える。
キーワードは、『凪』。
自分の名前だ。
紫藤が『凪さん』と呼ぶ度に、越智は悲しんでいるような喜んでいるような、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
そして、凪を連れ出した時も何故か紫藤に断りを入れた。
それだけじゃない。
いつも冗談ぽく『お嬢ちゃん』と呼んでいたのに、『凪』と呼んだ。
冗談を言える余裕がなかったからのように凪には感じた。
と、なると避けられてると感じたのは、紫藤が凪と踊っているのを見た時。
紫藤の笑顔を見て、自分がその笑顔を見たのはいつか?と考えた。
それで『数年前』が、出てきた。
そして、自分に向けられる事はもうないのでは?と考えるようになった。
それが、見捨てられたという結論に至ったらしい。
(と、いうことはつまり……)
「越智先輩は嫉妬されたんですね」
本日2話目です




